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2011年9月29日木曜日

(音) 15年目の脳内モルヒネ。

尊敬する人の意見は素直に聞こうと思い記す。

***
今は解散してしまったピエロ(PIERROT)というバンドのポップなロックソングに「脳内モルヒネ」(1997年、インディーズ時代のアルバム「CELLULOID」収録、その後2003年に15枚目のシングルとして発表)があります。

サビの歌詞にこうあります。

 脳下垂体は既に、生き続けることをあきらめ始めて
脊髄にモルヒネをせめて気が狂わぬように与えてくれる

私は彼是15年もこの楽曲を愛聴しているのですが、麻酔科専門医試験の午後のB問題、C問題を解いている最中にふとノイズの如く疑問が湧き出てきたのです。

「脳内モルヒネ」ってなんだ?そして「それ」は本当に下垂体から出てるんだっけ?

んー。
んー。
麻酔科専門医にならんと欲しているのに、「脳内モルヒネ」についてあまりにも無知だ。
こんなことで、私はいいんだろうか?
と思いはじめたが最後、午後の試験時間には、その疑問ばかりが頭の中をぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐるぐると回り続け、試験問題が全く頭に入ってこない。

Brugada?あー。

HIT?んー。

目の前の、今まさに解決しなければならない問題より脳内モルヒネ。脳内モルヒネ。
試験が一秒でも早く終わらないだろうか。あー、早く脳内モルヒネについて勉強したい!!

と思うと(いや、思う前からですが)最早、試験は苦行でしかなく。

***
結局脳内モルヒネ=βエンドルフィンで、しかもきちんと下垂体から分泌されていることを知り、大変嬉しくなりました。流石尊敬するPIERROT。ちゃんと裏をとって歌詞を書いているんだな…とファン歴15年で、更にこのバンドへの畏敬の念を深めた麻酔科専門医試験の1日目。

(麻) 鉛筆でぬりぬり

50Aから気になったところを。

・圧拮抗現象:吸入麻酔のメカニズムとしては,吸入麻酔薬が脳細胞の膜の脂質二重層に入り込んで側圧をまし,これがイオンチャンネル蛋白の活動に影響を与えて,麻酔状態を誘導すると考えられている.吸入麻酔薬は脂質二重層に入り込んで,膜構造に歪みを与える.高圧を加えると脂質二重層に入り込んだ吸入麻酔薬との物理化学的結合に異常が生じ,吸入麻酔薬分子が脂質二重層から除去されてしまう.これが圧拮抗現象である.
→参考ウェブ「電子版麻酔学教科書」
http://masuika.net/forum/forum2.cgi?Work=Part&Forum=page6&No=&Num=8&Back=Tree

 ・フルマゼニルの代謝:大部分がエチルエステルの加水分解によりカルボン酸体に代謝された後、その約40%がグルクロン酸抱合体に変化し、いずれも尿中に速やかに排泄。
・水中毒 ― オキシトシンの副作用
・脊髄の痛覚伝導路 ― 外側脊髄視床路
・パラコート:胃から吸収せず、腸から徐々に吸収(腸肝循環は少ない)吸収率=10(5~15)%、6時間で40%

@麻酔科学の歴史
・亜酸化窒素の麻酔作用発見:1800年 Davy H
・モルヒネ分離:1804年、ドイツの薬剤師フリードリヒ・ゼルチュルナー (Friedrich Sertürner) により、初めて分離(この物質は、史上初めて薬用植物から分離されたアルカロイドとなった)。
・CO2の麻酔作用:1824年。Hickman HH
・エーテル麻酔実施:1842年。Long CW
・プロカイン合成:1904年。Einhorn A

2011年9月28日水曜日

(音) 実は自分好みの神曲があるということに気づくまで6年も要したDream Theater の Octavarium (US, 2005年)

今年2度目の神戸入り。明日から麻酔科専門医試験です。
***

熱心なファンやマニアの方々が非常に多く、「メタル」というジャンルを遥かに超越したアメリカの、いや世界の貴重な音楽遺産の一翼を担っている(?)バンドです。ジャンルはプログレッシブメタルに分類されることが多いです。

傍目に見てわかる特徴としては以下の2点。
1. 超絶技巧(楽器素人の私には、どのくらい超絶なのか、がわかりませんが、今から麻酔科医やめて一生練習しても到底辿り着けないであろう境地なことはライブ映像見るだけでもなんとなくわかります)
2. 1曲1曲が長い(組曲形式のSix Degrees of ~は約40分。それ以外でも10分程度はざらで、中には複数枚のアルバムを跨いで続いている曲があります)。

