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2010年12月31日金曜日

(映) 独裁者 The Great Dictator (1940) ☆☆☆☆

Charlie Chaplin初のトーキー映画。ヒトラーのナチズムをパロディにした危険なコメディ映画です。

数年前に買ったDVDですが、漸く見ることに成功しました。
大戦後に公開されたものだとばかり思い込んでましたが、しっかり戦時中に公開されています。(そしてヒトラーもこの映画を見たことがあるようです。ちなみにチャップリンとヒトラーは誕生日がたった4日しか違わないらしい。同い年だったのですね)

白黒映画ですが、「映画というものが好きでよかった」と思える映画愛に溢れた作品です。今年は映画を数本しか見ませんでしたが、最後の締めがこの作品でよかった。


***
今年も多くの患者さんと、同僚と、先輩方々と後輩方々と、手術部の看護師の方々、外科医の先生方には大変お世話になりました。電車内で居眠り中の私の鞄や財布を盗まなかった人、私の乗った電車・飛行機・バスを安全に運転してくださった方々、またはそれらに追突してこなかった方々、私の食べ物に致死性の毒物を入れなかった人、庶民レベルでの「日本円」の価値をそれ程変化させなかったことに尽力してくださった人、電気・ガス・水道のライフラインの維持に関わった全ての人、その他挙げればキリがありませんが、本当に1年間ありがとうございました。

(雑) 部外者は口をだすことすらできないのです(其の二)

平成21年の警察庁の調査では小中高校生の自殺者は306人だということです。

本日の新聞第1面によると
「子供の自殺に歯止めをかけるため、小中学校や高校の授業に自殺予防教育を導入することを文部科学省が検討している」
とあり、記事を読むと
「予防教育は、自殺について深く考えさせること、相談機関や医療機関の情報を知らせることが柱。ひどく落ち込んだときには誰かに相談し、友達から『死にたい』と打ち明けられたら信頼できる大人に伝えるといった対策を教える」
とあります。

***
小中高生の自殺の主因はいじめです。

「いじめの構造 なぜ人が怪物になるのか」(内藤朝雄著)によると
いじめの加害者は、いじめの対象にも、喜びや悲しみがあり、彼(彼女)自身の世界を生きているのだ、ということを承知しているからこそ、その他者の存在をまるごと踏みにじり抹殺しようとする。いじめ加害者は、自己の手によって思いのままに壊されていく被害者の悲痛のなかから、(思いどおりにならないはずの)他者を思いどおりにする全能の自己を生きようとする。このような欲望のひな型を、加害者は前もって有しており、それが殴られて顔をゆがめるといった被害者の悲痛によって、現実化される。(P.77-78)

このようないじめが繰り返され、死ぬこと以外に救いがなくなり、自殺に至ると私は想像します。だとすると上記の提言「ひどく落ち込んだときには誰かに相談」という項目は、いじめに耐え続ける自殺予備軍状態の子供に対して、「誰かに相談する」という、いじめれている子供に対して更なる努力を求めた暴言のように思えます。
一日中ベタベタと共同生活することを強いられ、心理的な距離を強制的に縮めさせられ、さまざまなかかわりあいを強制的に運命づけられる「過酷な政治空間」である学校(p164)において、自殺予防教育にどれ程の効果があるのでしょうか。
友達から『死にたい』と打ち明けられたら信頼できる大人に伝えるといった対策を教える」
とは即ち、「オマエちくっただろ」と言われてその子供もいじめの標的になるということです。私には「信頼できる大人が『なに!それはたいへんだ!』と何らかのリアクションを起こしていじめ問題をなくそうと躍起になって周りの大人たちを上手く巻き込んで解決しましたとさ、めでたしめでたし」、というストーリーよりよっぽど納得しやすい話です。それどころかその正義感でいっぱいになった大人も、その学校コミュニティーの一員であれば、何らかの形で村八分的な制裁を食わされる可能性が高そうです。

凄惨ないじめでも自殺の報道でもテレビで流れていれば、「可哀相」という一定の同情を短時間示すだけ。次のチャンネルにかえて、お笑い番組で笑うのが一般的な人々の反応です。「いじめは悪いこと」なんて一般論として子供も大人も皆知っています。自分の所属するコミュニティでいじめ問題があっても「自分の子供は関係ない」ということであれば、自分や自分の子供が次の標的になるリスクを背負って、いじめ問題解決に奮闘する、という構図は私にはとっても想像し難いです。

***
個々の自殺の事例に関しては、私が何をいう資格もありません。亡くなった子供たちが、それまで歩んだ物語を私は全く知らないし、それに想像力を働かせるのも困難です。ですから適当なことを語る気はありません。私に見えるのは、メディアというフィルターを通し、誰かに加工された情報だけです。

そしてその情報は「子供が自殺をした、いじめがあった、校長の責任だ、担任の責任だ。」という報道です。伝える側も分かりやすいし、見ているほうも分かりやすい物語です。
私がそのような報道に接するたびに感じるのは、
「この報道を見ている自殺寸前状態にある子供が、この報道が自殺を達成する後押しとなる可能性についてはどうなのだろう」
ということです。
そのような状態にある子供が、自殺を成し遂げた子供の報道をテレビやネットニュースで見て、「死ぬとこういう風に報道されるのか、いじめていた側や学校側がこういう風に言うのか、私が死んだときにもこういう風に、テレビを見ている人みなが私がいじめれられていたことを知ってくれるのか」という気持ちになり、報道によって死への大きな一歩を踏み出す原動力を得たりはしないのでしょうか?

***
内藤朝雄氏の提言どおり、「一般社会でやったら犯罪として逮捕されることを、学校社会でも同様に適応する」方に、役人の方々の努力を向けた方が自殺者数は減るような気がします。

(音) 2010年に聴いた曲のまとめ

最もよく聴いた11曲です。もしくは魅力を再発見した曲。
この他にもいっぱいありましたが、今年は充実していました。

曲名/アーティスト名 (アルバム/発表年) の順。
・New Jerusalem / Orphaned Land (The never ending way of Orwarrior / 2010)
・Lost in Life / Sirenia (The 13th floor / 2009)
・Na Na Na (Na Na Na Na Na Na Na Na Na) / My Chemical Romance (Danger Days: The True Lives of the Fabulous Killjoys /2010)
・Who is Mr. Madman? / Helloween (7 sinners /2010)
・VINUSHKA / DIR EN GREY (UROBOLOS /2008)
・Gateways / Dimmu Borgir (Abrahadabra /2010)
・Orchestral Fantasia / 水樹奈々 (GREAT ACTIVITY /2007)
・Shape / Sugababes (Overloaded /2006)
・Die Young / Black Sabbath (Heaven and Hell /1980)
・死んだ女の子 / 元ちとせ+坂本龍一 (Orient /2005)
・Sisters / Pain of Salvation (Road Salt One /2010)

2010年12月30日木曜日

(映) グラン・トリノ Gran Torino (2008) ☆☆☆☆

久しぶりに映画を見ました。
友人が薦められてくれていたにも拘らず、しばらく放置してしまいました。

愛妻に先立たれ、息子たちともきちんとコミュニケーションをとれない、朝鮮戦争帰りの人種差別主義者で頑固者の老人の物語です。
「超・字幕」で英語と日本語の字幕を同時に追っていたため物語に没入できていたかは不明ですが、非常に有意義な時間になりました。


1番印象的な場面は、主演のクリント・イーストウッドが息子に電話するところ。
話したいことがあるのに、本題に入れずうじうじしている。

そのうちに
「...so if you there's not something pressing...」
と仕事が忙しい息子に(特に急ぎの用がないならあとにしてくれよと)言われ
「No. No, not at all」
と、自分の容態が思わしくないことすら、息子に上手く打ち明けられない。
血痰を吐くほど具合が悪いのに、です。

クリント・イーストウッド自身が歌うエンディング曲がはまりすぎているのはよいのですが、劇中、悪いやつらの登場シーンはなぜかヒップホップが流れてくる。このように使われるヒップホップという音楽に同情してしまいました。(まぁメタルも似たような扱われ方をしますが)

2010年12月29日水曜日

(雑) 部外者は口をだすことすらできないのです

呼ばれない当直のときほど、仕事が進む場面はありません。

***
大学生の就職難がメディアでよく取り上げられています。
何十社も就職試験を受けるなんていうことを聞くと、私がその立場だったら確かに生きているのも嫌になりそうです。
毎日受け続けても数ヶ月かかるわけですよね?しかも企業ってそれぞれ目標とか理念とか求めている人材とか違うわけでしょうし。学生さんはそれぞれに合わせて毎回試験対策して受け続けるのでしょうか?凄まじい気力が要求されます。試験を受け続ける根性を何か1つの研究テーマにだけ費やせば、偉業が達成されるに違いありません。
致命的なミスを侵さない限り、職業の安定が保障されている私のようなものの視点からは、大学生の就職難という問題について何を申し上げても「上から目線」とか言われる可能性が高いです。それこそ「格差社会の弊害を語っているのが、実は金持ちばかり」と批判される様に。
ですので、言いたいことには9割方口を噤むことにします。
就活の時間が十分取れないからと言う理由で、大好きな学問をするために英国への短期留学を辞めてしまう学生さん、というのを以前テレビで見ましたが、本当に本末転倒だと思います。

数だけで言えば大企業の倍率が非常に高いだけで、中小企業はむしろ企業が学生を集めるために必死になっている、という図式が成立しているようです。
そして、その統計から「中小企業にこそ就職のチャンスあり」といって学生さんに葉っぱかける専門家の方々はいますけど、個々の学生さんからすればやっぱり大企業に就職したい人が多い。倍率が高いけど、大企業がいい。中小企業は就職しやすいかもしれない。でも中小企業に内定して就職したとしても、何をやっている会社なのかいちいち人に聞かれるたびに「~~~という部品の国内シェアナンバーワンの企業です」という説明をするのは面倒くさいし、格好悪い。親の受けも悪い。親の受けが悪いからといって内定を辞退する学生もいるという。そんな事態を受けて、中小企業は親に対して就職説明会を開催していたりする。私には意味の分からない世界です。一般的に医者は世間知らずと言われているから、世間のそんな動向が、私には分からないのでしょうか。

そもそも大企業志向なのはなぜなのか?ということを考えてみたいのですが、安定した収入、肩書きの他に「楽しても上に上がれるような気がする」ということにあるんじゃないかと思います。それなりに先人が築いたキャリアアップのための道筋ができていて、それに乗っかって努力すれば上にいけるという甘い見通しがあるんじゃないでしょうか。上に上がるのには血が出るくらいの努力が必要でしょうが、その努力の向け方の青写真があるかないかというのは、努力が日常化している人にとっては雲泥の差です。青写真があれば、努力を苦と思わないような人には至って楽な道のりでしょうから。本当に大変なのは「どのように努力したらいいかわからない」ともがいている第一線の研究者のような人たちです。

しかし、日本の新卒採用に海外からの留学生を受ける枠はどんどん広がっているし、いまや英語ができるだけではさっぱりアドバンテージになりません。留学生は英語を生きるためのスキルとして身につけているし、彼らは「プラスアルファ」の特技を持っていることが多いですから。
将来の安定が約束されていそうだから、或いは大企業のほうがチャンスが多そうだから、という妄想で大企業を選択する人は今や少数派と思いますが(おそらく親世代が大量にリストラにあっているのを見ているでしょうし)、分相応の人生戦略を考え直したほうがいいように私も妄想します。
内定をもらえる学生はそれこそ何社からももらえると聞きます。ということは何十社も落ちるような学生さんが、就職留年なりして入社できたとしても、その何社からも内定をもらえるような企業が求める優秀な人材たちに出世の道を取られる可能性が非常に高いです。そのような環境で業績をあげないとならない過酷なストレス下で仕事をし続けることが安定した生活を指すとは私には思えません。

とりあえず、日本に生きていると、ほとんどの方々が屋根のある暖かい部屋に住むことができて、食事もきちんととることができる。就職活動のための塾やセミナーに通うためのお金を親に払ってもらうことができる。新卒じゃないと就職に不利になるからと言って就職留年のための大学の授業料費用100万円以上を肩代わりしてもらうことができる。 それって十分幸せで恵まれていることだと思います。
曽野綾子氏の「貧困の風景」を読んでからNHKの討論番組を見ていたらそんなことを不遜にも考えてしまいました。しかし、貧困は住む世界ごとに定義が変わるので、就職できずに苦しんでいる人々には非常に同情いたします。私がそのような方々にできるとしたら、彼らが急病を患い手術が必要になったときに、必要な麻酔の処置を行うことだけです。

***
そんな就職難に見舞われた大学生に使えるかどうかは分かりませんが、「街場の大学論」に興味をひくことが書いてありました。


大学院生の面接も、学生の社会的成熟度を見るという点では、就職試験と少しも変わらない。私がビジネスマンだった場合にその学生が来年四月から来る「新入社員」として使えるかどうか、それを基準に私は院生を査定している。「使える」というのは何か特殊な才能や技術を「すでに」有しているということにではない。
「まだ知らないこと」を「すぐに習得する」ことができるかどうかである。学部教育程度で身につける学術的な知識情報のほとんどは「現場」では使いものにならない。
だから学部教育が無意味だというようなことを言っているのではない。見なければいけないのは、大学でその知識情報を身につけるときにどのような「ブレークスルー」を経験したか、である。
(途中略)この知識技術を身につけておくと「金になる」とか「就職に有利」とか「偉そうにできる」というような幼児的な動機で勉強している学生は、どれほど努力しても、それこそ体が壊れるほど勉強しても、それによっていかなるブレークスルーも経験することがない。(p201-202)


就職活動が大変すぎて、大学で何を教わる暇があるのか、私にはよく分かりません。
その点、医学生は非常に恵まれています。「就職できないかも」と心配することはないでしょうし、自由時間の相当の部分を学問に割くことができるのですから。

2010年12月26日日曜日

(本) KAGEROU ― 齋藤智裕

Amazonのレヴューで大炎上していたので、逆に興味をもって読んでみました。

話の内容はファンタジーです。作中の人物はどこかで聞いたような一般論としての「世界や人生の不条理」に対して批判的なことを随所で語ります。辟易する人には辟易する描写かもしれません。また例え(~のように)の表現も多く、文章が逐一しつこく感じられる、というのも一理あります。
これがプロ(ここでは、私がこのブログに書いているような、無料の玉石混交~主に石~の情報の垂れ流しではなく、それを発表することで生計が成り立つだけの収入が得られるかどうか、を取りあえずの「プロ」と定義します)の作品かどうかと言われると微妙ではあります。

ですが。
最後のページまでページをめくり続けさせる力があったという点においては、私は本書を評価したいと思います。つまらないお話であれば、最後のページまで読めません。もっとも私の評価などどうでもよいでしょうけれど。10000文字(原稿用紙25枚程度)の論文ですら、書き上げるのに数ヶ月かかる私には、このように商業ベースに乗せられる作品を、大きな破綻なく書き上げることだけで尊敬に値します。(破綻してるって。という批判をする人は、作品に対する愛が足りない人です。医師として読むと一般常識的には破綻だらけですが、小説が事実の羅列であれば、私は読みたくありません。手回しの人工心臓のくだりとかその他色々突っ込みどころがあって楽しめます)。
「著者が容姿の優れた俳優という肩書きがあったからとれた賞なんじゃないか」とか、「大賞を取って2000万円の賞金に値する価値があるのか」とか。そういう批判だったらいくらでもできます。他に批判する対象は、いまの世の中いくらでもあるような気がします。

適切なブラッシュアップによってさらによい作品が生み出されることを、私はひそかに期待したいと思います。

2010年12月25日土曜日

(走) Training in Rena (其の八十七-八)

23th・・・3km(23min, 8km/h, 傾斜6-9)
25th・・・3km(23min, 8km/h, 傾斜6-9)
total distance: 649.0km (Oct 66.6km, Nov 52.2km, Dec 42.2km)
total time: 4029min = 67h09m

2010年12月24日金曜日

(本) 2010年に読んだ本のまとめ

特に順番には意味はありません。読んだ本の内容はさておき300冊/年を達成できたのは、300冊を目標としたからでしょう。

1.論語物語 / 下村湖人
2.マイナス思考法講座 プラス思考をやめれば人生はうまくいく / ココロ社
3.街場の現代思想 / 内田樹
4.喜嶋先生の静かな世界 / 森博嗣
5.走ることについて語るときに僕の語ること / 村上春樹
6.スピード・オブ・トラスト / スティーブン・M・R・コヴィー
7.残念な人の仕事法 / 山崎将志
8.目に見えないもの / 湯川秀樹
9.犠牲 / 柳田邦男
10.組織行動の「まずい!!」学 / 樋口晴彦
11.老いの才覚 / 曽野綾子

今年は「自分の想像力がいかに限定されたものか」をよく知ることができた年でした。この本の一覧に日本語で書かれた本しかないということもその1つです。自分の知らないものには想像力をはたらかすことすら出来ないということを自覚するだけでも、私にとっては大いなる進歩でした。

2010年12月20日月曜日

(走) Training in Rena (其の八十三~六)

ハーフマラソン以降の記録。右膝の調子をみつつ。
2km(10min )3km(20min )3km(22min)2km(15min, 傾斜6-9) 
total distance: 643.0km (Oct 66.6km, Nov 52.2km, Dec 36.2km)
total time: 3983min = 66h23m

そういえば11月下旬から歩数計をポケットに忍ばせて歩いています。
4週間ほど使用してみました。ランニング日は1万歩は軽く超えますが、それ以外の日では8,000歩程度の日が多いことがわかりました。
自分がファーストの麻酔担当医として麻酔をかける日はおよそ7000-9000歩。
逆に
・2件以上の麻酔の指導を行うような日
・インチャージ(手術室の麻酔全体を監督する仕事)の日
・当直日で夕方の時点で数件の全身麻酔が残っているような日
には有意に多く、12000-15000歩くらい稼げます。私が落ち着きなく動いているせいもあるのかもしれませんが。健康のためには毎日でもインチャージや当直をやるとよいようです。その場合、精神的に相当疲弊しそうですが。

2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと88日)

2010年12月17日金曜日

(本) 書いて生きていくプロ文章論 ― 上阪徹

書く、発表する、伝える。そんなさまざまなアウトプットのヒントが書かれている本です。ライターがどのようなことに気を遣って書いているのか、その一端を垣間見ることができます。

