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2010年4月10日土曜日

仕事耳を鍛える ― 内田和俊

私が数ある音楽の中でヘヴィメタルを主食とする“メタル耳”になったのは恐らく高校3年生のときだったが、「仕事耳」とは面白いタイトルだなと思って手に取った本書。「聞く」のではなく「聴く」ことの重要性を説いた新書である。「聞いていても聴いていない」状態がいかに多いか、またどのように人の話を聴いた方がよいのか―それを分析、指導している。人の話の「聴き方」など、これまでの人生で教えてもらったことはないし、学んだ記憶もあまりない。「人の話はよくききましょう」というただの呪文みたいな合言葉みたいな言葉なら聞いたことはあるが、その実践方法は私にとっては謎のままだったが、本書を読むことでいかに人の話を普段聴いていないか、を痛感した。
指導していてよく思うのが、相手が相槌を打っているからといって理解しているわけではないということ。または、理解はしていてもそれを実行に移してくれるかは確実ではないということ。または、自分勝手に情報を選んで聞いているために曲解されて伝わることもままあるということ。まぁ自分自身を振り返ってもしょうがないことなのだが…。日本人による日本語同士のコミュニケーションなのに伝わらない。それは相手に対する洞察が足りないのが一因となっているのかもしれない。
人は前提の知識がないことを理解できない。実習で回ってきた学生や研修医にいきなり「挿管時に使うロクロニウムの量はどれくらい?」と聞いても理解できる筈がない。恐らく教えるために必要な技術は本書の筆者が説く「聴く」力が前提となる気がする。それは相手の言動から、相手がどの程度の理解や目標をもって行動しているかを汲み取り、直接話をすることでその裏づけを行い、相手に欠けている視点からアドバイスをすることが大事なのではないだろうか。彼我の立場を無視した知識や禁忌の押し付事項伝授の押し付けはおせっかいなことこの上ない。

・みんな同じ事を言っている には要注意。ある一人の意見を鵜呑みにしてはいけない。
・発見を妨げる最大の障害は、無知ではなく、知っていると錯覚することである - ダニエル・J・ブアスティン(92)

経験を積むと足枷になるのが、まさにこれだろう。やはり素直な心が大事なのだ。