11作目となる新譜「A Dramatic Turn of Events」が今月発売され、既に聴かれた方々の作品に対する評価は概ね良いようなので、私も早く聴きたいのですが、未だ未聴の状態です。
というのも、これまでの作品にきちんと、正面から向き合ってなかった自分を恥じておるからなのです。これまでのスタジアルバムは全て何らかの形で所有していて聴いている筈なのに、「あぁ、あのアルバムだと~がいいよね~」と語れる程に聴き込んでいないのです。
私がどの曲も詳細に思い出せるアルバムと言ったら、5th「Metropolic Part.2 - Scenes from a memory」(1999年)と7th「Train of Thought」(2003年)だけ。とてもじゃないけどDream Theater (以下DT)ファンとは言えない状態。
ファンの間では名盤とされる3rd「Awake」(1994年)や言わずと知れたプログレッシブメタルの金字塔の2nd「Images and Words」(1992年)ですら、その評価の高さから何度も再生ボタンを押し、数曲聴いては、「…う~ん、やっぱTrain of Thought聴こっと」となって3曲目「Take the Time」の1:30あたりのラブリエのハイトーンヴォイスあたりで停止ボタンを押してしまっていたのです。おそらくこのアルバムが身に染みてこないのは、アルバムの発表をリアルタイムに追いかけるようになったのが、5thアルバムからだったからなのだと考えています。
だからもしかすると数年、数十年後には「Images and Words最高!」とか「やっぱ3rd albumのAwakeが一番いいよね~」とか言ってる可能性もあるので、今こうして「なんかイマイチなんだよなぁ…」と思いながらも2ndや3rdアルバムの曲のメロディを、取り敢えず脳のどこかにしまい込んでおくことは全くナンセンスなことではないと思っているのですが、それにしてもやっぱりある程度の即効性があって聴神経や脳が喜ぶような音を聴きたいものではあるのです。(多分HelloweenにおいていつまでもMichael Kiske在籍時の「Keeper of the Seven Keys Part I & II」が最高傑作!と言い続けているようなものでしょう、おそらく)

そして自分にとって「即効性がない」という意味において、8曲入りの8thアルバム「Octavarium」(2005年)もそういう作品の中の1つだったのです。
2005年の発売時に購入していたものの、その魅力に長いこと気づきませんでした。恐らく買った当初は聴いたのだと思いますが、ヘヴィだけど……うーん……な#1と、曇り1つ無いバラード#2で完全に眠りの世界へ誘われ…ポップス過ぎる#4で完全に脱落。
「メロディはいいけど…別に、これってDTじゃなくてもいいじゃん」と不遜にも思ってしまって#5まで到達できていなかったのです。
おそらく購入した2005年あたりは、初期研修医として働き始めたこともあり、土日祝日関係なく毎日のように病院で仕事をして、音楽を楽しむ暇もそれほどなかったためではないでしょうか。だから「新しく中毒性を与えてくれる(かもしれない)この新しいOctavariumというアルバム」に少ない余暇の時間を割くよりも、確実に楽しめる「Train of Thought」を偏愛して聴いていたのだと思います。

1. Root Of All Evil (8:25)
2. Answer Lies Within (5:33) メタル色の一切ない非常に聴きやすいバラード。euphoric。
3. These Walls (7:36)
4. I Walk Beside You (4:29) これも聴きやすいけれど…。
5. Panic Attack (8:13)

6. Never Enough (6:46)
7. Sacrificed Sons
(10:42)
8. Octavarium (24:00)
 

#8「Octavarium」の4:33-で聴かれるような郷愁を誘うメロディは好きなのですが、1曲で24:00はやっぱり長い…。これが楽しめるようになるには、もう少し年月が必要なようです。
兎に角、#5と#7は「This Dying Soul」や「Endless Sacrifice」並に今後聴き続けるであろうことが決定しただけでも、麻酔科専門試験の勉強をした甲斐がありました。
特に911の米国での同時多発テロを題材とした#7は、deep & darkな鳥肌モノのバラードに仕上がっていると思います。あー生きててよかった。

…しかし、こんな名盤が459円(+送料)程度でAmazonで買えるってどういうことなんだろう。DTくらい世界的に売れていれば安くても良いのかも知れないけど、大して売れてないバンドでこの価格だったら生計立てていくのきついだろうな…、と思わずにはいられません。11作目はもう少しだけ過去の曲を咀嚼してから聴くことにしよ。

2011年9月27日火曜日

(麻) 肺動脈カテーテル(PAC) ― 麻酔科専門医試験に関連した知識

今からPAWPの波形書けるようにしておかなきゃ。もう遅い?