・文章を書く前に、誰に向けての文章なのか、できるだけ具体的にイメージしてみてください。その瞬間に、使う言葉やトーンがすぐに浮かんでくるはずです。そうすれば、文章はずっと書きやすくなります。ターゲットは、自分で作ればいいのです。(p.33)
・数字をうまく使って程度を理解してもらう。(51)
・形容詞は使わない。数字や事実を意識する。それだけで文章は変わっていきます(51)
・走ることは人生に似ている、と書いた作家の方がおられましたが、私は走ることは仕事に似ている、と思ったのです。 別に3周走ることは義務ではないのです。2周でやめてもいいし、途中で歩いてもいい。簡単です。でも、最後まで苦しいけれどあきらめず、止まらず、走り抜いたとき、なんともいえない達成感と心地よさが広がるのでした。これはまさに仕事と同じだと思いました。途中で「これでいいかな」「もういいんじゃないか」と思いつつ、やっぱりもうちょっと粘ってみようと考えてみる。(315-6)

***
敬意や信頼感を得るためには「相手が感謝すること」を相手にも見える形で誤解がないように働きかけることが必要です。意図してごまをすったり演技をするということではありません。私はあなたを気にきにかけているのですよ、ということを、自分が心の中で思っているレベルまで、言動で相手に伝えることが大事ということです。
心の中で思いやることはできるでしょう。ただし、その思いやることを相手に積極的に伝えることは人との生活や仕事において、とても大切なことではないでしょうか。それが感謝でもお小言でも。
文字は一人歩きするので、話し言葉以上に思いやりの心が必要だということを、本書で再確認しました。

2010年12月14日火曜日

(麻) i-Gel

大学院入試の願書をようやく提出。入学試験に必要な書類を集めるのがこんなに面倒だと感じたことは、未だかつてありませんでした。

***
i-Gel memo
・ラテックスフリー
・大きめの方がフィットしやすい
・#3:30ー60kg、#4:50ー90kg、#5:90kg以上 (#4で問題ないことが多い)
・コネクタの気管内チューブ対応内径
 #3:6.0mm, #4:7.0mm, #5:8.0mm
・胃管は#3、4は12Fr, #5は14Frまで

しばらく前から私の職場でも使用可能でしたが、興味がなかったわけではなく、適切な患者さんの麻酔を担当する機会がなかったので、初体験がのびのびになっていました。しかも、自分で挿入するより先に指導する方が先なんて、第三者からみたら言語道断かもしれませんが、事実なのだから仕方ないのです。玄人に尋ねても「いれればいいんだよ。誰でも入る」と言われてしまう始末。
幸いにして初体験はジャストフィット。非常によい麻酔管理ができました。
その後、何度か自分でも使用してみましたが、確かにLMAより簡単な気がします。カフを何ml入れればいいかと悩まなくてよいところがいいです。患者さんの口の中に手を入れなくても挿入可能なのに、ついつい習慣で口の中に手を突っ込んでしまいそうになる自分がいます。

2010年12月13日月曜日

(本) "させていただき"たがる私たち

今日は
「バカ丁寧化する日本語 敬語コミュニケーションの行方 - 野口恵子」
です。
著者は複数の大学で日本語とフランス語を教える教育者のようです。本書の著者同様、「させていただく」に違和感が多い私。

硬膜外麻酔を施行するときに
「お背中を消毒"させていただき"ますね~」と、患者さんに声をかけたり
外科医への術前の麻酔科コンサルトに
「予定通り全身麻酔で管理させていただきます」という返信文書を書いたり
患者さんに服を脱いでもらうときに
「お着物取ら"させていただき"ますね~」という、ナースの方々の言葉に
いつももやもやしているのです。

患者さんや目上の医師に対して無礼を働いてはならないという無意識が、彼らをそのような言葉遣いに仕向けるのでしょう。ですが、果たして本当に相手に敬意をもって使っているのか疑問です。

本書の全5章のうち、まるまる1章(p17-63)が「させていただく」の違和感について割かれています。
著者によると
「させていただく」は本来、私が何かをする。それはあなたが許可してくれたからだ、そのことを私はありがたいと思っている、という意味を込めて使われるものだ(p24)

ということです。それを「このテレビ局のアナウンサーを5年やらせていただき大変感謝しております」のようなコメントを、テレビでアナウンサーが視聴者に向けてするのはおかしいといいます。視聴者がそのアナウンサーに"許可を与えた"わけではないからというわけです。
確かに著者の主張には非常に共感できますが、敬語のレパートリーが少ない私は、時々「させていただきます」に逃げてしまいます。

私が本書を読んで思うのは「させていただく」に「このように不快感を感じる人」がいるということです。それを認識し、その不快感によって不利益を被る覚悟があるのであれば「させていただく」を多用してもよいのではないのかもしれません。

しかし、本書のハイライトは第5章「変わるコミュニケーション」です。言葉について語っているはずの本書が、この章では言葉を通して現代社会のマナーの悪さについて言及しています。

***
・硬直した決まり文句には、想像力の入り込む余地がない。一人一人が自分の頭で考えようとしても、マニュアルがそれを阻止してしまうかのようだ。(193)
・技術の完成されるのはそれが技術たることを止めるときのみである。この時に無技巧の完成が存し、人間の奥底の誠実がおのずから現れるが、これが茶の湯における「敬」の意味である。敬は、それゆえ、心の誠実か、単純さである。ー鈴木大拙「禅と日本文化」(北川桃雄訳)(218)
・高齢の女性が、「ペースメーカーを入れているので、電源を切ってもらえますか」と一人一人に頼んでいるのを見たことがある。言われたほうは素直に応じるか、または場所を移動するかしていたが、駅でメンバーの入れ替えがあるたびに、女性は同じ言葉を繰り返さなければならなかった。これはもう、鉄道会社の力の及ぶところではない。携帯電話は全機種にマナーモードの機能が備わっているが、人間にはその機能が「標準搭載」されていないということなのだろう。(220)
・この人物を、常識がない、マナーを知らない、と非難するのは簡単だ。(221)
・この人に欠けているのは、マナーを守ろうという意思もさることながら、想像力だ。周りを観察することをせず、自分を客観視できない。収集した情報に基づいて自分の頭で考えることをしない。したがって、的確な判断が下せない。よって行動を改めることもできない。その結果、周りの人に迷惑をかけ、人から冷たい視線を浴びせられ、同行者にも気まずい思いをさせることになる。しかし、本人は全く気がついていない。(221-2)
・他者に敬意を払うというのは、気づくことから始まる。(略)・・・たとえ普段は敬老精神のある若者だったとしても、観察力がないと、非常識な人間というレッテルを貼られる恐れがある。(222)
・東南アジアから来た一人の学生の母国では、たった今強盗を働いてきたような人間でも、老人に席を譲るという。(224)
・親しい人にはひっきりなしに謝るのに、なぜ他人に対しては何も言わないのか(229)
***

どんな言葉を吐き出すにしても、想像力が欠如した言葉は相手に届かないのです。それが医師にとっての決まり文句の「お大事にしてください」だとしても、場面や口調、相手の置かれている状況を意識して使わないと、元気な患者さんはもとより、本当に大事にしてほしい患者さんには尚のこと伝わらないでしょう。

2010年12月12日日曜日

(麻) 脳死臓器移植関係メモ

脳死が私に接近した一件で、私が感じた違和感を少しでも解明してみようと、真剣に考えてみました。不自由な私は、人が考え、つづったものを拠り所にしないと、思考の幅を広げることもおぼつかないのです。

「命は誰のものか」(香川知晶著)によると脳死という死は臓器移植ありきの概念だったという歴史を知ることができます。

「犠牲」(柳田邦男著)は息子の脳死に向き合った記録を作品化したものですが、外勤先に行く電車の中で読むには、かなり重い内容でした。医療を提供する側になると、医療を受ける側の思考法を忘れがちになります。だから医療を受ける側から書かれた作品を読むのは、自分の仕事を見つめなおす意味で、非常に大切な経験となりました。

<以下「犠牲」より引用>
・現代人の死は、しばしば個人の営みの範囲で終わることなく、それ自体の中に社会的な意味がこめられている(p21)
・語りたきことなどありと思えども友と並べばただ黙すのみ(123)
・「提供者が医療に参加するのを医師が手伝う」(145)
・死にゆく者の命も、臓器移植を待つ者の命も、等価であるはずなのに、脳死・臓器移植論のなかでは、死にゆく者の命=患者・家族全体を包む精神的ないのちのかけがえのない大切さに対しては、臓器移植を待つ者の命の千分の一の顧慮も払われていないからだ。(148)
・救命できない場合でも、医療者には大事な仕事があるはずです。(199)
・indestructibility(破壊し得ないこと)(208)
・人間の心はわからないところがある。つまり物語らないとわからないところがある、と私は思うのです。(河合隼雄他「河合隼雄その多様な世界」岩波書店)(240)
・「いのちの唯一の目的は成長することにある」(286)
***

以下は専門医試験対策としてのまとめ。実技試験で「じゃあ脳死判定して下さい」なんて言われたりして。

脳死関連
・1997年に臓器の移植に関する法律施行、2010年改定
・1999年に第1例目が施行

* 2010年改訂の変更点
(1) 年齢
改正:12週未満(在胎週数が40週未満であった者にあっては、出産予定日から起算して12週未満)の者。12週未満は脳波における信頼性がない。(生後12週以上では脳死判定ができ、臓器提供が法律上可能になった。)
(2)体温
直腸温32度未満の場合、脳死判定から除外されていた
改正:6歳以上はこれまでどおり。6歳未満の小児では35℃未満の場合、脳死判定の除外条件
(3) 血圧
旧法:血圧90mmHg未満は脳死判定から除外
改正:1歳未満は65mmHg、1歳以上13歳未満は(年齢×2+65)mmHg、13歳以上は90mmHg未満の血圧が脳死判定から除外される条件となった。
(4) 脳死判定間隔
6歳以上は、これまでどおり最初の脳死判定から6時間以降に2回目の判定が行われるが、6歳未満においては24時間以降に2回目の判定を行うことになった。

@概念
・脊髄レベルでの制御機構が機能する
・副腎皮質放出ホルモンや成長ホルモン放出ホルモンが副腎髄質、消化管、膵臓に分布していて視床下部以外の由来もある
@判定医
・脳神経外科、神経内科、救急医、麻酔科、集中治療医で学会専門医または学会認定医の有資格者
・脳死判定に関し豊富な経験を有するもの
・臓器移植に関わらないもの
@必須条件から ・・・1~3が満たされない場合は判定を開始しないこと
1.前提条件を完全に満たす
・器質的脳障害で深昏睡か無呼吸
・原疾患の確実な診断
・回復の可能性が全くないと判断されること
2.確実な除外診断
3.生命徴候の確認
・体温:深部温32度を超えること
・血圧:sBPが90mmHg以上
・心電図:重篤な不整脈がないこと
4.必須事項の確認
 ・深昏睡
 ・瞳孔径4mm以上、瞳孔固定
 ・消失する脳幹反射(①対光反射②角膜反射③眼球頭反射(人形の目反射)④眼球前庭反射(カロリック反射)⑤咽頭反射⑥咳嗽反射⑦毛様脊髄反射)
 ・平坦脳波(聴性脳幹反応の消失は必須ではないが確認が望ましい。少なくとも4導出の同時記録を単極導出および双極導出で行う。つまり電極は8誘導以上。 46A95)
 ・無呼吸テスト

@無呼吸テスト:下部脳幹機能としての自発呼吸の有無を確認する検査。CSFpHの低下で刺激される
・PaCO2 20mmHgの変化でCSF pHが正常(7.32-36)から7.18以下になり、呼吸中枢に対して強力な刺激となる。
・PaCO2 80mmHgまで直線的に上昇、以後増加程度は減少。150mmHgがピーク。95mmHgを超えると中枢抑制作用が出現。
・目標PaCO2レベルは60mmHg。80mmHgまでの上昇にとどめるのが望ましい。(アシドーシスで循環に影響を与えるため)
・体温が高い方がPaCO2は上昇しやすい(38-9℃で6mmHg/min以上)

@ドナー管理の注意点と呼吸・循環モニターの目安
・脱水を避ける
・尿崩症(6割程度の患者に合併) :血中の抗利尿ホルモンのレベルの低下 →高Na血症と低K血症が起こるので4ml/kg/hを超えるようならADH 1-2U/hで投与検討
・神経原性肺水腫:酸素化低下
・sBP100mmHg(MAP≧70mmHg)
・尿量:100ml/h (1-1.5ml/kg/h)
・Hb濃度:10g/dl
・CVP 5-10mmHg
・ScvO2 ≧ 60%
・CI ≧ 2.4L/min/m2
・SVR 800-1200dynes・s/cm5
・呼吸器:VT 8ml/kg, PEEP 5-15cmH2O, PIP ≦ 30cmH2O
・SpO2 > 95%,  酸素分圧(PO2):100mmHg程度
*その他の脳死に関連する知識

・ステロイド(メチルプレドニゾロン1g程度)で移植臓器の抗炎症、酸素化改善、肺血管外水分量減少などが期待できる。ただし、インスリン分泌低下による高血糖と相まって血糖コントロールが不良になるので、血糖値を適正に管理する必要あり

@昇圧薬 ・ノルアドレナリン(NE)、アドレナリン、ピトレシン:慎重投与。
 NE≧0.05γは予後増悪の可能性あり。
・ドパミン、ドブタミン:15γ未満がよい。可能な限り少なく。
・PDEIII投与は臓器提供の適否に影響しない
・感染がある場合は当該臓器の提供は禁忌

@手順
・カニューレを挿入。ヘパリン2-3万単位を投与
・非脱分極性筋弛緩薬を投与
・摘出順:心臓→肺→肝臓→膵臓/脾臓→腎臓→小腸→リンパ節→腸骨動静脈→腕頭動脈→内頚動静脈
・肺摘出時は 吸入酸素40%以下(可能なら)、摘出までは換気を継続する
・低血圧時には昇圧薬より輸液を優先。膠質液を投与する → 外科とコミュニケーションが重要
・選択すべき昇圧薬は一般にドパミン
・脳死患者の徐脈はアトロピンに反応しない(Miller日本語p1738)ため、イソプロテレノールを準備。フェニレフリンによる徐脈も起こらない。
・鎮痛は必要ない。が、血行動態安定のために吸麻や麻薬が使われることもあり
・筋弛緩薬は使用する(脊髄を介する反射経路が維持されている場合がある)

***

脳死を判定する立場としては、目の前の患者さんは三人称で語るべきなのでしょうが、二人称としての脳死患者さんに接することができれば、私は自分自身が満足できそうです。

・法的脳死判定マニュアル
http://www.jotnw.or.jp/jotnw/law_manual/law5.html

2010年12月5日日曜日

(走) Training outside (其の八十一と八十二) ~ いたばしリバーサイドハーフマラソン

2ヶ月半ぶり、今年2度目のハーフマラソンです。
都営三田線「西台」という駅から会場まで15分ほど歩きます。
荒川河川敷にある会場の設営はしっかりなされています。更衣室も荷物置き場もあります。貴重品もA4程度のビニール袋を渡されますので、それを持っていけば預かってくれます。
ただ仮設男子トイレが長蛇の列になっていましたので、トイレは早めの利用がよいかもしれません(仮設トイレの近くに公園のトイレを運よく発見してしまったので、私はそちらを使いましたが)。

非常に天気は良好。道はほぼ平坦。
6kmあたりを過ぎると建設中のスカーツリーも遠方に見えました。
10km過ぎの折り返し地点でのタイムは48分。非常に順調。
練習不足の割にいいペースでした。このままいけると思いました。

今回私が走れたのは17km過ぎまで。17km地点は85分で通過しました。
しかし突然走れなくなったのです。吐き気と左大腿のハムストリングス、前脛骨筋の痛みとともに足が止まりました。走る直前まで読んでいた「夜と霧」のどんな過酷な場面を思い返しても、樺太で大戦を過ごしだ祖父を慮っても、何に思いを馳せても、足は走ることをやめてしまいました。

その後歩いた4km弱。一体何百人に走り去られたことか。

喪失感と屈辱でいっぱいになりながらゴールしました。多くのランナーに抜かされることよりも、走ることを止めてしまった足に対して悲しい気持ちになりました。
歩いても制限時間内にゴールできるような場所まで走れていたのは不幸中の幸いでした。

今後、マラソンの道半ばで歩いている人の気持ちにちょっとだけ想像力を使えるようになった、貴重な経験となりました。
練習不足だったのは確かですが、それだけで今回の結果になったとは思えません。3ヵ月後のフルマラソンへ大きな不安を残した今年最後の公式大会となりました。

Saturday 5.2km 34min (9.1km/h, 11℃)
Sunday 21.095km 2h06m56s (10-15℃)
total distance: 633.0km (Oct 66.6km, Nov 52.2km, Dec 26.2km)
total time: 3916min = 65h16m

2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと105日)

2010年12月4日土曜日

(音) モーツァルトのレクイエム

を聴きに教会にいってきました。
同じ映画は何回も見ませんが、「アマデウス」は何故か1年に1回くらいは見てしまいます。

ジュスマイアー版のムーティ指揮のものを聴きなれてしまっていた私には、今日聴いたアレンジはいささかテンポが速く軽いものに感じられました。
とはいえ、生で聴くLacrimosaには背筋がぞくぞくしました。

2010年12月3日金曜日

(本) 人を助けるとはどういうことか ― エドガー・H・シャイン

・支援を申し出たり、与えたり、受け入れたりする前に、自分の感情と意図をよく調べること
・支援しようという努力が快く受け入れられなくても、腹を立てないこと。(p.235)
・支援を求める人は気まずい思いをしているということを思い出そう。だからクライアントの本当の望みは何か、どうすれば最高の支援ができるかを必ず尋ねること。(p.236)
・純粋な問いかけからつねに始めるべきである。(p.244)

上記はほんの一握りですが、この本は、その題名どおり「人を助ける」ということに纏(まつ)わる諸問題が様々な角度から論じられています。

先日読んだ「イシューからはじめよ」にも書いてありましたが、私がリスクマネージャとして日々、麻酔に関連した色々なインシデント事案から学ぶのは「一次情報を大事にせよ」ということです。当事者以外から情報を聞いてからインシデント事案の現場に行くと、とるべき行動の判断に非常にノイズが入るのです。可能な限りニュートラルな状態で事案に接しなくてはならない場面において、興味本位の第三者の情報には、有害なノイズが含まれている可能性があるということを意識していた方がよいことがあります(有害というのは提供される情報自体が、ではなく、あくまでも私がとりたい公正な判断に対して、です)。そのようなことをつらつらと考えさせられた1週間でした。