***
@PAWPと肺動脈拡張期圧(PADP)の相関が悪くなる病態 (過去問頻出)
1. PAWP > LVEDP
MS、MR、LA myxoma、VSD ( LAP > LVEDP)
肺静脈閉塞性疾患( PAWP > LAP)
高いPEEP( PAWP > LAP)

2. PAWP < LVEDP
LVコンプライアンス低下、HCMなど(LAP < LVEDP)
AR(LAPのa 波 < LVEDP:拡張末期の早期僧帽弁閉鎖)
PR、右脚ブロック、肺血管症減少

3. PAWP < PADP
PH、肺性心、PE、頻脈(頻脈はLVEDP<LAP<PADP)

@PAWPの波と谷 
(こちらも過去問頻出。因みにCVP問題もほぼ同様の考え方で解けます。僧帽弁→三尖弁、v波増高→三尖弁閉鎖不全、y谷の僧帽弁開放→三尖弁開放、というふうに。但しCVPのa波はECG上のP波の比較的すぐ後(PとQRSの間)に出現する=PAWPの波より時相が早いことに注意)
a波:心室拡張末期の心房収縮によって作られる陽性の波。洞調律ではこの波が最大。。
c波:収縮期開始時の僧帽弁閉鎖により作られる小さい陽性波
*ECGのR波に続いて見られる
v波:心室収縮期にPVから心房への血液の流入によってできる陽性ノッチ
x谷:a波、c波につづく下行脚。心房の弛緩に一致
y谷:v波につづく圧の低下。僧帽弁の開放にともなって心室への急速流入によってできる

*a波はatrial kickのa、c波はclosureのc、v波はvetrivcle、veinのv、と下記「Intensivist」のp205にあります。

@a波消失
・AF、房室結節リズム、心室ペーシング、心室調律
@巨大a波
・MS、拡張期LVコンプライアンス低下(47A36)、III度AVB、房室解離(タイミングがずれて僧帽弁が閉鎖された状態で心房収縮が起こるため生じる)

@巨大v波
・MR → 収縮後期逆流性雑音 
・急性心筋虚血

その他過去問から
・肺動脈カテーテルによる心拍出量測定:古典的にはStewart-Hamilton式に基づく熱希釈法で行う。熱希釈曲線はCOが大きいほど変化が小さくなる(46B)
・希釈法では注入量が少ないと、COは実際値より高くなる。

@PAWP(平均圧6-12mmHg)の測定
・呼吸:胸腔内圧の変化の影響を最も受けにくい呼気終末に測定。
・循環:左室拡張末期圧(LVEDP)を見たいため、その圧を反映する心集気の点(心房収縮後で僧帽弁閉鎖直前(z点:a波とc波の間。ECG上Q波の50msec後、R波あたり))で測定。
・通常はPAWP≒肺動脈拡張期圧なので、PAWPは平均肺動脈圧より低い。
・PEEP付加時:一般的にはPEEPをかけたまま呼吸回路をはずさずにそのまま測定し、呼気終末の時点のa波の平均を採用
・PAWPを測定する理想的なポイントは過去問通りWest zone 3(肺動脈圧 > 肺毛細血管圧 >肺胞圧)

以下の文献やウェブに大変お世話になりました。
・非侵襲的モニターは侵襲的モニターを超えられるか 日臨麻会誌. Vol 31, 58-66, 2011
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/31/1/058/_pdf/-char/ja/
・Dr.讃井の集中治療のススメ
http://blog.goo.ne.jp/jseptic
・Intensivist 2011 vol.3 No.2 モニター、MEDSi、2011
・ICUブック第3版、MEDSi、2011

(麻) 麻酔科専門医試験口頭試験2010年症例1-1 帯状疱疹後神経痛

初めて患者さんにSGBをさせていただいたときの緊張といったら、今でも忘れられない。

@症例
・65 歳男性。165cm、 70kg。
・糖尿病の既往
・6 か月前に右肺がんの手術を受け、化学療法中
・2 か月前に右項部(髪の毛の生え際)から右鎖骨領域にかけて痛みを伴う赤い集簇性の水疱が出現
・現在は、ぴりぴりした痛みがあり、シャツの襟が当たったときにぴりっとした強い痛みが走る。入浴で痛みが和らぐ。