2010年11月28日日曜日

(走) Training outside (其の八十)

いつの間にかハーフマラソンが1週間後に迫っています。あまりに練習不足だったので、直前になって焦っています。銀杏の葉も大分散ってしまいました。

15.7km 92min (10.2km/h, 13℃)
total distance: 606.8km (Sep 48.5km, Oct 66.6km, Nov 52.2km)
total time: 3755min = 62h35m

12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと7日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと112日)

今日のペースを保持すれば目標としては2時間6分程度が順当なところでしょうか。いずれにせよ、風邪を引かずに完走できれば万々歳です。

2010年11月27日土曜日

(本) イシューからはじめよ 知的生産の「シンプルな本質」 ― 安宅和人

著者はヤフーのCOO(Chief Operating Officer)室室長を勤める方です。

題名を読むなり私は「隗より始めよ」という故事を思い出しますが、本書の内容は全くそれとは関係ありません。(因みに・・・中国の戦国時代に郭隗が燕の昭王に対して、賢者を招くためには、まず自分のようにさほど優秀でないものを優遇せよ、と進言した故事から・・・遠大な事をなす時は、まず卑近な事から始めよ。転じて、物事は、まず言い出した者が着手すべき・・・の意です)

友人に「メニューのないバー」というアダルトな場所に連れて行ってもらった帰りに、ほろ酔いのところで手にとったのですが、本書の白と黒のシンプルな装丁が気にいり購入。今着手している仕事で書きたいことが上手く書けないという苦しみにいます。その状態から開放されるための、何らかの手助けにならないかと手にとったというわけです。

本書のメッセージは「何に答えを出すべきなのか、についてブレることなく活動に取り組むことがカギなのだ」です。
本書におけるissueの定義(p25)は以下の2つです。
1) a matter that is in dispute between two or more parties
  (2つ以上の集団の間で決着のついていない問題)
2) a vital or unsettled matter
    (根本に関わる、もしくは白黒はっきりしていない問題)

そのissueを意識し、そこにいたる道筋(ストーリー)、問題を徹底的に考えてから、仕事や論文、プレゼンテーションをまとめることを開始する~という手法について、事細かに解説しています。問題が与えられたときにいきなり動き始めるのではなく、「何がissueなのか、ゴールはどこなのか」を逃げることなくしっかり意識してから、物事を進めることの重要性を説いています。プロフェッショナルと呼ばれる仕事をしたい人に対して。

本書では、限界まで働くことや、頑張ってるんだからいいじゃないか、というような甘ったるい考えは徹底的に排除されています。それは「労働者(laborer)」の思想だと断言しています。一読しただけでは本書の内容を十分理解することはできませんでしたが、仕事に対する何らかのパラダイムシフトが起こることは間違いないと思いました。(できる人達はとっくに実践している手法なのかもしれませんが)

2010年11月23日火曜日

(麻) takotsubo cardiomyopathy(たこつぼ型心筋症)

1990-91年に初めて日本で報告されたこの疾患は、私にはあまり縁がありません。apical ballooning cardiomyopathyやstress-induced cardiomyopathyともいうようです。本疾患に対してはド素人の私が何故無知をさらけ出す恥を承知で書くかといいますと、麻酔専門医認定筆記試験47C44-45に出題されていたからです。それなりに知識を整理しておかなくてはなりません。

診断基準としてはUpToDateによると
The following are the proposed Mayo Clinic diagnostic criteria, all four of which are required for the diagnosis :
•Transient hypokinesis, akinesis or dyskinesis of the left ventricular mid segments with or without apical involvement. The regional wall motion abnormalities typically extend beyond a single epicardial coronary distribution. A stressful trigger is often, but not always present.
•Absence of obstructive coronary disease or angiographic evidence of acute plaque rupture.
•New electrocardiographic abnormalities (either ST-segment elevation and/or T wave inversion) or modest elevation in cardiac troponin.
•Absence of pheochromocytoma or myocarditis.

だそうです。(参考文献として・・・Systematic review: transient left ventricular apical ballooning: a syndrome that mimics ST-segment elevation myocardial infarction. Ann Intern Med 2004 Dec 7;141(11):858-65.)

@覚えておく知識
・病院死亡率は2%程度。通常1-4週でもとの心機能に改善
・70歳以上女性に多い
・AMIに類似した胸部症状や心電図変化。トロポニンTも陽性に。
・左室心尖部を中心とした広範な収縮低下と心基部の過剰収縮。
・冠動脈は異常なし。左室壁運動異常は冠動脈支配域に不一致。
・収縮異常は通常数日~数週で改善する

JAMA(2011; 306: 277-286)の前向き7施設256人の解析によれば
・平均年齢:69歳
・女性:89%(227例),閉経後女性:81%(207例)、50歳以下の女性:20例(8%)
・男性:11%
・来院前の48時間以内に重大なストレス事象あり患者:71%(182例)
 ・心理的ストレス:30%
 ・身体的ストレス:41%
・来院時の心電図異常:87%
・冠動脈造影:193例(75%)の冠動脈が健康
・CMR画像:全例に左室心尖部のバルーン状拡張と中等度~重度の左室機能低下あり。(MTpro 2011年9月1日(VOL.44 NO.35) p.01より引用)

@治療
・前負荷・後負荷の軽減
・重度の心不全やショックの時には左室内圧較差の存在にも注意(たこつぼ型心筋症の13-18%程度にLVOTOを合併~UpToDateより)。その際はカテコラミン使用注意。βブロッカーやACE阻害薬、適切な輸液で治療。フェニレフリンも有用かもしれないが、冠攣縮等に注意。
・冠拡張薬は無効
・LVOTOがなければドパミンやドブタミンを使う。重症例ではIABPの使用を考慮(短報として・・・麻酔 53: 799-803, 2004)

***
たこつぼ型心筋症の原因として外科手術やSAHなどもあるようです。術中発症のたこつぼ型心筋症には遭遇したくもありませんが、術中に原因不明に低血圧で頻脈になったりしたらTEEを使って診断する必要があるのかもしれません。でも、SAHの手術中には口からTEEのプローベを入れられませんし、入れたくもありません。
今宵の当直帯にそのような患者さんが来ないことを祈るばかりです。
 
色々調べた後にwikipedia(英語の方)を読んでみたら相当詳しく書いてありました。inotropeで治療に難渋したらIABPを使うことを考慮くらい書いてあります。しかも、たこつぼ型の左室造影画像まで掲載されています。日本語の「ウィキペディア」には英語程の情報がなかった(あくまで今日現在ですが)ことから、日本語のみによる情報収集が如何に心許ないものかを改めて知らしめてくれる一件でした。
 
なんでこの疾患が「たこつぼ型」というかを万が一、留学生に聴かれたときの為に
「The name of the disorder is taken from the Japanese name for an octopus trap (tako-tsubo), which has a shape that is similar to the apical ballooning configuration of the LV in systole in the "typical" form of this disorder.」

2010年11月22日月曜日

(麻) べーたぶろっか (麻酔と)

Variations in Pharmacology of ß-Blockers May Contribute to Heterogeneous Results in Trials of Perioperative ß-Blockade. Anesthesiology. 113(3):585-592, September 2010.

bisoprolol (メインテート) やbetaxolol (ケルロング) 、atenolol (テノーミン)に比べるとmetoprolol (セロケン)はβ1選択的な遮断作用が弱いです。
これまで色々なスタディで周術期βブロッカーの有用性について論じられてきましたが、スタディによって使われている薬剤が異なります。これらを解析するとβ1選択的阻害作用が強い薬剤の方が脳卒中等の合併症が低く(?)、予後がよいようです。ということで、臨床においては「βブロッカー」という把握ではなく「何というβブロッカー」を内服しているか、に気をつける必要があるようです。
術前に突然始められたβブロッカーは予後を改善しない(むしろ悪くなる?)というのは、既に抄読会で何度か聴いているので、常識として覚えておいてもよさそうです。

忘れないように記しておくと、propranolol (インデラル)はβ1選択的遮断薬ではありません。

2010年11月21日日曜日

(本) SIX WORDS たった6語の物語 ― スミスマガジン編集(翻訳:越前敏弥)

これは英単語6語の物語集です。英語版川柳です。
メタル愛聴家の私としては

Lived life, playing metal, went deaf. (ヘビメタ人生を送り、難聴になる。) (p.9)

なんかがとても気に入りました。
そして自分でも作ってみました。

Surrounded by difficulties, wanna keep standing.

これも30代の抱負としてみようかと思います。

(走) Training outside (其の七十八~九) と (本) 終末期患者からの3つのメッセージ ― 大津秀一

Saturday: 6.8km 33min (12.3km/h, 13℃)
Sunday: 8.6km 48min (10.7km/h, 14℃)
total distance: 591.1km (Sep 48.5km, Oct 66.6km, Nov 36.5km)
total time: 3663min = 61h03m

12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと15日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと120日)

***
ようやく、来年の5月の麻酔科学会総会に出す演題の抄録を作り上げることが出来ました。これも偏に指導してくださった先生方のおかげです。

医師として社会と繋がりを持てていることは幸せなことだと思いますが、それでもこの数年のうちに変化していった感覚がたくさんあります。よいものもよくないものも。

医師や看護師が、自分より50年は長く生きていると思われる患者さんに対してかける言葉に以下のようなものがあります。
「~~さん、~~ですからね~~あぶないですよ~」
私は学生の頃、この声かけに対して異常な違和感を感じていました。仮にも人生の大先輩にあたるような人に対して子供に注意するような、小馬鹿にしたような口調で注意をするとは何と言うことだろう、と。私のこの感覚は今日に至るまでくすぶり続けていますが、自分でもそれに類した声かけをしていることに気づいた時には、人知れず反省します。

想像するに緩和医療に携わっている医師たちは、私より何百倍も「言葉の内に込められた力」に思いを馳せている筈です。そのような医師が、「1000人以上の患者さんがこの世を去る」お手伝いをしているうちに日々考え、紡ぎだした言葉は、私の胸にも迫るものがありました。

・自分が偉いから上手くいっているのではなく、運がたまたま味方しているだけだというのを意識するのは重要である。(115)
・「多くの人が、仕事がいやだとか、苦しいとか言っているのをよく聞きますが、自分とすれば、働けるということ、今日も生きていたということが、うれしくてうれしくて、当時人の三倍は働きました」(153)
・私は緩和医療医だが、それがゆえに言葉を選ぶ。毎日薄氷を踏むような思いでもある。どんな言葉にも思いが込められていなければ、ものを聴く時間が限られている患者さんたちには辛いことであろう。(158)
・ほとんどの人は空の下に住んでいながら、星をながめようともしない。(179)

自分の想像力の限界を感じながらも、その想像力の先にある世界に謙虚に思いを馳せながら生きていきたいと考え、30代の始まりとしたいと思います。

2010年11月20日土曜日

(本) 目に見えないもの ― 湯川秀樹


奈良で買った本の1冊です。旅行に行っていなかったらこのタイミングで読んでいませんでした。

著者は私が物心つく前、恐らく二本足でようやく歩き始めるか否かの頃に亡くなっています。ということで、私にとって著者は歴史上の人物であり、遠い存在でした。本書を読むまでは。

本書の初版は1946年、昭和21年ということです。ノーベル物理学賞を受賞したのが1949年ですからその3年前。著者39歳の頃までに考えていたことが本書に表れています。

第一たいした業績もないのに、「苦心」などとはまことにおこがましいことである。(p75)
学問することの喜びがこの頃はことさら身にしみて感ぜられる。くる日もくる日も研究生活を続けていけるということは、「喜び」などというにはもったいない。(p85)

に代表されるように、本書は一貫して非常に謙虚な姿勢で書かれています。まさにこの点において、私は本書や著者を尊敬するに至りました。

2010年11月18日木曜日

(雑) 歯科のこと (其の四)

当直明けは歯医者通いです。
右上大臼歯(7番)はちょっと重症なので、二期的工事が必要との事。今回は歯型をとり、仮設住宅状態のままに帰宅となりました。次回きちんと詰めると言うことで。

***
最近出版された
「すぐに役立つ!医学英語論文読み方のコツ」(編纂:大井静雄、メジカルビュー社)
は論文を読むだけでなく、これから書こうと言う人にも非常にエールとなる書だと思いました。

2010年11月14日日曜日

(走) ねりま光が丘ロードレース-5kmの部 (其の七十七)

ランニング:5.0km、21分49秒 (9:50-10:12)
計575.7km (9月 48.5km, 10月 66.6km, 11月 21.1km)  
総時間3582分=59時間42分

5km走での大会出場は2回目。前回4月のなまずの里マラソン時より1分18秒タイムを短縮することが出来ました。
それはそれでよいのですが、スタート開始0.7kmほどで右足シューズの紐が解けてしまい、「結びなおそうかどうしようか」をずっと考えながら走ることになりました。10-20km以上のランニングだったら間違いなく結びなおしますが、結びなおす数10秒でタイムが大きく変わってくる今回の5kmレースでは判断に非常に迷いました。結局走れそうだったので、解けたままいってしまいましたが。
そのほかの反省点としては、スタート地点が狭く、並ぶのが遅くなったことが致命的となったことです。開始2~3分は団子状態で、自分のペースで走れなかったことは次回この大会に参加する場合には反省点としたいです。

・早めに並ぶ
・靴紐はしっかり結ぶ

練習不足はタイムに反映されませんでしたが、走後の疲労感に大きく影響しました。

12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと21日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと126日)

2010年11月13日土曜日

(麻) 圧や輸液に関連した講習会

「周術期の輸液」(克誠堂出版)は、私が麻酔科医になってからの3.5年の間に読んだ中で、非常に感銘を受けた麻酔科専門書の1つです。その本の分担執筆をされている先生の講演を受けられたのは、非常に幸運なことでした。

@PACに関連して
・PAPの立ち上がりはRA圧の立ち上がりより50ms程先行する
・PAWPのa波(左房収縮)は心電図R波の後に現れる
・PA楔入まで通常は深くて55cm
・PA破裂は0.02-0.2%
・左房拡張障害でa波増高
・Severe MR時はカテの進めすぎ注意。圧波形だけみているとPA ruptureするかも。
・過剰楔入時アーチファクトに注意。、心筋虚血アーチファクト
・VO2:安静時250mlO2/min
・酸素摂取率O2ER:22~30%

@fluid strategy
<1つの投与例>
・Crystalloid: 6ml/kg/h程度
・Urine 1ml/hr切ったらcolloid 250ml/15minをbolus
<tips>
・安易に晶質液を入れない
・漫然と輸液を入れない
・組織内浮腫を最小限にするように意識する
・必要時に膠質液を。
・3rd spaceは晶質液投与によって作られる面がある
・必要な輸液は、量も大事だが、必要となる「タイミング」に投与すべき

玉石混交のいろいろな情報がwebで無料で得られるような時代ですが、「その道のプロ」の英知や労力、情熱の詰まった講習を受けられることは、非常にありがたいことです。このような講習会に価値があると思う点は、「しかるべきフィルターを通して、信頼できる(可能性が高い)情報が無駄なく、提示してもらえること」です。
以前私は、講習を受ける際には、スライドで提示される表やグラフそれ自体に「ふふ~ん、なるほど~」と思って感銘を受けて聴いていましたが、曲がりなりにも自分の手で書くようになってくると、「表の出所となる論文は何なのか」とか、「こういうフロー(発表の流れ)にすれば説得力のあるプレゼンテーションができるのか」とか、色々考えてしまいます。ともあれ、自分が興味がある分野ですら、知らないことが多すぎるという現実に直面すると、謙虚にならざるを得ません。(況や自分のよく知らない分野をや、です。)
経験の浅い臨床家である私は、粛々と勉強するに限ります。

今日は非常に勉強になりました。
・スライドはフローが大事(個々に素晴らしくても、つながりが希薄なら理解しにくくなる)
・スライドに必ずしも文字情報は多くいらない
・Miller's anesthesiaを読もう

2010年11月12日金曜日

(走) Training outside (其の七十六)

いつの間にか次のレース直前でした。夕方はまだ寒くないのですが、日没が早くて困ります。

ランニング:5.8km、21分33秒?
計570.7km (9月 48.5km, 10月 66.6km, 11月 16.1km)  
総時間3560分=59時間20分

11月5km: ねりま光が丘ロードレース(あと2日)
12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと23日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと128日)



2010年11月10日水曜日

(旅) Nara (day 2)

宿泊した宿で自転車の無料レンタルサービスがありました。利用しない手はありません。日の出とともに東大寺(二月堂)に向けて出発です。

6:00。
自転車で街を東に進むと、ゆる~い上り坂になっていることに気づきます。昨日歩いているときには全然気にならなかったのですが。今こそ日頃のトレーニングの成果を発揮するときです。張り切ってママチャリのペダルをこぎまくります。街中には、同じように「あさでら」が目的であろう観光客がちらほら。中にはランナーもいます。外国人ランナーもいます。流石です。
南大門前に駐輪場があることはチェック済みでしたので、そこからは歩いて二月堂に向かいます。

二月堂から

朝焼けを眺めることが出来ました。

***
二月堂から朝焼けを眺めることが出来たので、もう旅の目的の8割方を達成してしまいました。
そのため「ならまち」に行く予定はありませんでした。結局足を伸ばそうと思ったのは、南インド系辛口カレー屋さん「タリカロ」(JR奈良駅から徒歩10分ちょっと)で、カレーを待っている最中に読んだ童話

「ならまち大冒険 まんとくんと小さな陰陽師」 (著:寮美千子、イラスト:クロガネジンザ)

に影響されたからです。本書が観光客に「奈良に興味をもたせること」を目的としているならば、その目的は十分達成されています。因みにこのお店のカレーは非常においしかったです。「辛口」は私には辛すぎましたので、今度もし食べることがあれば中辛以下にしたいと思います。開店を待って訪れた甲斐がありました。あと完全にインドっぽい装飾の店内にも関わらず、BGMが70年代ハードロック(洋楽)だったのも高ポイントです。それにしても「食べログ」って本当に便利です。こういうときに真価を発揮するんですね。