質問
1) 全身状態の評価について
1.この患者の問題点を挙げる。
・BMI25.7で1度肥満
・DMの既往と化学療法中のために易感染性であろう
・肺がん術後で呼吸機能低下
・化学療法の薬剤によっては貧血と血小板数低下、末梢神経障害等の可能性もある
 (帯状疱疹にまれに合併する髄膜炎、脳炎、肝・腎の巣状壊死、IPなども念頭に)

2.現在の痛みの原因は何か。
・水痘・帯状疱疹ウイルスによるもの。亜急性期(発症から1ヶ月~6ヶ月)
*日本ペインクリニック学会誌, Vol. 17 (2010) No. Supplement pp.S55-S134によれば発症から6ヶ月で「帯状疱疹後神経痛」である(時期については暫定的で、まだ明確な定義なし)。6ヶ月以降の疼痛残存率は60歳以上で10%程度。免疫不全では45%程度まで上昇。
*因みに帯状疱疹の再発は全患者の1%程度と比較的稀。

3.この痛みのタイプ、皮膚分節における部位、痛みの特徴を挙げる。
・帯状疱疹神経痛
・皮膚分節:三叉神経第3枝~C4程度。
・ 皮膚がぴりぴりした感じや鈍痛で始まる。かゆみを伴う事もある。痛みは増強する。通常は発症2週間後に最高になる。皮膚の知覚異常を合併する。徐々に服がこすれただけでもピリピリ痛むようになる。

2) 星状神経節ブロックについて
1.この患者に星状神経節ブロックを施行する。星状神経節はどこにあるか。
・第7頸椎横突起基部前面。穿刺は第6(輪状軟骨の下縁)あるいは第7頸椎横突起を基部に行う 。C7の下部1/3は肺尖部と重なる。

2.星状神経節ブロックの実施前の注意点と具体的なブロック方法について述べる。
@実施前の注意点:
・緊急の対処が必要となる合併症の発生があり、酸素吸入、人工吸入、血管確保などが必要であることから、救急医薬品を常備して救急蘇生を行える準備をする
・出血傾向のないことを採血や問診で確認
・呼吸困難が出現したらただちに連絡するように事前に説明
・ICを行い、書面で同意を得る

@手技
準備:5ml注射器、25G針(25mm)、局所麻酔薬(1%メピバカインorリドカイン5ml)
体位:枕をはずし仰臥位。顎を前方に突き出し、頸部は少し後屈。軽く開口させ、頸部筋肉の緊張をとる

@手順
・清潔手袋で穿刺部位の消毒
・示指と中指で、輪状軟骨の高さで、胸鎖乳突筋をゆっくり外側に圧排、頸動脈拍動を触知。動脈誤穿刺を避けるために、頸動脈の位置を確認して穿刺。
・わずかに頭尾側、左右に指先を動かし第6頸椎横突起前結節を探り、指先で前結節をおさえ、その内側の横突起基部をめがけ刺入。
・頸部の軟部組織をしっかり分ければ、皮膚から横突起まで15mm以内で到達。血液逆流がないことを確認し薬液をゆっくり注入。
・抜針後は、刺入部に滅菌ガーゼを当て、患者にブロック側と反対側の指で、刺入部を圧迫させる。
・抜針時に針先や注射器に血液が認められた場合には、術者自身が5分以上圧迫。
・ブロック後20-30分以上、ベット上安静、経過観察。意識や呼吸状態のチェック。

3.星状神経節ブロック後の症状を列挙。
A.頸部交感神経幹 B.上胸部交感神経幹 双方が遮断される。
Aがブロックされたことの判定:眼瞼下垂、縮瞳、眼球陥凹のHorner徴候、眼球の充血、鼻閉感、顔面の紅潮、温感、発汗減少
Bがブロックされたことの判定:手掌の発汗停止、上肢の温度上昇