話は戻りますが、上記書物の中で「ならまち」の中に元興寺(がんごうじ)というお寺があると書かれています。元興寺の五重大塔は高さ24丈(72m)であったといいます。興福寺の五重塔が高さ50.8m、京都の東寺の五重塔が54.8mですから、その伝説が本当であれば、今も残っていたならば木造の塔としてはダントツ日本一です。安政六年(1859年)には東側の民家の火災とともに消失してしまったそうで、今はこのように跡しかありません。


ところで、「ならまち」界隈は女性が好むと思われるお洒落なカフェや雑貨屋が多くあります(OZ
magazineが取り上げそうな、という説明でイメージがつきますでしょうか?)。もし奈良の仏像に全く、全く、全く興味がなかったとしても、非常に楽しめる町だと思います。
近くにある「もちいどのセンター街」も小さなお店が並ぶ、非常に活気のある商店街です。その中に溶け込んでいる全く商売っ気のない古書店で文庫本を購入してしまいました。

***
そして大仏です。朝訪れた際に拝まなかったのは、拝観時間が8時からのためです。
朝とは比べ物にならないくらい境内に観光客が溢れています。

私はといえば昨晩読んだ「とつぜん会社が英語になったら…」(宮永國子著)にいよいよ追い込まれてiPodで「The World of Anesthesiology Podcast」の「Keep it simple Dude, RSII & TEE」のトラックを聴きまくります。何回か聴いてようやく何となく内容が分かってきました。RSIIに何の鎮静薬をファーストチョイスにするか?etomidateだと?それは日本じゃ使えないよ。



人生で拝むのは2回目ですが、矢張りでかい。そして閉館間近を狙ってきたにも関わらず修学旅行生が多いこと多いこと!しかし、これだけ学生さんがいれば、「中高生で1回観て、その後何十年かして大仏リピーターになるくらい奈良が好きになる」って人も出てくるかもしれません。こういうのは「よくわかんないけど取り敢えず体験してみる」ってのが、案外大事なのかも。

その後に訪れた国立博物館の「正倉院展」も閉館間近にも関わらず人の多いこと!完全に作戦失敗しました。でも、かの有名な「道鏡」の直筆サインを見れただけでも幸せいっぱいでした。それにしても昔の公人の字というのはなぜそろいもそろってああも達筆なのでしょうか。現代よりも何百倍も「文字が書き手の身分や教養を表す」世の中だったのでしょう。 (11/12記載)

(映) エイリアン(1979年)☆☆☆☆

何度目か忘れましたが、久しぶりに見ました。
H・R・ギーガーの本を書店で見かけたので、懐かしくなったのです。
公開当時に大スクリーンで「腹壁を破って産声を上げるエイリアン」を目撃した人はさぞや驚愕なさったことでしょう。私もリアルタイムで経験したかったようなそうでないような。
その理論でいくと、現在においても「1-2世代後の人たちから、リアルタイムで経験したことを羨ましがられるような事柄」があるのかもしれません。

(雑) 努力家で思いやりがある、って?

奈良2日目。

「大学医学部が、面接や内申書を今以上に重視するなど、医師としての適性にも目を向けて生徒を選んでいただきたいと、切に願う」

という意見が、新聞(1日800万部弱発行されているもの)に掲載されていました(旅先で暇なので読んでみたのです)。しかもその投稿は「教育者」からです。
他にも自分の意見を新聞に投稿してくる読者はたくさんいる筈、ですが、その何倍だか分からない競争倍率を勝ち残り、このような主張が掲載されるのです。このような意見が紙面に載るということは、多分に新聞製作者の意図が含まれているだろうこと、そして恐らく新聞の紙面を作る者も、上記意見に賛同するところがあるだろうこと、が想像できます。

記事によると、この意見の根底にあるのは、
「ペーパー試験の成績があと一歩足りなくて、医学部に合格できない。努力家で他人思いの性格。だからそのあたりの比重をもう少し重くして合否判定を・・・」
ということのようです。

私が危惧するのは、上記投稿者が
「医師としての適性」という言葉に、「ペーパー試験に合格できる能力」が含まれていないと考えているのではないか
という点です。

私は、「ペーパー試験以上に公平な試験はない」と思っています。それは私が医学部の入学試験に合格したことがあるからいうのではありません。非常に短時間のうちに、多くの受験生の努力の量と能力を計測することができるから、これまで長いこと使われてきたのだと思っています。それ以上に素晴らしく、多くの人が認めるような方法が考案されなかったからこれだけの歴史があるのだと思います。
努力家と言うのであれば、現在の入学試験はペーパー試験重視で合否判定が行われているのですから、それに対応した適切な対策をとり、彼/彼女の優れた適性であるところの「努力」を思う存分発揮すればいいのです。ペーパー試験は適切な努力を適切に行うことで評価されます。「努力家であること」が優れた素質で、そこを十分評価されずに医学部入学試験に失敗していると思うのであれば、教育者ならば、それを医学部合格レベルに引き上げるべきではないでしょうか。
そして、上記意見には看過できない重大な前提があります。「努力家で他人思いの私の教え子」を差し置いて医学部に合格している受験生たちは「目の前の教え子より他人思いでない」と、上記意見表明者が考えていることです。そうでなければ「入学試験の制度が変わることで、努力家で他人思いの私の生徒」が合格できるのでは、と考える筈はありません。「努力家で他人思いの性質をもつ私の教え子」は、「他人を思いやる性質の劣ったその他の受験生」に負けて試験に落ちた、という仮定があると思わざるをえません。
しかし、いったい誰が

・医学部合格者は思いやりに欠けること
・努力家で他人思いで心優しいが、受験に失敗した教え子」が「合格した受験生」より他人思いであること

を証明し、そのように採点できるのでしょうか。上記意見を述べる者が、「私が病院にかかると、私の訴えを聴いてくれない医師があまりにも多い」から、そう思うのでしょうか。

「他人思い」という性質を入学試験の面接官や高校教師が判断することが、客観的評価となりうるでしょうか。または、採点者たちが「この人は思いやりがある。医師に向いている」と判断するに足るだけの人間観察能力や、人格を備えているか、をどうやって誰が判定するのでしょうか。

私は思いやりを否定するつもりは全くありません。他人を思いやることができるのは医師という仕事をするにあたって重要な力だと思っています。

しかし、思いやりが大事、なんていうことは、サービス業に携わる全ての人に当て嵌まることです。ホテルのフロントマンは、宿泊者が何を求めているか慮る必要があるし、美容師はどのように髪を整えれば客が喜ぶか慮る必要があります。むしろ病める患者を相手にする医師より、体が病気でない健康な人たち相手に仕事をしている方々の方が大変だと考えられます。彼らは自分たちが行っているサービスに、顧客が満足しなければそれで終わり。次は利用してもらえません。医師の仕事は患者の病態もあるし、満足のいく回復が得られなくても、それは病気が進行していました、現在の医療レベルではこれしかできません等で落ち着くべきところに落ち着く可能性があるからです。(だからといって治療を適当にやるとか、そういうことを言っているのではありません。誤解しないで下さい。改めて書くまでもありませんが、人は死ぬものです)

思いやりだけで、目の前でショック状態に陥っている患者は救えません。
思いやりだけで、正確な薬剤投与量は計算できません。
思いやりだけで、鑑別診断を思い描き、より正しい診断にたどり着くことは出来ません。

それが社会的に許されないと言うことは、昨今の医療訴訟問題が十分示しているところです。「想定されることに対して、少なくともそれが疑われる時点で最良の行為を行わないと、後から罰せられることがいくらでもあり得る」という事実に、きちんと真正面から向き合っていれば分かることです。ましてや新聞に投稿する人は、日々様々な医療事故問題を紙面で読んでいる筈です。
私が高校教師や予備校講師であれば、能力が足りない学生に対して「かわいそう、残念だったね。もっとあなたの人間性が評価されれば医学部に入れただろうに」とは考えません。その得体の知れない「他人を思いやる人間性」とやらが評価され、医学部に合格し医師になっても、診断や治療を十分に行うだけの論理的能力がちょっと劣っていたことで、医師免許を剥奪されるかもしれない人間を作り出したくないからです。そしてその後ろには、その医師に当たってしまった不幸な患者が存在してしまうのです。

より物事を単純化すれば「ちょっと冷たい感じがするけど、診断や治療が的確で、”いわゆる”治してくれる」医師と「人柄は優しいけれど、診断が違ってました。だから治療もちょっと間違ってます。お陰で手遅れになりました」という医師では、どちらがより患者さんや社会に選ばれるでしょうか。
多くの国民が前者を選ぶであろう事は想像に難くありません。知識の暗記や論理的能力は、間違いなく、臨床医として必要不可欠な能力ですし、それが劣っていて落ち度があれば、医師免許を剥奪されるのです。

ましてや、医師は臨床だけやっていればというわけではありません。今日の医療の発展は、研究に尽力した素晴らしい数多の医師たちによるところが非常に大きいのです。論理的能力がなれれば研究はできません。

思いやりは医学部合格への前提でしょう。そして「彼/彼女が思いやりの人物か」について責任を持って意見できるのは、その受験生を育ててきた親くらいではないでしょうか。

入学試験の方法をよりよいものにしたい、という意見は非常に大事です。ですが、その前提となる考えが、あまりに情緒的すぎる気がします。私が知る限りにおいて、ともに働く医師たちの中に「あまりに思いやりに欠ける」と思えるような人は、街の中で見かけるその他多くの人々よりも決して多くはないと思います。
というような意見をいう資格があるほど、私が「他人におもいやりがあるかどうかを判断し、それを口に出す資格があるかどうか」は、この文章を読むだけではわからないでしょ?
だから冒頭の意見に「そうだ、そうだ、全くその通り」と納得いたしかねるのです。私が危惧するのは、冒頭の意見を新聞で読んで「全くその通り」だと暗に同調する人が800万部/日の新聞の読者の何%かに出てくるだろう事、またこのような意見の掲載にゴーサインを出すマスメディア関係者がいるということです。(掲載目的が、私のように反論する人間が出てくるのを誘っているのであるとすれば、してやったりなのでしょうけれど)

少なくとも医師の私は、自分が患者として受診する場合には、より正しく病態を突き止めようとする、論理的思考をもつ医師に見てもらいたいと考えます。

まぁペーパー試験は論理的思考を担保していないかもしれませんが・・・。

(雑) 「The Cove」の太地町

訪れていなかったらずっと他人事であっただろう、和歌山県太地町のイルカ漁。
今日の「THE DAILY YOMIURI」のトップ記事になっていました。
港内に設けられたイルカのいけすの網を切られたり、漁の様子をずっとシーシェパードのメンバーらに監視され続けたりしているようです。
60代の漁師が"[We've been] labeled as evil around the world."とコメントしているように、アカデミー賞を受賞したドキュメンタリー映画が、人口3500人の町の生活を困難なものにしています。
私はイルカ肉を食べたことがありませんが、「イルカを殺すのが残酷」という主張で、網を切る理論には素直に賛同できません。漁師の方々は遊びでイルカを殺しているのではないでしょうし。それとも諸外国による"日本いじめ"の一環でしょうか?

2010年11月9日火曜日

(旅) Nara (day 1)

バスにトイレはありませんでしたが、きちんとサービスエリアに立ち寄る「トイレ休憩時間」がありました。夜中12時に「海老名サービスエリア」でトイレに行ったのは初めてです。周りに同じような長距離バスやトラックが何10台も停まっていてびっくりしました。
バスが再出発した後、何度も寝ようと試みましたが、腰が痛くて上手く寝付けません。どこでも眠れるのが自分の数少ない特技だと思っていましたが、甘かったようです。まだまだ知らない世界があります。
そうこう言いながらも、いつの間にか意識を失っていて、気が付いたときには6時頃でしたから、それなりに眠ったようです。バスの中で眠れるように、当直明けに走っておいたのが効いたのかもしれません。

夜行バスに乗ること10時間弱。7時45分にJR奈良駅前に到着です。ちょっと寒い。

「春日山から飛火野辺り」というさだまさし「まほろば」の歌詞を初めて聴いてから既に8年は経ったでしょうか。その歌詞の世界をこの目で見たいと思い、遂に念願叶って奈良までやってきました。
今回はあちこちに行きません。奈良市、しかも奈良駅の東側限定です。よくよく考えたら中学の修学旅行は「奈良京都2泊3日」という無謀なものでした。「奈良公園、大仏、次は清水寺、三十三間堂、はい、自由時間は~~時までね、では解散!」みたいなことをやられては、何も記憶に残りません。少なくとも私の修学旅行の思い出は「鹿がいっぱいいたこと」と「大仏でけ~」だけです。他は全く記憶にないです。

8時過ぎにJR奈良駅を出発です。今日の旅のコンセプトは「自分の足で歩く」。(吉田さらさ著-奈良 寺あそび、仏像ばなし  の「奈良に行ったらとにかく歩こう」(p13)に影響されてのことです)
JR奈良駅から春日大社の「一の鳥居」まで1.5kmです。その先の「二の鳥居」まで更に1.2km。その後は春日大社内の神社をぐるぐる回ります。
春日大社(若宮~夫婦大國社~宗像神社~紀伊神社~大宮~一言主神社~水谷神社)


そしていよいよメインイベントである春日山原始林内に足を踏み入れます。
水谷神社から春日山原始林の遊歩道(山道)をひたすら登ります。

途中で杖をついた高齢男性に抜かされます。尋常でない速さです。
およそ2.5km登ると若草山山頂に到達。私の足では40分かかりました。空気がひんやりしていてダウンジャケットで丁度良いくらい涼しい。山頂からは奈良市が一望できます。
山頂まで行って大人しく下山すればよかったのでしょうが、マップを見ると奥に「春日山周遊道路」なるものがあります。ということで更にずんずん進むことに。
若草山から鶯の滝まで40分。殆ど歩行者に出会わなくなります。
そこから春日山石窟仏~首切地蔵(柳生十兵衛の弟子、荒木又右衛門が試し切りをしたという伝説の地蔵)まで更に30分。 
そして「滝坂の道」をどんどん下ります(道はありますが、石畳になっていたりぬかるんでいたりして、お世辞にも歩きやすいとはいえない状態です)

「夕日観音」前を通過


上を見上げてよくよく観察すると・・・


観音様が彫られております。

飛鳥中前に出てようやく下山です。

下山した後は志賀直哉旧居前、ささやきの小径、二の鳥居、興福寺と歩を進めます。

平地、神社の境内、山道、石畳の道、ぬかるんだ道、道なき道。気が付くと5時間位歩きっぱなしになっていました。アスファルトとは何と歩きやすいものか。日常生活では得られない感動を得ることができました。

そういえば興福寺(藤原氏の氏寺)の国宝館はリニューアルされていました。あまり広くはありませんが、その中に多くの、非常に多くの国宝や重要文化財が収められています。館の中央に鎮座する巨大な千手観音菩薩立像(520.5cm, 鎌倉時代)はやはり圧巻。八部衆像の一体である「阿修羅像」(153.4cm, 734年に西金堂が建立されたときに造られた)は、本ではよく見ますが、目の前にある本物は「無垢の困惑ともいうべき神秘的な表情」(司馬遼太郎著-街道をゆく24-奈良散歩 p262)と言われるように、何とも儚く憂いを感じさせるものでした。

上記(計16.0km)を一気に歩き倒してから、近鉄奈良駅近くの東向商店街内にある讃岐うどん屋さん「釜粋(かまいき)」で昼食。やや柔らかい麺でしたがおいしくいただけました。

それにしても歩くだけでこんなに楽しめるとは。来て1日も経っていませんが、奈良が大好きになりました。
2日目に続く。

2010年11月8日月曜日

(走) Training in Rena (其の七十五)とNara (day 0)

当直明けランです。

ランニング:6.0km、37分 (8-12.0km/h, 傾斜0-10.0まで) + 筋トレ
計564.9km (9月 48.5km, 10月 66.6km, 11月 10.3km)  
総時間3538分=59時間02分

11月5km: ねりま光が丘ロードレース(あと6日)
12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと27日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと132日)

***
そして夜はバスに乗ります。旅に出るのです。奈良に行きます。休暇なのです。
何でわざわざ高速バスを選択したかと申しますと、単に乗りたかったからです。

しかし、バスに乗って英語の文章を読んでいたら、ものの10分で吐き気を感じてきました。早くもバスに乗ったことを後悔。仕方ないので深呼吸をして寝ることにしました。バスの中にトイレがないことに、乗車してから気づきました。四面楚歌です。尿意を催さずに奈良までいけるでしょうか。
続く。

2010年11月7日日曜日

(音) Helloweenの7 sinners (2010年)

バンドは1985年にデビューして既に25周年になります。オリジナルアルバムとしては今作で13作目。ここ3作連続で「ハロウィン」の時期に発売されているのは、偶然でしょうか。私がリアルタイムで聴き始めたのは8作目の「Better than Raw」(1998年)からですから、そこから数えても既に干支を一周しているわけです。

んで、この新作ですが、#3の「Who is Mr. Madman?」の歌メロが素晴らしすぎて何もいうことがありません。これはミスチルのファンがミスチルらしい曲を、サザンのファンがサザンらしい曲をいつまでもバンドに提供してもらえることを望むように、Helloweenのファンが望む「Helloweenらしさを失わないが、そのスタイルから離れすぎない新しい名曲」と呼べる、彼らのお家芸とも言えるスタイルの曲です。過去の名曲と似て非なる曲を作るのは、大変難しいことなのではないかと素人的には思ってしまうのですが、この曲ではそれを見事にやり遂げています。
そしてどこかで聴いたことがあるこの曲のイントロは、1994年発表の「Master of the Rings」に収録されている「Perfect Gentleman」からのものです。歌詞の始めでも「Sixteen years have passed since...」と語っています。この辺りも往年のファンに楽しめるつくりといえるのかもしれません。