4.星状神経節ブロック後に予想される合併症を列挙。
・反回神経麻痺(針先が内側すぎると生じる。1-2時間で回復。その間、飲食を控えるよう指導)
・腕神経叢麻痺(針先が深すぎると腕神経叢ブロックに。針先が神経に触れると、paresthesia。C7から刺入すると起こりやすい。1-2時間で回復)
・硬膜外腔やくも膜下腔への誤注入(針先が内側深すぎると生じる。薬液が神経に沿って中枢に流れると、硬膜外ブロック、まれにくも膜下ブロックが生じる。両側の上肢感覚、運動障害)
・血管穿刺、出血(動脈内注入で意識消失、全身痙攣、呼吸停止。頸動脈の圧排、薬液注入前吸引テストを絶対行う。注入もゆっくり。注入中の患者の変化も見逃さない。巨大血腫形成による気道閉鎖は、ゆっくり進行し数時間かけて症状が出ることも)
・感染(咽頭後部膿瘍、椎体炎、椎間板炎などで脊髄圧迫症状や呼吸困難が起こる)

3) 接遇問題
ブロック後に気胸が判明したので、入院加療することになった。この患者に付き添ってきた家族が、今回の入院の原因と治療方針の説明を希望している。家族がすでに部屋で待っていて、その部屋に入っていくところから開始。
・自己紹介し、患者さんに状態を伺う。落ち着いているようであれば、家族に、患者さんとの関係を「失礼ですが…」と尋ねて確認する
・患者さんがどのような状態で当科を受診し、どのような治療を必要とし、どのような治療を行ったかについて、家族がどの程度知っていたかを把握する
・把握が十分でないようならば、家族の理解度を伺いながら、それについてまず十分な説明を行う
・その上で、なぜ気胸が起こったか、そして非常に稀な合併症であることを説明。気胸の増悪がないか胸部Xp等を行いながら経過観察していくことと、もし増悪するような場合には胸腔ドレーンという管を入れる可能性もあること、そしてそれでも回復が見込めないようならば手術が必要な可能性(これについては家族がどの程度の温度でいるのかを説明している感触を確かめながら適切な強調具合で説明するのがよろしいと考えます)について説明する。

***
以下の論文とサイトに大変お世話になりました。ありがとうございました。
“帯状疱疹後神経痛の多面的治療はここまで進んでいる”. 日臨麻会誌 Vol. 28: 19-30, (2008)
http://www.jstage.jst.go.jp/article/jjsca/28/1/19/_pdf/-char/ja/
・Pain Rerief  → ペインに関することが非常によくまとめられていて、とても勉強になります。
http://www.shiga-med.ac.jp/~koyama/analgesia/analg-bl-sympa.html#sgb

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試験2006年-症例2糖尿病患者透析中

以前作った回答を上げておこうかな。こういう問題に当たれば、満点は取れないとしても、全く答えられないということはないので、ありがたいのだけれど。
***

症例
・45 歳男性。169cm、52kg。
・手根管症候群に対して手根管開放術予定。
・糖尿病性腎症で血液透析中。
・BP 170/80mmHg、HR 84bpm。
・空腹時血糖は181mg/dl、血液透析後のHb濃度8.1g/dl、血清K 4.3mEq/l、血清Ca 8.4mg/dl。

質問
1)術前評価と管理
1. この患者の術前状態における問題点を列挙してください。
・血糖コントロール不良の糖尿病かつ血液透析中であること
・調節不良の高血圧
・腎性?貧血
・軽度の低Ca血症(基準値およそ8.5-10.2mg/dl, 2.1-2.5mmol/L程度。血漿イオン化Ca<1.10mmol/L程度以下で低Ca血症)

2. 術前に必要な検査を挙げ説明してください。
・血算(血小板低下の有無)、生化学(肝機能など)、HbA1c値(普段のコントロールの指標に)
・透析に関する情報:スケジュール、週何回なのか、除水量は、dry weightは、HD中の血圧低下や臨床症状はあるのか、
・凝固機能(腕神経叢ブロックを考慮する際には)
・血液ガス分析(代謝性アシドーシスの程度)、
・胸部Xp(肺うっ血所見、胸水貯留所見、心拡大の有無)
・心機能(12誘導心電図、TTEで心嚢水貯留や弁機能、心収縮能・拡張能、壁運動以上をチェック)

問診では
・シャントの位置
・普段の運動耐容能(何METsくらいか推測)
・手根管症候群による正中神経麻痺以外の手足の神経症状
・出血傾向の有無

3. 貧血を是正するか。
・出血量は多くないだろうし、手術も短時間であることが予想されるため是正しない

4. 低Ca血症をどうするか。
ごく軽度なのでそのままでもよいように思う。

5. 糖尿病の評価、コントロールはどうか。
随時血糖値から判断する限りではあまりよろしくないであろう。恐らく末梢神経障害、自律神経障害、眼障害もあるのではなかろうか。冠動脈病変もあることを念頭においた管理が望ましい。

2)麻酔法および術中管理
1. 麻酔法を選択しその理由を説明してください。
2. 麻酔導入の方法と使用する薬剤について具体的に述べてください。
略。喘息患者の抜釘と同様に全麻か腕神経叢ブロックでどちらか安全に施行しうると思う方で説明。

3. 研修医が「スキサメトニウムを使いたい」と言った時、どのようにするか。
・K値が上昇する可能性がある。現時点ではK値は4台なので、恐らく問題とならないだろう。だが、術中使用する他の薬剤によりK値が上昇する可能性があるし、万が一にも赤血球輸血を行う可能性もあるだろうから、より安全に使用できる患者さんに対して使いましょう。

3)周術期危機管理
1. 全身麻酔で管理し、ETCO2が25mmHg で経過していたときにST がさらに低下。どうするか。
・純酸素にしながら、術者にSTが低下している旨を伝える。
・エフェドリン、フェニレフリン等の昇圧剤を投与する。
・ETCO2 35-40mmHg程度になるよう、換気回数を減らす
・冠拡張薬(ニコランジル2-6mg/hや硝酸イソソルビド2-5mg/h)投与開始。血圧が低くなければニトログリセリン使用も
・以上で回復すればそのまま注意深く経過観察。手術再開してもらう。ST低下や血圧低下が持続するようなら、TEEを。(但し食道・胃にTEEの禁忌となるような病気なければ)

2. i) 術前術後の透析スケジュールについて説明。
・術前日に透析を行う。dry weightを目標に。
・術後は術中合併症なく、術後出血も落ち着いているようならば術翌日に行う。

ii) 一般に透析患者に輸液や薬剤を使用する際にどのようなことに注意するか。
・輸液はKなしのものを使用する。生食か1号液。輸液量は除水量から判断して多すぎず少なすぎず、術後のことも考えて。低血圧には昇圧剤を積極的に使用し、輸血の判断も早めに行う。
・腎代謝の薬剤の使用は十分気をつける。筋弛緩薬は通常よりさらに慎重に、またモルヒネは極力使用しない。HD患者へのスガマデクスの投与は推奨されていないので、残存筋弛緩には十分注意して抜管・退室の指示をする。

4)術後管理
術後鎮痛の方法を具体的に説明。

(本) 近ごろ気になる言葉たち

・男子たるものは、一度戦って負けても、やめてはならない。二度目三度目の戦いの後でも、やめてはならない。刀折れ、矢尽きてもやめてはならない。骨が砕け、最後の血の一滴まで流して、初めてやめるのだ。―新島襄 (見城徹、藤田晋―憂鬱でなければ、仕事じゃない、p230)

・あらゆることについて疑ってみること、どんなに困難であろうとも決して回避しないこと、思考のどんな誤謬もどんな矛盾もどんな混乱も決して不注意から看過せず、自分自身の説であろうと他人の説であろうと否定的批判による厳密な吟味なしでは一切容認しないこと、そして特に、一つの言葉を実際に使用する前にその言葉の意味を、一つの命題に同意する前にその命題の意味を明確に理解しておくこと。(J.S. ミル―大学教育について、p47)

・言葉は賢人にとっては現金代わりの数取り札であり、愚者にとっては貨幣である (同p35)

・満足した豚であるより不満足な人間であるほうがよく、満足した愚か者であるより不満足なソクラテスであるほうがよい。そして、愚か者や豚の意見がこれと異なるなら、それは彼らがこの問題について自分自身の側しか知らないからだ(J.S.ミル) (これからの「正義」の話をしよう、マイケル・サンデル、p75)

・生物学的に言えば、子供は私であり、孫も私であり、私、私、私と、私を伝えていくのが生物というものです。だから私の範囲をとらえ直し、未来の私までも勘定に入れた利己主義者になりませんかと、若者には勧めたいですね。 (本川達雄、生物学的文明論、p224)

・智者が同一を見るところにおいて、愚者は差別を見る。そして、差別にとらわれて、さまざまな迷いを生じ、恐れを生じ、さまざまな苦を受けている。(梅原猛、空海の思想について、p100)

・「お金は大好きです。でもお金が倍あっても、今晩食べるものは決まっています。」(WEDGE2010年10月号)

・他のどんなことよりも教育を受ける機会を切望している数億の子どもたちが世界中に存在することを知らない子どもたちだけが「学ぶことに何の意味があるんですか?」というような問いを口にすることができる。そして自分たちがそのような問いを口にすることができるということそのものが歴史的に見て例外的な事態なのだということを、彼らは知りません。(内田樹、下流志向、p43)