全体的にテンポの良いキャッチーな曲が並び、初心者にも昔からのジャーマンメタルファンにもとっつきやすい作りになっていますが、今のところ#5「World of Fantasy」や#9の「If a Mountain Could Talk」、#11「My Sacrifice」などがお気に入りです。

iTunesで見ると、このアルバムの曲は1曲あたり150円で買えます。
昔はレコードやCDというアルバム単位でしか買えなかったわけですが、今は曲単位で買えます。1曲しかお気に入りの曲がなかったとしても3000円位払っていた昔に比べたら、今はYoutubeなんかで視聴して、その中から気に入った曲だけ買うこともできるわけです。
曲単位で買えばハズレを掴まされる可能性は減るでしょうが、その分「買ったときには大していいと思わなかったけど、繰り返し聴いている内に好きになってきた」というような喜びに出会いにくくなってしまっているようで残念な気がします。曲単位で買える時代において、アーティストたちはアルバムを創り出す意欲が減退しないのだろうか、と他人事ながら心配してしまいます。

(本) 喜嶋先生の静かな世界 - 森博嗣 、御伽噺のような素敵な物語

最後まで飽きることなく読ませていただきました。臨床麻酔学会のお供として携行するにはハードカバーで少々重かったですが、読み終わるのがもったいないと思うくらい面白い物語でした。
「面白い」の理由の1つは、理系の大学生活~大学院生活という、描き方によっては硬く無機質な世界を描いているにも関わらず、描かれている世界が愛で溢れているからです。「研究」に対する愛ある言葉・信念の数々が作中に頻繁に出てきます。そしてそれは、著者自身の人生において考えてきたことがそのまま出てきているのだと感じられるような、熱のこもった言葉に感じられました。

・誰にでもわかるようにしておくこと、つまり文章として書き記すこと、一種の遺言のようなもの、それが、すなわち論文なのだ(71)
・自己満足できたら、それはもの凄く良い状態だね。自分が満足できるなんて、そんな素敵なことはない。それは価値が大ありだ(75)
・北極のオーロラも見たかったけれど、それよりも、その現象について書かれた専門書を熟読する方がずっとオーロラを体験できるだろう。僕は「体験」とはそういうことだと思っている。(85)
・良い経験になった、という言葉で、人は何でも肯定してしまうけれど、人間って、経験するために生きているのだろうか。今、僕がやっていることは、ただ経験すれば良いだけのものなんだろうか。(152)
・こういったものは、もうほとんど完成だ、と認識してからが長いのだ、ということが身に染みてわかった。(246)
・とても不思議なことに、高く登るほど、他の峰が見えるようになるのだ。これは、高い位置に立った人にしかわからないことだろう。・・・(中略)・・・だから、なにか一つの専門分野を極めつつある人は、自分とは違う分野においても、かなり的確な質問ができるし、有益なアドバイスもできる。僕はまだよくわからないけれど、大学の先生という職業が成り立っているのは、こういう原理だと思える。(290)
・山を乗り越えるたびに満足しているけれど、冷静に観察すれば、一所懸命山を作っている自分が見えてくる。(291-2)

私としては、このような文章に出会えることそのものが「人生って素晴らしいな」と思えるような体験です。

2010年11月6日土曜日

(走) Tokushima (day 4)とTraining outside (其の七十四)

徳島から帰ってきました。飛行機で1時間ちょっとだと、何をするにも中途半端な感じでどうにも好きになれません。空港に行って待っている時間と、空港から家までに結構な時間がかかるため、これといった生産的なことをしなくても疲弊してしまいます。

***
ランニング:4.3km、20分40秒 (15℃)
計558.9km (9月 48.5km, 10月 66.6km, 11月 4.3km)  
総時間3501分=58時間25分

11月5km: ねりま光が丘ロードレース(あと8日)
12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと29日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと134日)

徳島で「旅先での早朝ランデビュー」をしようと思って、走るための準備をしていったのですが、結局朝寝坊気味で、走れませんでした。また、次回以降の旅行の楽しみにしようと思います。

2010年11月5日金曜日

(雑) Tokushima (day 3)

学会会場から車で数十分。鳴門の大鳴門橋の近くには大塚国際美術館があります。
私は西洋絵画を楽しむという文化資本はもっていません。この美術館に来るまでは「受胎告知」という作品を複数の作者が描いていることさえ知りませんでした。ですから、この美術館に展示されている地下3階から2階までの5フロア計1000点以上の作品全部を楽しんで見ることはできませんでした。真剣に1作品ずつ見ていったら1日じゃとても足りません。2時間程で全てまわってしまうという雑な見方になってしまいましたが、描いた画家たちの執念と、この美術館を完成させた執念を肌で感じるには十分すぎる空間でした。

アルチンボルト・ジュゼッペの絵画「四大元素」(1566年。ウィーン美術史美術館にあるようです)が1番気に入りました。

2010年11月4日木曜日

(麻) Tokushima (day 2), 口頭発表と「麻酔科エラーブック」

発表15分ほど前。「アスティとくしま」の会場にある書籍販売コーナーを物色していたら出会いました。
「麻酔科エラーブック」です。同シリーズ既刊の「ICUエラーブック」が面白かったので、中身もろくに吟味せずに購入してしまいました。
私はMEDSiの回し者ではありませんが、本書の内容は非常に秀逸です。700ページもあるので、とても一度には読みきれませんが、680-705頁の「ヒューマン・ファクター」の章だけでも7350円の価値はあります。

第174項目『先輩の話を聞こう:経験的エピソードは知識の宝庫』は先輩の話を聴かなくなってくる、私のような小生意気な「認定医以上専門医」の世代に有用な薬と言えます。(普段から先輩医師の言うことを素直に聴いて謙虚に学んでいる方には必要ないかも)
中でも、上記、第174項目内の692頁の表174-1「麻酔の臨床に関連する言い伝え」は白眉です。
・「自分の体に載せないようなものは、患者の上に載せない。」
・「術野の切迫を感じたときには立つこと」
なんて書いている教科書、私は今まで読んだことがありません。

この本をざっと読んだ印象ですと、対象は初期研修医というより、「周りにあまり麻酔の雑談をする相手がいない、市中病院の標榜医~専門医になりたて程度の麻酔科医」という気がします。本書の内容を知ることで「初期研修医が日ごろ思う、コレって何でこうやるの??、系」の質問に愛と勇気と自信をもって回答できるのではないでしょうか。
翻訳してくださった先生方に感謝の気持ちでいっぱいです。当分は私の愛読書になりそうです。

***
そしてポスター発表をしました。6席の発表者のうちで私がトップバッターで皆さん元気だったからか、突っ込みどころ満載だったからなのかは不明ですが(恐らく後者)、3分の質疑応答時間内に5人も質問してくださいました。私の周りにはよく「誰からも質問されなきゃいいな~」とぼやく方がいらっしゃいますが、何も質問がない発表など、私には面白くもなんともありません(勿論回答を持ち合わせていない質問に直面したときの窮屈さはよくわかりますが)。それは発表する価値があるのでしょうか?
発表して質問がないときには、
・声が小さくて何を言っているかわからない
・内容が平凡すぎる
・内容が散漫で、どこに突っ込んでいいかわからない
・内容が聴衆の知識レベルに比して高尚すぎる
・内容に、聴衆の関心がない
などなどのうちのどれかが当てはまるのではないでしょうか。
会場の端っこでの発表だったので、ポスターへの日当たりは非常に悪かったですが、実りの多い時間になりました。聴衆の皆様のお陰で、発表内容を文章としてまとめるときのヒントをいっぱいいただきました。

2010年11月3日水曜日

(雑) Tokushima (day 1)

徳島に飛行機で着陸してレンタカーショップに向かいました。
インターネットで予約していたのですが、私の名前がレンタカーの予約名簿にないというのです(電子メールでは2回も契約確認の連絡が来ていたのですが)。
10分ちょっと調べて、結局、私とよく似た名前の人と取り違えたというようなことを言っていました。まぁ私の名前はよくある名前なのでしょうがないか・・・と思ったのですが、その後

・予約車がなくなってしまったため、代車へ変更することになったが、その手続きに結構な時間がかかったこと
・いざ代車に契約変更したところ免責補償加入が「無し」になっていたこと(当初の契約では当然「有り」にしていました。これは契約書にサインする前に”自分で”契約書全体を見返さなければ、そのまま発車して、事故を起こして初めて免責補償に加入していなかったことに気づいていたかもしれません)
・予約をしていた車より小型車に変更になったにも関わらず、代車レンタル料金が当初の契約料金より高くなったこと(これもこちらが指摘しなければ、そのままになるところでした)

などなど、不備が多すぎて完全に呆れてしまいました(怒ったところでお互いのコミュニケーション不全が解消されることはなさそうでした)。そして対応してくださった従業員の方は最後の最後で、我々の車を見送るという行為を省略してしまったために、評価の挽回を永遠に失ってしまいました。
徳島に着陸して1時間。レンタカーショップでのやり取りで、早くも徳島から出たい気分でいっぱいになってしまいました。そのため、宿についた頃には完全に意気消沈。夕闇の帳も下りてしまったために沈鬱な気分でした。眉山からの夜景の美しさがせめてもの救いでした。

レンタカーショップで取り扱っている車のブランドと、私に対応してくださった従業員には大きな関係はないかもしれません。ですが、「○○のレンタカーは××での対応がおかしかったから、次の旅行では違うブランドの車を借りよう」と思う人は当然いるでしょう。そう思うと、「一従業員」の対応がバックにあるブランドの色々なイメージを決めてしまうことに同情と自戒を感じます。(11/6記載)


2010年11月2日火曜日

(雑) ゲラの校正、

「年齢性別関係なくとにかく今すぐなにか学びたくなります。」という帯につられて衝動買いした「喜嶋先生の静かな世界 ― 森博嗣」を読もうと帰ると、宅急便で封筒が送られてきました。
遡ること2ヶ月と少し、の8月24日。その日に出版社に送付した原稿のゲラ(galley proof)です。送られてきたゲラと対面すると、自分で書いたものだった筈なのに、既に自分のものではない気がします。数ヶ月前の自分が書いたものなのだから、もう少し親近感が湧いてもよさそうなものですが、全くの他人が書いたものに赤ペンチェックを入れているような気分になりました。ちょっとした言い回しにも「こんな風に書いた覚えはない」という感じです。犬神サーカス団の「私もう駄目かもしれない」を聴きながら、校正で使われる記号に??となりながらも、自分で赤字を入れ、また出版社に送り返しました。文章を書くと、書いた文章は、書いた瞬間から自分のもとを飛び立ってどこかへ行ってしまうのかも、としみじみと感じた一日でした。

***
今や中国とロシアに南から北から国の境を揺さぶられています。新聞なんかには「中露の横暴」なんて書かれていますし、メディアはこぞって騒いでますけど、そもそも今のような左寄り集団に政権を任せたのは、私を含めた国民一人一人です。
子供は親を選べませんが、日本国の子供たちである私たちは、親となって海の向こうの人たちと交渉する日本国の代表者を選ぶチャンスがあったのです。色んなことを主張する親の中から、今の親を選んだのです。「自分の家です」と主張していた筈の家に闖入者があっても、追い出すこともなく、ましてや「入ってきても文句を言いません」という態度すら見せているわけです。しかも、入ってきて我々の所有物を傷害してもお咎めなしで帰すような、非常に寛大な心の持ち主たちなのです。
家に侵入されたら、防犯を強化したり然るべきところに届け出たりするのが真っ当な対応だと思いますが、「そういうことを当たり前の感覚として、してくれないような人々」を選んだのは我々一人一人です。「投票に行ってないから私は選んでいません」と主張する人もいると思いますが、その「私がやらなくても誰かやるだろう」という態度そのものが、現在の為政者たちを投影しているものと私は思ってしまいます。だから今になって民主党を叩きまくることそのものも、何かおかしいのではないでしょうか。

こうなったら「決して抵抗しません、どうぞ自由に土地を持って行ってください」という方向性で、「世界にも稀な、領土を差し出し領民を危険にさらす島国、ニッポン」としてポジティブにメッセージを発信する方向で生き延びていけないかを真剣に模索すべきなんでしょうか。領土を売れば、1100兆円超の借金の何%かは返せそうです。羽田の国際線も本格稼動し始めたことですし、海から空からどうぞご自由に侵犯してください、と言ってみるのもいいかもしれません。

2010年10月31日日曜日

(音) KamelotのPoetry For The Poisoned (2010年)

5作目「Karma」以来のバンドのファンです。本作は一聴しただけでは全くピンとくるものがありませんでした。#14の「Once upon a time」こそ、これまでのスタイルを踏襲した疾走曲ですが、「Ghost Opera」や「When the Lights are Down」のような強力な疾走曲ではありません。他はミドルテンポ~スローテンポの曲が並びます。そのためでしょう、即効性がないのは。
それでも何度も聴いていると漸く味がじわっと出てくるような、アダルト向けメタル作品に仕上がっているのが分かります。アルバムの良さが分かるまでに聴き込みを要すのは、リスナーに苦行を強いるようで不親切な造りとも言えます。その意味において本作は新規ファンを開拓するだけの力はないかもしれませんが、彼らの熱心なファンにはアピールするだけのものはあると思います。バンドは既に音だけで唯一無二の艶かしい芳醇な世界を描くことに成功していますが、バンドが更に円熟の域に達するための過渡期の一作になることでしょう。秋の夜長に酒を飲みながら聴くにはいいアルバムです。

(走) Training in Rena (其の七十弐-参)

台風14号のためかとても寒いです。
若干の体調不良と右股関節痛のために休んでいたら、前回のランから2週間空いてしまいました。
間が空いても結構走れる体になっていたので一安心しましたが、まだまだ歯磨きレベルの習慣にはなっていないようです。

一足早いですが、誕生日プレゼントに新型のiPod nano(16G)を買ってもらいました。何故か歩数計機能もついています。早速ポケットに入れて聴きながら走ってみましたが、タッチパネルであるために曲の早送りがやりにくいです(袖口にクリップして走るのが正攻法なのでしょうが)。やはりiPod shuffleをランニング用のままにして、iPod classicの替わりにiPod nanoを通勤等で持ち運ぼうと思います。24時間バッテリーがもつというのは大きいです。

ランニング:8.1km、52分 (8.0-12.0km/h)
ランニング:3.0km、23分 (8.0-10.0km/h, 傾斜10.0)
計554.6km (8月 65.8km, 9月 48.5km, 10月 66.6km)  
総時間3484分=58時間04分

11月5km: ねりま光が丘ロードレース(あと14日)
12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと35日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと140日)

2010年10月29日金曜日

(雑) 歯科のこと(其の参) 、マンニトールとFFP

歯医者とほぼ無縁の生活を送っていましたが、3ヶ月連続で歯科に通い続けているのは、まさに快挙と言えます。当直明けに早く帰らせてもらえるお陰です。
今日は右下7番を治療していただきました。前回に比べて麻酔がちょっと痛かったですが、処置の際には全く痛みませんでした。(よく効く)麻酔って本当に偉大です。お陰様で10本あった虫歯が7本になりました。
外科手術の上手さで病院を選ぶ患者さんはいても、麻酔の上手さで病院を選ぶ患者さんは恐らくそれほどいないでしょう。歯科で開業されている先生は麻酔の腕も患者さん集めに大きく関わってくるでしょうから大変ですね。

***
脳外科手術で頻用するマンニトールですが、投与後にカリウム値が上昇することがたまにあります。それについての報告は検索すると割と出てきます。

・日本人の報告でVTを起こしています。
Ventricular tachycardia caused by hyperkalemia after administration of hypertonic mannitol. Anesthesiology. 2000 Nov;93(5):1359-61.
のdiscussionでは
we believe that hyperosmolality after administering hypertonic mannitol is causative of hyperkalemia.
と高浸透圧状態が原因ではと推測しています。
そして、より低用量の投与を勧めています。
Administering mannitol in a dose of 1 g/kg caused hyperkalemia in this patient. A dose range of 0.25-1 g/kg mannitol is considered standard for reduction of intracranial pressure. A previous study demonstrated that an increase in plasma osmolality of 10 mOsm necessitates reduction of intracranial pressure, which can be generated by 0.25 g/kg mannitol. Because the extreme osmotic gradient produced by mannitol may cause electrolyte imbalance, we recommend administration of a smaller dose (0.25-0.5 g/kg) and measuring of plasma osmolality. When large doses of mannitol are given, careful monitoring of the electrolyte status is essential.

・他にも
Electrolyte changes during craniotomy caused by administration of hypertonic mannitol. J Clin Anesth. 2007 Jun;19(4):307-9.
では長期投与、多量投与、腎機能低下で報告されているようです。
discussionにおいて
The movement of potassium out of the cells and into the extracellular fluid occurs via two mechanisms. First, the intracellular potassium concentration increased by the intracellular water loss, leading to passive potassium exit through potassium channels in the cell membrane. Second, the frictional forces between solvent (water) and solute (potassium) can result in potassium being carried out through the cell membrane, a process called solvent drag. Serum potassium increase secondary to an infusion of mannitol is well documented. It is almost noted only with prolonged infusions, larger doses of mannitol, and often in the setting of decreased renal function. It has rarely been noted, as it was in this case, with a dose of only approximately one g/kg.

・あとは
Two cases of hyperkalemia after administration of hypertonic mannitol during craniotomy. J Anesth. 2005;19(1):75-7.
 の中では、高カリウムの原因は細胞外への移動によるものではないか、としています。
The etiology of hyperkalemia is classified into three categories: increased intake, decreased urinary excretion, and transcellular redistribution of potassium. Our patients were infused at a maximum of 1mEq/Kg/h potassium and underwent no blood transfusion, strongly suggesting no potassium overload. Urine output was maintained at more than 0.5ml/Kg/h around mannitol infusion. Taken together, these characteristics of our patient cohort suggest that hyperkalemia may have been caused by potassium movement from
cells into the extracellular fluid. There are several factors that facilitate the transcellular movement of potassium: an acute increase of plasma osmolality, rhabdomyolysis, hemolysis, and acidosis.