・「分散は、われわれ自身の無知に対するヘッジである。自分がしていることがわかっている者にとっては、分散はまったく意味のない行為である」(ウォレン・バフェット)

***
ゾンビたちに追いつめられる夢。学校の屋上で、眼下には焼却炉。喰まれゆらゆらと落ちながら目が覚める。
オープンテラスにいる夢。石畳で海が見える。痴漢に間違えられ交番に連れて行かれて目が覚める。

***
しかしなお、人間の、聖盤、聖杯探求のねがいは続く、いまあるような人間性でない、未来の人間性への望みと努力は続いているはずだとしか、もしトーマス・マンがいまなお生きていたとしても、かれにはいえないのではないか? (大江健三郎、「話して考える」と「書いて考える」、p218)

2011年9月26日月曜日

(麻) IABP(intra-aortic baloon pump)メモ

オペ室では時々しか登場しないので、知識を忘れかけた時の記憶トリガー用に。ただIABPバルーンの先端の場所をTEEで確認するだけじゃまずかろうて。

@何はともあれ入れる前に
・適応:心原性ショック、ACS、MIに伴うMV乳頭筋断裂、VSPなど、ハイリスクPCI、ハイリスクCABG、難治性心室性不整脈
・禁忌:2度以上のAR、重篤なAVシャント、大動脈解離、大動脈瘤、コントロールのつかない敗血症や出血、高度の末梢動脈疾患、補助人工心臓適応時(特にECG非同期駆動期)
・効果は多くても自己COの20-30%、長くても1週間くらいで抜去を考慮
・バルーンカテーテルは8.5-9.0Fr。バルーン部位は15-20cm。
・バルーンはヘリウムガスで膨らませる
・バルーンサイズの身長別、およその目安
・<150cm  30ml
・150-160cm  35ml
・160cm<    40ml
・透視が出来る部屋で挿入する。刺入部から第2肋間までの距離を目安に。
・基本的にSeldinger法で

@駆動
*IABP駆動前に、出来る限り洞調律にすることが重要。不適切なタイミングでは心負荷が増えるだけ。
・トリガー信号としてECG、大動脈圧、心臓ペーシングあり。
・基本はECGトリガー。電メス使用時には大動脈圧信号で。
・バルーンinflate(膨張)は大動脈弁閉鎖直後。心収縮期にinflateしたらafterload増えるだけで有害。
・至適タイミング見るべく2:1でIABP開始
<心電図トリガーの時>
・inflate - T波頂点よりやや遅れた地点
・deflate - QRS波の直前
<動脈圧波形トリガーの時>
~兎に角波形をしっかりみて調節するのが重要!誤ったタイミングでは心負荷増えるだけ。
・inflate:開始は動脈圧波形のdicrotic notchに合わせる
・deflate:deflateした時点の収縮期圧が最も低くなるよう、動脈圧波形を見ながら調節

・抗凝固:1:1駆動の際には必要ないかも知れないが、4:1や8:1駆動時には注意が必要。ACTで150-200秒にする

@離脱
・2:1を6-12時間、4:1を2-6時間厳重に監視、具合悪ければ8:1(この比率では殆ど補助効果は期待できないので、使うのはあくまでweaning時)でも様子見る
・中断数時間後に心原性ショックになることがあるので抜去後も注意して観察を。
・離脱基準:自己mAP≧70mmHg、PAWP≦18mmHg、CI≧2.0、反復胸痛なし
・抜去後は15-30分圧迫、その後圧迫器具を更に使用して確実に止血

@合併症
・血管性:下肢虚血、動脈損傷・解離、重篤な出血、血栓塞栓症(腸間膜動脈や腎動脈、脾動脈、上肢下肢)
・非血管性:神経障害(原因不明が多い。前脊髄動脈虚血?)、バルーン破裂(ガス塞栓になり危険!直ちに駆動停止しバルーンカテーテルを抜去)、血小板減少、溶血、内臓虚血

***
参考図書
・補助循環マスターポイント102 改訂2版、メジカルビュー社、2009年 p46-57 
続 麻酔科臨床の書 -A.M.C.心臓手術と麻酔の手引-、MEDSi, 2011年 p199-208

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試験2007年症例5-分離肺換気中の気胸低酸素血症に関連して