緊急脳外科手術では手術室入室前に頻回の嘔吐等で低カリウム血症のことが多いような印象を受けます。そんな場合でもカリウム値をすぐに補正しないで、マンニトール投与後の採血をチェックしてからの方が安全かもしれません。

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緊急手術患者さんがワルファリン内服中の場合、手術の止血が困難になります。通常、ワルファリンを拮抗するためにビタミンK剤(メナテトレノン。通常10-20mg)を使いますが、それでも出血傾向が続く場合にはFFP(新鮮凍結血漿)も使用します。

そのFFPについて豆知識。
・使用法
融解後3時間を経過すると、失活してしまう凝固因子が存在する。凝固第Ⅴ因子と第Ⅷ因子は、急激に活性が失活する。(融解後にやむを得ず保存する場合には、常温ではなく2-6℃の保冷庫内に保管する。但しそれでも凝固因子の分解がすすむ)
・ナトリウム負荷
200mL 由来の本剤には約0.45g (19mEq) 、400mL 由来の本剤には約0.9g (38mEq) 、成分採血由来のFFP-5(450ml)では約1.6g(69mEq)のナトリウムが含まれている。
・熱量
FFP2 単位製剤中のカロリーは8.4×4=33.6kcal
輸血によって補給された血漿蛋白質は、アミノ酸まで緩除に分解されてから熱源として消費されるため、蛋白質源にもなり得ない。

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日々色々な薬剤を使用して麻酔をしていますが、色々なことを知らずに麻酔をしている事実に恐怖してしまいます。私は私の認識の世界でしか麻酔をかけられません。その「認識している世界」を日々広げて生きたいところです。

(本) 20歳を過ぎてから英語を学ぼうと決めた人たちへ ― Hiroyuki Hal Shibata という本がありまして

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iPhone、Kindle、Audio Book、Twitter、Lang-8、レアジョブ、PASORAMAといった最先端の電子機器やWeb Serviceを英語学習に活用!
帰国子女でもない日本人がTOEIC860点を取得し、英語で「聞く」「話す」「書く」ことができるようになる方法を紹介。
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とAmazon.co.jpで本書は紹介されています。自己研鑽に余念がないビジネスパーソンを読者対象としているのかもしれません。でも、できるビジネスパーソンたちは既に英語自体が学習の目的ではない筈でしょうから、このような本を読んで努力している時点で、何かに負けている気がしないでもありません。それでも何もやらないよりはマシなのでしょうか。
私は英語学習において完全に落伍者ですが、本書はそこそこ英語学習する気がある人々のやる気レベルを数倍に押し上げてくれる可能性がある本です。非常に実践的な本です。やる気はあるけど何をやっていいのかわからない、という「先達あらまほしきものたち」は、本書で紹介されている方法いずれかを試せばいいと思います。
私は読了後に本書で紹介されている「大学入試向けの英文法本」や「iTunesで購入できるオーディオブック」を購入して人生で何度目かの英語学習をしてみました。電車での通勤時間に主に活用していますが、どうやっても寝てしまいます。自己啓発の古典「人を動かす(原題:How to win Friends & influence people)」の英語朗読は、私にはプロポフォール並の強力な入眠剤にしかなりませんでした。
紹介されている中で簡単かつ面白いのはiPhoneの[App Stroe]で購入できる「Google Mobile App」です。このアプリを使うと音声検索ができます。そのためiPhoneに向かって自分の英語の発音が正しく認識されるか独りで確かめることができます。私は何度iPhoneに向かって「catheter」と言っても「jessica」と認識されてしまい、げんなりしてしまいました。他にも「vanilla」が「banana」と認識されたり「sit」が「shit」と認識されたりと、英語学習をやる気を無くさせるに十分なアプリです。
このように英語学習が進まずにお金ばかり浪費されるのは、結局のところ、興味と差し迫った危機感がないからでしょう。
・社内の公用語が英語になった
・英語ができないと管理職になれない
・日本人でなくてもできる仕事は、人件費の安い国の優秀な人たちにアウトソーシングされていく
等々。それらの事実や報道や主張や妄想に四面楚歌な私。英語ができないという理由で、私のような英語ができない麻酔科医師が将来食いぶちに困るほどの貧困に追い込まれる可能性を妄想するたびに眩暈がしそうです。本書はそんな私の眩暈と劣等感を増悪させるに十分な力を持った本(つまり、やる気を出させる素晴らしい本)でした。人間もほかの動物と同様、死に物狂いでもがいて生きないと、淘汰されてしまうのでしょうか。

2010年10月27日水曜日

(雑) 小児麻酔レクチャー終了

「第3子誕生後の育児休暇取得を表明した県知事」の下に寄せられた意見の8割は批判的なものだったそうな。「わざわざ時間を割いて人に意見する人」の母集団にはそもそも「文句を言わずにはいられない"自称"批判的な人」が多いのではないでしょうか。と、私は「人を批判する人」を批判しているわけではありませんよ。
意見の8割が「育児休暇が取れるなんて大層な身分だな」等の批判的なものだった、という記事を読んで、「確かにその通りだ、けしからん」などと「批判的な意見をもつ人」の1人になったとしても、その人を批判的な人とは呼ばないでしょう。その時点での彼は、自分の与しやすい意見に同調しているだけですから。
このように始めは他人に同調して批判していただけだったのが、それを繰り返しているうちに気がつくとその人も立派な「批判的な意見をもつ人の内の1人」になっている、ってことはありそうな話です。

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新しいシステムを作るときに障害となるのは、真っ向から対立する批判的な意見とやる気のない構成員。そして最も障害になるのは恐らくそれまでどっぷり漬かって個々の体に染み付いた習慣でしょう。人や組織が老化するとすれば、染み付いた習慣を浄化する力がなくなった時なのかもしれません。今日出席した会議の中では抵抗勢力は全くありませんでしたが、ぼんやりとそのようなことを考えました。

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今日は手術室看護師さん向けに「小児麻酔」のレクチャーをしました(30分+質疑応答10分)。看護師さん相手にレクチャーをするのは今回で5回目になりました。
まだまだ知識も実践も不足しているいることを誰よりも自覚しているのはこの自分自身です。そのため、教える機会が自分の「無知の知」に気づくチャンスになったことは非常に感謝したいことです。人に教えるためには言葉にして吐き出す知識の何倍かの「時間の都合上、言葉にして伝えられない知識の下地」がなくてはなりません。今回は「時間の都合上、言葉に出来ない数倍の知識の下地」を増やすいい機会になりました。同時に普段の麻酔の実践の裏づけとなる知識が教科書なり論文にあるのかどうか、を知るいい機会になりました。日常臨床において自分の麻酔を直接指導してくれる指導医がつかなくなり、自分より若い人たちの指導をするようになると、臨床麻酔はどうしても自己流になりがちです。その「自己流」が正しいかどうかを時々意識的に見ないと、根が怠け者の私はすぐにだれてしまうのです。
教えるために準備をするのは大変ですが、かけた労力と得られる見返りは凡そ1:1であることを忘れてはいけません。どんな仕事も雑用だと思った時点で試合終了なのです。
スライドを作るのも大事ですが、昼間の業務が終了して疲れているであろう若手看護師さんたちを相手に、暗室で30分間、眠気を誘わずに聴かせられるような話し方で話せていたかどうかは不明です。どんなにためになることを喋っていたとしても、聴いてもらえなければ全く無意味ですから。
缶コーヒーとペットボトルのお茶をどうもありがとうございました。

2010年10月25日月曜日

(音) Dimmu BorgirのAbrahadabra (2010年)

バンド名は「ディム・ボガー」と読みます。
ノルウェーのシンフォニック・ブラックメタルバンドの9作目です。白塗りメイクも纏っているコスチュームもやっている音楽も、今が21世紀だということがどうでもよいくらい、完全に我が道を行っています。
クリーンヴォーカルパートを担っていたICS VortexとキーボードのMustisは、このバンドのかなり重要な位置を占めていた筈です。ですが彼らは本作発表前に脱退してしまいました。バンドは相当な痛手を負ったはずですが、本作を聴く限りそんなことはまるで関係ないようで、完成度は非常に高い。アルバムのどの音節を切り取って聴いてもDimmu Borgir節が炸裂している、ファンには堪らない作品に仕上がっています。オーケストラを多用しているためか、これまでの彼らの作品では最もポップで聴きやすい作品です。中でも天から悪魔の軍団が舞い落ちてきたかのような禍々しい「Gateways」は彼ららしさが詰まった殊色の名曲です。
YouTubeで294万ヒット(2010年10月現在)を記録している「Progenies Of The Great Apocalypse」のプロモーション映像が未だに頭から離れませんが、「Gateways」の映像も結構楽しめました。

2010年10月22日金曜日

(雑) 臨床麻酔学会のための予演会

予演会というのは、「学会発表の前に行う自施設内での予行演習」です。本番同様の時間で、本番を想定して喋ります。本番を想定して質問してくれるありがた~い先輩・同僚・後輩医師がいます。

そして何回やっても緊張します。

自分なりに数カ月かけていろいろな論文を読み、考え、それを1枚のポスターに集約させる作業を行ってきました。ですが、症例報告の場合、「その症例を経験し、過去の論文にあたり、その結果どういうメッセージを発信するのか」が非常に重要です。それが全てといってもいいでしょう。私が苦悩したその部分にずばりと切りこんで質問を投げかけて下さった先生には本当に感謝です。と同時にその「要約力」に感服しました。おかげさまでもうちょっとだけブラッシュアップできそうです。

2010年10月21日木曜日

(本) 残酷な世界で生き延びるたったひとつの方法 ― 橘玲

限界を恐れず、「続けること、諦めないこと」が限界を突破し、新しい世界を築く力になる。「自分が変われば世界が変わる」、「事実はない。認知があるだけだ。不幸な出来事に遭遇しても、認知を変えればいい」等々は多くの自己啓発書に書かれていることです。私自身もそれらの書を多く読み、影響されて生きてきましたが、「やってもできない」という、別の視点からこの現代社会を描いているのが本書です。

***
・能力主義がグローバルスタンダードになったのは、それが市場原理主義の効率一辺倒な思想だからではない。
会社はヒエラルキー構造の組織で、社員は給料の額で差をつけられるのだから、なんらかの評価は不可欠だ。その基準が能力でないならば、人種や国籍、性別、宗教や思想信条、容姿や家柄・出自で評価するようになるだけだ。すなわち、能力主義は差別のない平等な社会を築くための基本イラフラなのだ。(p67)
・仕事と趣味を両立させられるのは、きわめた高い能力を持ったひとだけだ。「やってもできない」のなら、それがなんであれ、好きなことで生きていくしかない。そうでなければ、マックジョブで日々の糧を得る退屈な人生が待っているだけだ。(81)
・高度化した資本主義社会では、論理・数学的知能や言語的知能など特殊な能力が発達したひとだけが成功できる。こうした知能は遺伝的で、意識的に"開発"することはできない。すなわち、やってもできない。(250)

***
本書で取り上げられる様々な引用が、著者の知識の引き出しの多さを物語っていますが、私はそれらの引用元が「信用に足るものなのか」についての判断ができませんでした。
仕事の能力の差によって報酬を区別するのが1番平等だ、という考え方は理解できるし納得できます。ですが仕事の能力を開発する礎を作ることが可能か否か(幼少時にきちんとした教育が受けられるか否か)、が金銭的裕福さによる階層化が更に更に進むであろうこれからの世界を生きる私は、この考え方に素直に賛同できず複雑な気分です。

2010年10月17日日曜日

(本) たった1分で人生が変わる 片づけの習慣 ― 小松易

日本初の「かたづけ士」の著作。結構なベストセラー本のようです。
片付けられない人への愛あるモチベーション付けに始まり、具体的な行動目標にまで触れています。
私は本書から「目から鱗」というほどの新鮮な感動を得ることはありませんでした。ですが、ものが溢れかえる傾向にある私の身の回り(主に本と書類)を、少しばかりすっきりさせようというモチベーションを上げてくれたきっかけになったには違いない本です。他に影響されやすい私は早速、書棚に鎮座している本を100冊ばかり売り払うことにしました。
時々大掛かりに掃除をやるよりも、毎日ちょこちょこ整頓する(15分程度で)、そもそも整理する以前に「整理しないように、ダイレクトメールなどが本格的に家の中に侵入する前に選別する」というのが、大事ということです。
著者の「1年使っていないものは捨てる」という意見は大いに賛同できますが、この仕事をやっていると意外に「以前遭遇した、稀で困難な麻酔管理症例」で調べたときの資料が2,3年越しで役に立ったりするのです。だから「どの資料を捨てるか」というのはいつでも頭を悩ませる問題なのです。ScanSnapを使って片っ端から書類をPDF化するのも手なのでしょうが・・・。

(麻) 麻酔科医とSLE (Systemic Lupus Erythematosus: A Review for Anesthesiologists)

今回はAnesthesia and Analgesia 2010;111:665–76 からです。関節リウマチは要チェックですが、SLEって意外とマークが甘かった・・・のは私だけ?

<まとめ>
麻酔科医が考えること
・活動性は患者毎に異なる (抗ds-DNAや補体値の推移で病勢を予測する)
⇒画一的な対応は×。急がない予定手術患者は、SLEが落ち着くのを待ってから手術をする。
・主治医にコンサルト~臓器障害の程度、薬剤使用歴の正確な把握を
・産科手術や心臓手術患者はハイリスクのため、慎重に対応する必要がある。
・免疫抑制剤継続の有無、ステロイドカバーの有無についてはきちんと評価すべき。
・抗リン脂質抗体陽性患者では、特に整形外科手術や血管外科手術で血栓症のリスクが高いため、予防が重要である。

周術期管理は患者の病態に応じて行う
・silent ischemiaに注意-5誘導心電図、観血的血圧測定はモニター装着適応の閾値を下げて行う。
・Difficult airwayに注意-声帯麻痺、予期せぬ声門下狭窄症例や喉頭浮腫。特にSLEの活動性が高い患者では注意。環軸椎亜脱臼患者ももしかするといるかもしれない。
・腎機能は低下しているかもしれない-Cr値が上昇していなくても腎保護を意識した麻酔管理を行う。
・区域麻酔の施行は十分注意-周術期の抗凝固療法計画をしっかりと把握。血栓症の有無を確認。
・体位に注意-骨折や末梢神経損傷を予防。
・感染、SSIに注意-免疫抑制剤使用の有無を確認。

<以下各論>
歴史と疫学
・12世紀:Rogeriusが頬部の発疹を”lupus”という語で初めて表現
・1872年:ハンガリーの皮膚科医Moric KaposiがSLEの全身病変を初めて記述

・有病率:7.4-159.4人/10万人。最も多いのはイギリスのアフリカ・カリブ系住民、その他の非白人系。
・1:9で女性に多い。15-40歳に好発
男性、高齢発症者は重症化する傾向。予後はよくない。
・一卵性双生児間で24-60%の一致、
・二卵性双生児間では2-5%の一致(遺伝的要素が関係)
・関連因子:喫煙、結晶性シリカ、EBウイルス、ホルモン
・薬剤誘発性ループスの症状は関節痛、漿膜炎が主で、通常、臓器傷害は見られない。

心血管系
・心膜炎(25%に合併)は診断基準にも含まれており、よく知られている。(無症候性を含めると50%以上に合併)
・心膜炎は発症早期やSLEの再燃期によくみられ、胸水を合併することもある。
・心タンポナーデは2%未満と稀である。
・NSAIDSやステロイドによって治癒するが、タンポナーデ解除に心膜穿刺や心膜開窓術が必要となることもある。
・心筋炎(5-10%に合併):発症者の80%で左室収縮力の低下を起こし、進行すると不整脈、左室機能障害、拡張型心筋症、心不全を起こす。
・近年の研究で心血管合併症がSLE患者の後期死亡の主因となっていることがわかった。疫学的には44歳から50歳のSLEの女性は心筋梗塞の危険性が50倍高いため、注意が必要である。
・コホート研究では、高齢女性、長い罹病期間、長期間のステロイド使用、高脂血症合併症例が心血管病変合併の危険因子とされる。

弁疾患(Libman-Sacks endocarditis:疣贅形成による弁異常(10%に合併))
・罹病期間が長い、活動性が高い、抗リン脂質抗体陽性患者などで見られる。
・①僧帽弁②大動脈弁に起こり、主に逆流症を起こすが、進行すると狭窄症を起こす。
・疣贅が飛散して脳梗塞を発症することがある。
・臨床的に明らかな弁疾患はSLEの3-4%。その半分は手術適応となる。生体弁は逆流の再発が起こりやすいため、機械弁による置換がよい。

呼吸器 無症状でも機能は低下
・剖検研究では18%のSLE患者に肺病変が認められた。
・60%のSLE患者では潜在的に呼吸機能低下を認め、特にDLCO(diffusing capacity for carbon monoxide)低下がよく見られた。
・HRCTで肺をみると、20%の患者ではスリガラス陰影、網状影が見られ、肺の間質病変を合併している。
・胸膜病変は有名で、SLE患者の35%は胸膜炎を起こす。通常は軽症である。
・重篤な合併症に肺胞出血がある(1-5%の合併率)。死亡率は50%に達する。診断にはBALが用いられ、人工呼吸器、強力な免疫抑制療法、血漿交換等が必要になる。
・肺高血圧(PH)は0.5-14%で合併するが、症状が非特異的なため、診断が遅れがちになる。

喉頭病変の合併に要注意
・50歳以上のSLEで見られる(0.3-30%)
・所見:軽い炎症、声帯麻痺、声門下狭窄、急性閉塞を来たすような喉頭部の浮腫、喉頭蓋炎、輪状披裂関節炎が挙げられる。
・多くは免疫抑制療法で改善するが、気管挿管や外科的気道確保が必要になることも稀にある。
活動期SLEでは短期間の挿管後でも声門下狭窄を起こしやすいとする意見もある。

腎疾患は予後に直接影響する
・ループス腎炎(60%に合併)はSLEの診断後3年以内に見られることが多い。
・腎合併症があると死亡率は4.3倍となり、独立した予後規定因子である。
・腎合併症患者の5-20%は末期腎不全に至るが、近年は減少傾向にある。
・病気は組織学的に6つに分類されるが、Class4(び慢性ループス腎炎)は腎予後不良で、重症高血圧合併
・血清クレアチニン値が正常な患者でも「生検するとclass4だった」ということがあるため、SLE患者では常に腎保護を念頭におくべきである。

神経合併症
・37-95%の合併。中枢神経、末梢神経、自律神経障害、精神障害を起こす(neuropsychiatric SLE; NPSLE)
・7-20%の患者が痙攣を起こすが、他の併存疾患がないか鑑別が重要。
・抗リン脂質(aPL)抗体陽性患者では脳血管病変合併のオッズ比が2.3-6.7倍と高い。

造血器合併症
・リンパ球減少、貧血(50%)、血小板減少(約10%)がよくみられる。
・腎傷害やCNS病変合併例ではHb8.0g/dl以下の重度の貧血例もある
・血小板減少症例の1/5では免疫抑制療法が効果なく、脾摘が必要となる。

消化器合併症
・消化器系合併症は非常に多く、非SLEのものもあるため、診断に苦慮することが多い。
・口腔潰瘍(7-52%)だけが診断基準に入っているが、通常「無痛性」で、全身の病変の活動性に無関係である。
・食道病変は嚥下困難(1-13%)、胸やけ(11-50%)。上部食道の蠕動異常を認めることもあるが、SLE患者では下部食道括約筋障害の報告はなく、胃食道逆流の危険性は高くない。
・急性腹症はSLE患者の40%に見られる
・SLEに関連するものには漿膜炎、血管炎、小腸の虚血、膵炎、無石性胆嚢炎、タンパク喪失性腸症などがある。
・SLEに関連しない、手術を必要とする病気も合併も多いので注意が必要である。
・自己免疫性肝炎の生涯合併率は2-5%程度。

骨・関節病変
・非びらん性関節炎が有名。
・骨粗しょう症(23%)。骨折(12.5%)
・ステロイド使用と骨粗しょう症には直線的な関係はなく、SLEの活動性と関係があるようである。
環軸椎亜脱臼の報告はいくつかある
  ・頚椎の屈曲位を画像診断して59人を前向きに検討した研究では5人(8.5%)に亜脱臼を認めたという。5人中4人は頚部痛を認め、4人のうち1人は指の麻痺・感覚低下を合併していた。そのような患者は罹患期間が長く、CKDを合併し、副甲状腺機能が亢進していた。

凝固系
・ループスアンチコアグラント(LAC)陽性患者の方が、抗カルジオリピン抗体(aCL)陽性患者より血栓症を起こしやすい。
LACはAPTT値が延長する(試験管内では抗凝固性を示すため)が、むしろ血栓傾向を示すので要注意。
・「抗リン脂質抗体症候群(APS)患者」より「SLE+抗リン脂質抗体陽性者」の方が血栓症を起こしやすい。
・下肢の静脈血栓症を起こす。動脈血栓は稀である。
・静脈血栓塞栓症のある患者に対しては、PT-INR 2-3を目標にワルファリン治療を行う。
・血栓症の既往のない「SLE+aPL抗体陽性者」には低用量アスピリン治療を行う。
・動脈血栓塞栓症の既往患者には、より強固な抗凝固(INR 3-4)が勧められるが、まだ議論の余地がある。
・妊娠中にはヘパリン/低分子ヘパリンを使用する。

薬物治療と副作用
・SLEの治療はNSAIDs、アスピリン、免疫抑制剤(ステロイド、シクロフォスファミド、アザチオプリン、メトトレキセート、ミコフェノール酸モフェチル)等で行う。

◎おもな薬剤の副作用
・高用量シクロフォスファミド:心毒性があり、可逆性の心収縮力低下をもたらす。
・アザチオプリン、メトトレキセート:骨髄抑制、肝傷害
・メトトレキセート:肺傷害の原因にもなる。

麻酔薬との相互作用
・アザチオプリンの代謝拮抗作用
⇒筋弛緩薬の必要量が増える。アトラクリウムは37%、ベクロニウムは20%、パンクロニウムは45%増えたとする研究が1つある。
・シクロフォスファミド:pseudo-ChE阻害作用⇒サクシニルコリン使用後の無呼吸時間が延長する
・NSAIDs+メトトレキセート:急性腎傷害や汎血球減少を起こす可能性あり。
・笑気:骨髄抑制を起こすかもしれない。

結び:Anesthetic and perioperative management remains dependent on clinical acumen and understanding of the medical issues at play in these patients.
「鋭い洞察力(acumen)」をもって周術期管理をすることが重要である。

(走) Training outside (其の七十壱)

新しい料理に挑戦しようと思って、スーパーに行った。「バルサミコ酢」なるものを探しのですが全然見当たりません。恐らく調味料だろう、と調味料コーナーを端から隈なく探すとようやく1本だけ店頭に並んでいるものを発見。しかし結構高くてびっくり。隣に「赤ワインビネガー」も売っていましたが、初心者の私にはどう違うのかよく分かりません。どちらも赤ワインをもとに作った酢のようですが。
と思っていたところ、東京ガスのHPで解説されていました。

バルサミコ酢:ぶどう果汁を煮つめて濃縮し、木の樽に入れて自然に発酵させたものです。水分の蒸発に合わせて樽を小さく、また材質をクルミ、カシ、クリ、サクラなどに替えながら熟成させるという独特の製法により、複雑な香りが生まれます。

ワインビネガー:ぶどう果汁に酵母を加えてアルコール発酵させた後、酢酸菌を添加して発酵させて作った酢です。バルサミコ酢のように自然の発酵力を利用するだけではなく、多くの場合、工業的に酵母や酢酸菌を加えて、熟成期間を短くしたものです。

ということで、バルサミコ酢の方がより手が加わっているようです。
***

ランニング:12.4km、65分04秒 (21-3℃、約11.4km/h)
計551.6km (8月 65.8km, 9月 48.5km, 10月 55.5km)  
総時間3409分=56時間48分

11月5km: ねりま光が丘ロードレース(あと28日)
12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと49日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと154日)

2010年10月16日土曜日

(本) 15分あれば喫茶店に入りなさい。 ― 齋藤孝

初版から2週間で第3刷が発行されているところをみると、それだけ喫茶店を勉強スペースに使っている人が多いのか、それとも著者の知名度からか。
本書は徹頭徹尾「喫茶店でどのように勉強するか」について書かれています。どのように勉強するか、だけでなく、どのような喫茶店で、どの席で、どの時間に勉強するか、についても言及しています。著者は30年来(1週間に平均10回以上利用)の喫茶店勉強者らしく、その熱の入りようも半端ではありません。

・日曜日に教会に行く習慣がない多くの日本人にとっては、かわりに喫茶店を「教会化」してしまうのも一案です。(p86)

という一文に著者の喫茶店愛が溢れているように感じました。私もJB-POTの受験勉強には喫茶店を時折利用しましたが、喫茶店の勉強で1冊本が書けるというのは本当に凄いことです。喫茶店の勉強という自分の習慣すらアウトプットに変えてしまうのですから。
著者は
・マクドナルドで仕事をするのはかなり難しいです。(p170)
と書いています。確かにマクドナルドは小学生が数人集まってみんなでNintendo DSをやっていたり、高校生が騒いでいたり、小さい子供をつれたママたちがおしゃべりに興じていたりと、喧騒の場になっていることもままありますが、私が喫茶店勉強をする時に1番利用しているのはマクドナルドです。抄読会のスライドや学会のポスターなんかも作ります(だから能率が悪いのか?)。私のアウトプットの何%かはマクドナルドのポテトやコーヒーでできているでしょう。大音量のヘヴィメタルサウンドで耳を塞いで外音をシャットダウンすれば、私にとってはどの喫茶店でも同じです。むしろ騒がしいマクドナルド内に同化しているようで心地よいです。

・(電車内で)iPodでつねに耳元をシャカシャカさせている人は、「喫茶店化」しているのではなく、むしろ「自宅化」しているのです。(157)

著者のような一流の名の通った人でも、いやそのような人だからこそ、寸分の間を惜しんで、これだけのインプットとアウトプットをしているのか、と妙に感心した一冊でした。

2010年10月15日金曜日

(走) Training outside (其の六十九-七十)、通勤路ラン3回目

10月11日
ランニング:4.5km、36分(坂道全力走を8本含む)

10月15日
ランニング:13.5km、83分42秒(19時過ぎ~、20-21℃、曇り、無風、平均9.6km/hr)
赤信号という赤信号を全て無視せずに完全に停止。
信号待ちの間はその場で足踏みすることもなく、深呼吸を数回繰り返す。
後半に行くに従って、心肺に負担がかかっているのがわかりました。

計539.2km (8月 65.8km, 9月 48.5km, 10月 43.1km)  
総時間3344分=55時間43分

11月5km: ねりま光が丘ロードレース(あと30日)
12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと51日)
(2011年2月 42.195km 東京マラソン)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと156日)

2010年10月13日水曜日

(走) 予想していたことといえ

やっぱり東京マラソンの抽選は外れてしまいました。

2010年10月11日月曜日

(麻) 麻酔科医に役立つiPad/iPhoneアプリなど

先日の心臓血管麻酔学会会場でも見かけましたが・・・最近買ってよかった本。

医師のためのモバイル仕事術―iPad/iPhoneを使い倒す!(著:讃岐美智義/門川俊明)

私はiPhoneユーザーです。iPadユーザーではありませんが、それでも十分役に立つ本です。初歩的な使い方からマニアックな使い方までオールカラーで詳しく記載されています。私は本書を読んでからEvernoteの利用を始めました。また、350円で買えるアプリ「PubMed On Tap」(P.97-100で紹介)も結構使い勝手が良いです。SafariからPubMedのホームページに行くより早いし、気になる論文は自分のメールアドレスに送れます。電車での移動中に検索したいときには非常に使えるアプリでした。

巻末の「医療関係者におすすめのアプリカタログ」だけでも一見の価値ありで、非常に得した気分になった本でした。
でもアプリって1つ1つが安価だからついつい買ってしまうんだよなぁ。

そういえばあの紫本も日本語で改訂版が出てました。
周術期経食道心エコー実践法 第2版
来年JB-POTを受験する人たちは買ってもよいかもしれません。

2010年10月10日日曜日

(麻) CPBハンズオンなど ~ 心臓血管麻酔学会

麻酔科医の善良かつ頼れる隣人である体外循環技術認定士の先生方から体外循環の基本的な手ほどきを受けた。

@CPBメモ
人工心肺を購入するときには、安全装置が標準装備されていないらしい。つまり安全装置を装着するか否かは購入者に任せられており、設置しなくても人工心肺を使用することができるということだ(真偽は確かめていない情報)。私は今日、ちょっと触らせてもらっただけだが、これほど使用が難しい装置に対してそれはちょっと・・・と個人的には思う。

日本体外循環技術医学会で下のような勧告を行っている。
人工心肺における安全装置設置基準
その勧告に対するQ&A

こちらは厚生労働省。114ページもあるけど、後で読むかもしれないからはっておく。
人工心肺装置の標準的接続方法およびそれに応じた安全教育等に関するガイドライン

・CPB開始時には送血回路の遮断鉗子を外して、患者の動脈圧の拍動を確認する。(直接送血回路を指で触って行っている、という基本的なことすら知らなかった自分の無知を思い知った)
・貯血槽(リザーバー)が空になると空気が送られる。突然脱血不良(脱血管の先あたりや極端な循環血液量減少時)になったときに注意。(そのために貯血槽レベルセンサーという安全機構が取り付けられている)

・大量に体に空気が送り込まれたら・・・・
1.CPBを停止し、送血カニューレを抜去
2.Trendelenburg体位を取り、患者の大動脈が最も高くなるようにする
3.CPBを補液して満たし、再循環回路を利用して手早く送血回路の空気抜きをする
4.CPBの再循環回路を開け、冷却しながら脱血回路から順行送血の1/5程度で逆行性送血を開始する。このときCVPが25mmHgを超えないようにする
・脱血管挿入時にはIVCと肝静脈が見えるviewをTEEで描出しておくと安全(脱血管が肝静脈に入り込むのを予防できる)

@PCPS関連メモ
・フローが上がらないといって回転数を上げるだけだと強い陰圧でキャビテーションによって気泡が発生し、空気が送り込まれる。陰圧は-60~-80mmHgくらい。
・FAから送血するので左室の後負荷は増大する。
・PCPSの閉鎖回路では循環血液量の維持が重要。輸液・輸血は回路からできない。
・大動脈の近位よりでる血管(冠動脈、弓部三分枝)には心臓から拍出された血液が送られる。自分の心機能や呼吸機能には十分注意(酸素化の悪い血液が脳に送られてしまうかも)。
・PCPS中はSvO2、rSO2、lactate等のチェックを考慮。

@TEE関連メモ
・心腔内遺残空気の貯留しやすいところと追い出し方
1.右上肺静脈(ME bicaval viewから130°程度にふると見える):ベッドを右下にして肺を加圧する
2.右側左房:1と同じ
3.左心耳(ME AV SAX viewからプローべを左に向けると見える):術者に手伝ってもらう
4.心尖部:ベッドを左下にする、術者に手伝ってもらう

・冠静脈洞(CS)の正常サイズは1.0cm以下。大きいときはPLSVC。逆行性心筋保護は不可能?
・CSの観察:CSは4CVからちょっとプローべを背屈させるか食道と胃の間辺りにプローべをすすめると見える。ME 2CVではCSの横断面も観察可能

***
PLSVCがあるAR患者さんに対してAVRを行うときの心筋保護は?
直接の解答は私の検索能力では得られなかったが、まぁいいか。
このような症例報告は勉強の糧になりそう。
非交通性上大静脈遺残を伴った急性A型大動脈解離破裂の1例

Cardiac Surgery in the ADULT
 によると
PERSISTENT LEFT SUPERIOR VENA CAVA
A persistent left superior vena cava (PLSVC) is present in 0.3% to 0.5% of the general population and usually drains into the coronary sinus; however, in about 10% of cases it drains into the left atrium. The presence of a PLSVC should be suspected when the (left) innominate vein is small or absent and when a large coronary sinus or the PLSVC itself is seen on baseline TEE.
A PLSVC may complicate retrograde cardioplegia or entry into the right heart. If an adequate-sized innominate vein is present (30% of patients), the PLSVC can simply be occluded during CPB, if the ostium of the coronary sinus is present. If the right SVC is not present (approximately 20% of patients with PLSVC), the left cava cannot be occluded. If the innominate vein is absent (40% of patients) or small (about 33%), occlusion of the PLSVC may cause venous hypertension and possible cerebral injury. In these patients a cannula is passed retrograde into the PLSVC through the coronary sinus ostium and secured. Alternatively, a cuffed endotracheal tube may be used as a cannula.

PLSVCってJB-POTのような試験に出しやすい箇所の1つですよね。
心臓麻酔と体外循環は学ぶことが多く、ちょっと眩暈がした2.5日でした。

2010年10月8日金曜日

(麻) necrotizing dermatitis (壊死性筋膜炎) は悪夢のような病気


その悪夢に最近2度ほど手術室で出会った。患者さんは典型的なseptic shock(敗血症性ショック)の状態で入室してくる。基本的にはSSCG2008を基本として、患者の術前合併症を考慮に入れた麻酔管理をするのだが、「手術室に来る前にやっておいてほしいこと」が全くといっていいほど為されていない場合、私は愕然とするしかないのである。

@知識
・内科的治療ではほぼ100%死亡するので、壊死組織の迅速かつ完全なデブリドマンが必要。
・1日デブリが遅れるにつき死亡率が27%上昇。(Am Surg 1998;64:397-400;discussion 400-1.)
・1回のデブリで不十分なこともしばしばで、デブリを繰り返すことが重要(6時間-2日の間隔で)。
・生存者は入院後平均25時間で外科手術、死亡患者は平均90時間で手術施行。(Ann Surg 1995;221:558-63;discussion 563-5.)
皮膚所見や触診から診断を下すのは困難な場合もある
・原因:溶連菌、Clostridium spp. など

@治療
・グラム陽性レンサ球菌+/-桿菌の場合
 ・PCG 2-4MU q4h + クリンダマイシン600mg q8h
・グラム陽性ブドウ球菌単独の場合:バンコマイシン1g q12h
・嫌気性菌が関与、または複数菌種の場合:
1.ピペラシリン・タゾバクタム 4.5g q6-8h + クリンダマイシン 600-900mg q8h + シプロフロキサシン300mg q12h
2.イミペネム 1g q8h or メロペネム 1g q8h
(参考:INTENSIVIST vol.1 No.2 Sepsis p.328, 340)

(本) 老いの才覚 ― 曽野綾子


本書において「才覚」とは「今まで得たデータを駆使して、最良の結果を出そうとするシステム」(p17)と定義されている。自律して生きることが何よりも大事。と1931年生まれの人生の大先輩が説いてくれる。

***
・どんなに若い人でも、「くれない」と言いだしたときが、その人の老化の始まりです。(p13) 
例:今度行くとき、私も連れていってくれない?~~さんに伝えておいてくれない?
・だれでも救急車にタダで乗れる国は、非常に少ない。国民健康保険や国民年金、生活保護法のある国など、めったにありません。(22)
・今では、だれもが「それをする権利がある」と言う。(24)
・今すぐにでも徹底して、読み書きの訓練をしないと、日本は滅びると思います。(29)
・社会がしてくれるものなら、何でももらっておこうというのは、乞食根性になっている証拠です。(43)
・私たちは基本的に、人を信用してはいけない。生きている限りは、緊張して生きなくてはいけないのです。(53)
・自分がやった仕事に「対価を払います」と言われているということは、社会から阻害されていない証しです。(62)
・得をしたい、という気持ちが起きた時は、すでにお金に関する事件に巻き込まれる素地ができているから用心しなさい。(91)
・若くても、他者への配慮がなくなったら、それが老人なんですよ。電車の中で足を投げ出して座ったり、眠りこけている人は二十歳でも老年です。(130)
・豊かさであれ、安全であれ、すべて世の中が与えてくれるのが当たり前、と百点満点を基準にして望むから、不満ばかりが募って、どんどん不幸になっていくわけです。(164)

***
今日は心臓血管麻酔学会のリフレッシャーコースに出席。今週は何故か疲れすぎていて全く集中できなかった(休憩なしで30分×6コマのレクチャーは積め込みすぎだと思う)。職場の先生方、講師の先生方に申し訳ない気持ち。

2010年10月5日火曜日

(走) Training outside (其の六十八) 通勤路ラン2回目

秋の夜長の当直は長時間手術の麻酔。朝カンファランスが始まるまで続くと予想していたが、日の出前には終わってしまった(早く終わるのはよいことだ)。当直帯に少しでも仮眠できたら走って家に帰ろうと思っていたので、恐る恐る実施。
信号が多い通勤路ランはインターバル走変法とも呼べるようなコースと考えられる。どんな小さな十字路の赤信号でも、引っかかったらピタッと止まって深呼吸。しっかりと心拍数を落とす。青信号になったらまた走り出す…の繰り返しで相当な心肺負荷がかかっているような気がする。記録としては8月20日より遅くなったが、信号待ちが多かったという事にしておこう。当直明けでも走れる健康な体と職場環境に感謝。

ランニング: 13.5km、80分(24℃、通勤路、平均10.1km/hr)
計521.2km (8月 65.8km, 9月 48.5km, 10月 25.1km)  
総時間3224分=53時間44分
筋トレ:なし

11月5km: ねりま光が丘ロードレース(あと40日)
12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと61日)
(2011年2月 42.195km 東京マラソン あと145日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと166日)

2010年10月3日日曜日

(走) Training outside (其の六十七)

信号が多い道を走った方が、止まった時に心拍数をしっかり落とせるのでトレーニング効果がありそうである。今日は光が丘、豊島園方面までの往復。夕方は本当に走りやすい季節になった。

ランニング: 11.6km、66分(ほぼ平坦な道路、10.5km/hr)  
 計507.7km(8月 65.8km, 9月 48.5km, 10月 11.6km)  (総時間3144分=52時間24分)
筋トレ:なし

11月5km: ねりま光が丘ロードレース(あと42日)
12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと63日)
(2011年2月 42.195km 東京マラソン あと147日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと168日)

2010年9月30日木曜日

(雑)世迷いごとをつぶやく

あなたがその家に住めるのは、あなたがガンバってきたお陰でしょう。なんて口が裂けても言えない。あなたがそこに至るまでに、本当に多くの人が、あなたを支えたのだから。

年金を納める額より、貰える額が少ない-だから納めない。なんて私の考えでは奢りもいいところである。あなたの祖父母の世代を支えたのだから、それであなたも生まれてきて成長できたのだから、せめて次世代へのバトンを渡すつもりで行きてゆけばいいと思う。納める力があるのに、納めるつもりが無いのであれば、現在の制度に代わる代案を提出すべきである。人間が、他人に感謝できないのは、その人の想像力があまりにも乏しいからである。どうして苦労して一生懸命頑張っている隣人に気づかないのか。

***
今日は送別会があった。
2ヶ月頑張った1年目研修医の3人の先生たち、そして1年半大学で研鑽を積まれたT先生、本当にお疲れ様でした。皆さん本当に優秀で、自分が研修医だった頃を思い返すにつけ、恥ずかしくて穴に入りたい気分です。これから先も、是非自分を信じて頑張ってください。幸せは相対評価にはなりえません。いつも幸せかどうかは絶対評価です。

2010年9月29日水曜日

(雑)全くの他人事ですが・・・の煙草の値上げ

受動喫煙での死亡者が6800人/年(厚生労働省研究班9月28日発表)

という記事を読んだら、先日コンビニのレジで並んでいた齢60歳ほどの女性を思い出した。煙草を何カートンかまとめ買いしようとしていた光景を。
実際私はどっちでもよいと思っている。煙草料金が上がろうが下がろうが、禁煙しようがしまいが。過度の禁煙志向に「本当の豊かさとは何か」を問う人がいたり、「分煙さえしてれば吸いたい人は吸ってもいいんじゃない」と愛煙家に同情する非喫煙者、誠に色々な意見があると思う。大いに結構である。私が煙草を吸わない理由は1つにお金がかかる。2つに「吸うことで煙草臭を周囲の嫌煙家に嗅がせることで、その人から買う必要の無い悪意を買いたくない」という点からである。だから時折の酒の席での受動喫煙ならば別に気にしない。嫌なのは、分煙になっている店でなぜか煙草の臭いを服や頭髪につけて持ち帰らねばならないことである。受動喫煙するつもりのときに副流煙を吸うのならば構わないが、吸いたくないのに吸わされる副流煙は嫌なのである。
まぁそれは兎も角として、全身麻酔を受ける予定がある人ならば、手術中に喀痰が増え、その痰が原因となって術後に無気肺や肺炎を起こしうる可能性が非喫煙者よりも喫煙者で高くなるということを覚えていただきたいと思う。くも膜下出血で緊急手術が必要でも、子宮外妊娠で緊急手術が必要でも、腸閉塞で緊急手術が必要でも、冠動脈バイパス術で緊急手術が必要でも、喫煙者の方が非喫煙者より周術期の呼吸器合併症が多くなるであろう事を十分認識したうえで吸っていただきたい。
1000円/箱になるまで吸ってやる!という人には是非とも頑張って煙草税や煙草産業従事者の賃金となるであろうお金を納め続けていただきたい。喫煙が反体制の象徴のように世間から嫌悪され続けても、JTが煙草を作らなくなっても、喫煙者の方々には、是非とも人生の最期の瞬間まで信念をもって煙草を愛し続けてほしいと思う。

2010年9月27日月曜日

(走)Training in Rena (其の六十六)


当直明けに電車に乗って帰宅したら、既に半袖の人は殆ど見かけなくなっていた。半袖麻酔科医の私はちょっと風邪をひきそうである。

4ヶ月半ぶりにIn Body測定をしてもらった。
体脂肪率はたった0.1%だが減少していた。体重はほぼ横ばい。
下肢の筋肉量は多少増加していたが、大きな変化はこの4ヶ月では見られなかった。だが、確実に走力はアップしている。この違いは何なのだろうか?先日の20km走後には背筋の痛みが出たので、今後は体幹の筋肉トレーニングもしっかりやっていこう。

ランニング: 3.5km、25分(傾斜3.0-10.0、8.0km/hr)
 計496.1km(7月 80.2km, 8月 65.8km, 9月 48.5km)
 (総時間3078分=51時間18分)
筋トレ:背筋、腹直筋、腹斜筋

11月5km: ねりま光が丘ロードレース(あと48日)
12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと69日)
(2011年2月 42.195km 東京マラソン あと153日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと174日)

そういえば受理決定の連絡を受けていた論文の校正が送られてきていた。貧弱な英語力しかない私の論文に赤文字で「a」や「the」やコンマの使い方など、チェックを入れてくださった方に感謝。

2010年9月26日日曜日

(音) Opera Magna - POE (2010年)

全編スペイン語で歌われる本作はバンドの2作目。同郷スペインの先輩バンドDark Moorの2作目「The Hall of The Olden Dreams」を超える叙情歌謡メタル曲のオンパレードである。垢抜けない雰囲気や高音域で不安定になるヴォーカルがまたよい。#10「caida casa usher」はこのジャンルの偉大なる先駆者Rhapsodyへのオマージュか。名曲「Emerald Sword」を彷彿とさせる展開。
日本人好みのメロディ満載の名盤。Amazon.co.jpでは買えないようで残念である(2010年9月26日現在) 。

(麻)麻酔とアナフィラキシー

今度の勉強会用にとアナフィラキシーに関連した資料を見直していた。
「Anaphylaxis and Anesthesia -Controversies and New Insights. Anesthesiology 2009; 111:1141–50.」(PDFがフリーでダウンロード可能)
http://journals.lww.com/anesthesiology/Citation/2009/11000/Anaphylaxis_and_Anesthesia__Controversies_and_New.31.aspx

・・・Another potentially confounding sign might be bradycardia, which can be seen in massive hypovolemia, probably as a result of the Bezold–Jarisch reflex, a cardioinhibitory reflex that has its origin in sensory receptors of the left ventricle transmitted by unmyelinated vagal C fibers. This paradoxical bradycardia occurring during extreme hypovolemia has been reported to occur in as many as approximately 10% of patients with anaphylaxis during anesthesia. In this case, bradycardia may be considered as a life-protecting adaptive mechanism that allows the ventricles to fill before they start contracting again despite a massive hypovolemia. Therefore, this specific event during anaphylaxis must be recognized by the anesthesiologist caring for the patient because the administration of atropine in direct response to the symptom of bradycardia might directly induce a circulatory arrest, the adequate treatment in this setting being a large volume expansion followed by epinephrine.

「アナフィラキシーショック時に除脈を来しているからといってアトロピンを使うと心停止を起こすかもしれない」と書かれている。治療はアドレナリンと輸液が第一。皮膚症状を起こさないアナフィラキシーショックもあるから、除脈をみた時には注意が必要か。特に脊髄くも膜下麻酔で高位脊麻から除脈…が疑われるような症例でもアトロピン使用には注意した方がよい?局所麻酔薬でのアナフィラキシーが稀だからといってなめてはいけない。「稀=ゼロ」ではない。「除脈=何も考えずにアトロピン投与」はまずい。

ぱっと探しただけでも以下のような報告がある。
「塩酸ブピバカインによる脊髄くも膜下麻酔でアナフィラキシー様反応を起こした1例.」
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/25/2/175/_pdf/-char/ja/

政治家の答弁ではないが「あらゆる可能性を視野に入れて」対処するように心がけよう。おそらく麻酔科医の仕事がまだまだコンピュータで代替できないのは、アナフィラキシーショックのような生命の危機が発生した場合への迅速な対応という点において、であろうし。

(雑)お金の教養と仕組み

無料で2時間の講習。どのような会なのかと思い当直前の時間を利用して夫婦で参加してみた。至極まともな内容で、参加していた人たちも熱心にメモを取っていた。

お金の教養と仕組み
1.稼ぐ能力より持ち続ける能力を身につけよう
・まずはプラス5万円を稼ぐことより今の状態で5万円つくる(無駄な支出など収支を見直す)ことを考える。
・例:収入の2割を天引き預金(別の口座。将来の軍資金にする)し、2割を定額自動送金(別の口座。自己投資に使う。こちらは使い切るつもりで)しよう。そして残り6割で生活する。
2.通帳を「決算書」代わりに使おう
・毎月決算日を決める。収支を大雑把に眺め、自分で成績をつける(A,B,Cなど)
・あらゆる収入・支出を通帳に集約し、毎月「決算」をする。日々の雑費もクレジット払いにすると、通帳に履歴が残り管理しやすい
3.損益計算書(P/L = Profit and Loss statement)を作ろう
・支出を「食費」「水道光熱費」「交際費」など10項目程度に仕分けして1回/月集計しよう(ファイルなどを利用。1円単位までやる必要はなく、大雑把でよい)
・家、車、保険等の固定費が収入の3割以下になっていれば健全な家計の目安である
4.3回決算したら3カ月毎に「貸借対照表(B/S = Balance Sheet)」を作ろう
・財産の評価額、返すべき借金の残額を1回/3カ月集計しよう
・持ち家の場合、購入した額ではなく、インターネット等を利用して「およその市場価値」で査定する。
5.他人の時間を上手に活用しよう
・お金を払って会計士を雇おう
・記帳代行や税務顧問など
6.財布にも働いてもらおう
資産を分散させる、運用期間を決める
7.5つの島(株、不動産、債権、商品、為替)を行き来させる
8.不動産で増やすなら
9.株式で増やすなら
10.FXで増やすなら

単行本「お金の教養ーみんなが知らないお金の「仕組み」 ― 泉正人」の内容から学んだ内容が多かったような印象を受けた。講習内容もさることながら、理解しやすい話し方、見やすいスライドの作り方、といったことも参考になった。上記項目8-10は人によって興味があれば、というところ。FXはギャンブル的要素が強くて、とてもやる気にならないが。

2010年9月25日土曜日

(麻)ペースメーカー(PM)メモ

@レントゲンでのデバイスの判別
 ・ICDやCRT-Dでは「除細動コイル」という「太い構造物」が二箇所あるはずなので、外科医の「ペースメーカーが入っています」を妄信せずに自分の目でレントゲンを確認する。(特に緊急手術の時には)
・CRTには「LVリード」がある筈なので左室内に行く導線の有無をチェックする。

@電気メスの影響
・極性 
1.Unipolar - 主に切開・凝固に使用 
2.bipolar - 主に止血・凝固に使用。生体内に電流が流れることは殆どない。電磁干渉は起こりにくい。凝固部位がジェネレータに近接していると、ジェネレータ損傷につながる恐れあり。
・影響
1.プログラムされる
(PMのプログラムがリセットされる可能性、バックアップモードに切り替わる可能性。)
2.ジェネレータに対する永久的な損傷が生じる
(直接電流が流れ込むことによる)
3.ジェネレータの抑制が起こる
(心臓が動いているものとPMが認識して、デマンド機能が働き、必要なペーシングを抑制してしまう可能性)
4.ノイズモード、初期設定に変更になる
(ノイズが連続した場合に、自己予防のための防御機能が働いて、VOOモードなどの固定モードに切替る)
5.心筋に影響を及ぼす
(リードを通して心臓内に電流が流れ、二次的に心筋が温熱刺激を受ける。これによって心筋梗塞やVFが生じる)
6.ICDが作働する

@安全対策
・術前
1.植え込み要因となった原因疾患の把握
2.PM依存度チェック。ECGやプログラマーによるペーシング率レポート等
3.術前の設定条件
4.抗不整脈薬の内服やその他の内服
5.ペーシング、センシング極性の確認
6.手術部位(頚部や胸部は影響が出やすい→電メスの使用は最低限に。連続使用を避ける。止血はbipolarを用いるほうが良い。対極板張る位置注意。腹部や下肢では、電メスと対極板がジェネレータと交わらなければ問題ないとされる。)
・術中
ユニポーラ使用時には・・・
1.対極板をしっかりはる
2.体外式除細動器のパッド装着(貼る部位はリード線を挟まないように心臓の腹側と背側に貼るのも一法)
3.モニタ(パルスオキシメータや動脈圧ラインなど)
4.設定変更:VOO or AOOモード、ICDの作働をoffにする
~設定のいろいろ~
・基礎疾患が房室ブロックでPM依存の場合:VOOモードが最も用いられる。VOOモードでは自己脈と競合し、spike on TからVFを招くことが懸念される。(実際は稀らしい。普段の脈が徐脈で殆どPMリズムならこの設定でよいと考える)
・SSSで房室伝導障害がない場合:AOOモードが推奨される。自己脈より20-30bpm高めの固定レートに設定する。
・自己心室脈が徐脈の場合:2倍程度の心拍数を目安にした固定レート
・自己心室脈が正常範囲内の場合:自己心室脈より20-30bpm程度高めの固定レート
5.ジェネレータから最低15cm離れた部分で電気メスを使用することが勧められている
6.術後にPMチェック

@ICDの設定:VF/VTの検出機能をoffにする。術中にVF/VTが起きた場合にマニュアル操作でICDが作働できるようにしておく(プログラマーに待機してもらう)。体外式パッドを準備しておく(パッドはジェネレータと10cm以上離して貼る。心臓を挟み込むように前後に貼ることが推奨されている)。

@緊急手術時の対策:プログラマーに可能な限り立ち会ってもらう。ジェネレータ植え込み部直上にマグネットを置くとVOOやDOOなどの非同期モード(比較的高い固定レート-マグネットモード)にすることができる。

@基本
ペースメーカーコード
・第1文字:ペーシング(刺激)位置
・第2文字:センシング(検出)位置
・第3文字:モード(制御様式)
・第4文字:心拍応答
・第5文字:multiple pacing

@過去問から 47C33-34
・右乳がん手術時に右前腕に対極板を貼る
・脱分極性筋弛緩薬投与で筋線維束攣縮→心室のオーバーセンシングをもたらし、PM抑制生じた報告あり。SCCは避けた方がよい。
・ECGモニターのフィルターは解除する(PMによる刺激の有無を判断するために)
・パルスオキシメーターがPMに電磁干渉を及ぼすことはない
・神経刺激装置はPMのオーバーセンシングを生じる可能性あり。避けた方が無難。

9月21日の勉強会に参加できなかったので、理解は未だに不十分な気がしてならない。

(走)Training outside (其の六十五)

この1週間ほどで最高気温が急に10℃位下がってきた。ようやく外でも走りやすい季節に。

ランニング: 9.1km、51分27秒
 (16:10-、平坦な川沿い、およそ10.5km/hr、22℃晴れ湿度46%)
 計492.6km(7月 80.2km, 8月 65.8km, 9月 45.0km)
 (総時間3053分=50時間53分)

11月5km: ねりま光が丘ロードレース(あと51日)
12月21.095km:いたばしリバーサイドハーフマラソン(あと72日)
(2011年2月 42.195km 東京マラソン あと156日)
2011年3月42.195km:板橋Cityマラソン(あと177日)

***
練習の用語
1.インターバル走:全力走と全力走の間に「ジョギング」を挟む。数セット繰り返す。
2.レペティション:全力走と全力走の間に休憩を挟み、しっかり心拍数を落とす。
3.ビルドアップ走:スピードを徐々に上げていくトレーニング。
 最終的に「全力での1km」など決まった距離の全力走をおき、心肺と脚を追い込む。
4.ペース走:出場するレースに備えて、レースペースで走るトレーニング。
5.LSD(long slow distance):ゆっくりと長い距離を走る。

@フルマラソン3ヶ月用メニュー (マラソンは毎日走っても完走できない-小出義雄 p119より)
・土:追い込む~インターバル走を数セット(15-40分程度)
・日:長い距離を走る~90-180分程度(15km~25~35km)
・月:休み
・火:30-60分ジョギング
・水:ビルドアップ走~10分ジョギングの後ペースを上げる
・木:休み
・金:30-60分ジョギング

これを繰り返せれば、わりとラクに(??)フルマラソンを完走できるかもしれないだろうが…距離を稼ぐにはやはり通勤路ランを徐々に取り入れていくしかないかも。そう考えて今日は通勤で履いても違和感のない黒いランニングシューズを購入してみた。

2010年9月23日木曜日

(麻)やっぱりTHR/TKRには区域麻酔がよい?

Anesthetic Management and Surgical Site Infections in Total Hip or Knee Replacement   ~A Population-based Study. Anesthesiology. 113(2):279-284, August 2010.

Results: Of the 3,081 sampled patients, 56 patients (1.8%)had 30-day SSIs; 33 (2.8% of all under general anesthesia) of them had general anesthesia, and 23 (1.2% of all under epidural or spinal anesthesia) had epidural or spinal anesthesia (P=0.002). The odds of SSI for patients receiving total hip or knee replacement under general anesthesia were 2.21 (95% CI=1.25–3.90, P=0.007) times higher than those who had the same procedure under epidural or spinal anesthesia, after adjusting for the patient’s age, sex, the year of surgery, comorbidities, surgeon’s age, and hospital teaching status.

THR・TKR手術の麻酔法の違いでのSSI(手術創感染)の差を比較。硬麻/脊麻群は1.2%、全麻群で2.8%の発生率と全麻群で有意にSSIの発生率が多かったということである。高血圧、脂質代謝異常、冠動脈疾患、糖尿病の合併率はいずれも硬麻/脊麻群が有意に多いにも関わらず、の結果である。いろいろと突っ込みどころはあるとは思うが・・・。