この問題のヤマは低酸素の対応にあると思いますが。問題文中にも患者が肥満体型で肺にブラがある、ということで一側肺換気(OLV)にしたら気道内圧が高くなるぞ~ということが容易に想像できます。でも実際にOLV中に気胸が起こることってどれくらいあるのでしょう?
と思って安直ですが、PubMedを引いてみる。
比較的最近には

Intraoperative contralateral tension pneumothorax during pneumonectomy. Anesth Analg. 2008 Jan;106(1):58-60.
http://www.anesthesia-analgesia.org/content/106/1/58.long

で症例報告されています(free article)。ご存じの方も多いかもしれませんが。
この症例では肺がんに対して左下葉切除術。右用DLT(二腔気管支チューブ)をなんとか挿入(挿管困難だったのではじめは通常の気管チューブ→チューブエクスチェンジャー使用して右用DLTを挿入)し、右側臥位で手術開始。OLV開始後、低酸素や循環破綻なく、高気道内圧になった(ディスカッションでは数少ない報告全てが低酸素や循環破綻が初発症状)。
本報告の症例では右用DLTなので、右上葉換気孔の位置異常による高気道内圧や挿管に伴う気道損傷を疑ったようですが、Xpではしっかりと気胸になっていた、というもの。

本症例における診断治療の流れは・・・

高気道内圧→気管内吸引とファイバーでチューブ位置異常確認なし→高気道内圧持続→両肺換気に→皮下気腫ないけど頚静脈怒張あるぞ→Xp撮ったら緊張性気胸→その後すぐ閉胸して仰臥位にして再度Xpで気胸を確認→右胸腔ドレーン挿入→DLTを左用にチェンジ→ドレーンから持続的な排気なし→循環呼吸安定しているため再度体位をとって手術再開→オペ室で抜管。術後問題なくよかったよかった・・・。

分離肺換気中の低酸素血症はDLTの閉塞、位置異常、気管支痙攣等が鑑別に上がりますが、気胸も大事な鑑別診断の1つに挙げられますね。こんなシチュエーション、いつ何時にでも遭遇しかねない。
 
因みに麻酔中の気胸は・・・CVC挿入、腕神経叢ブロック、胸部硬膜外カテーテル挿入、手術に伴うもの、が多いようです。

@これまた因みに…分離肺換気の絶対的適応
1. 他肺からの感染性分泌物
・血液の流入阻止
・肺膿瘍・膿胸などの感染症
・大量出血(喀血)
2. 開放気道が存在する場合
・気管支瘻・気管支皮膚瘻
・手術が主要気道に及ぶ場合
・気管・気管支の損傷
3. 一側の肺胞洗浄
・肺胞蛋白症

上記以外は全て相対適応です。

(雑) iTunesの新パソコンへの引越し移行、携帯電話の電池交換

・どうでもいい話題其ノ壱。
パソコンを買い換えて1ヶ月程になりますが、漸く旧パソコンから新パソコンへのiTunesの音楽ファイルの引越しを終了しました。凡そ70ギガ分のファイルを引っ越すのは結構時間が掛かりそうだな…と思って今日までサボっていたのですが、

http://nomano.shiwaza.com/tnoma/blog/archives/007359.html

こちらの記事を完全に盲信して「CopyTrans TuneSwift」(以前は無料でダウンロードできたようですが、現在は1480円かかります)というアプリケーションを使用して外付けHDD経由に移しました。お金を全くかけずに自力でやる方法もありそうだったのですが、多大な時間と労力と、そして結局何処かでエラーが起こって発狂しそうなくらいイライラする…のような事態に発展することが容易に想像できたので、上記アプリを購入しました。
操作自体は私にも簡単で、大したことなかったのですが、ファイルを旧パソコン→HDDに80分、HDD→新パソコンに60分ほどかかりました。それでも新しいパソコンのiTunesにイチから音楽CDをインポートするよりは遥かに遥かに早いし、いろんな設定なんかも完全に保存されたままのようで大変満足できました。
iTunesは便利で便利でしょうがないのですが、パソコンが壊れたら一緒に消える運命。大事な音楽ファイルは面倒臭がらず、きちんと外付けHDDやDVDやCD-Rに保存しておこうと思いました。当たり前ですが。

・本当にどうでもいい話題其之弐。
携帯電話の電池交換をしました。今の携帯電話を使い始めて5年半になるのですが(当然スマートフォンじゃない)、近頃はフル充電下で会話をしても3分で活動停止するような状態。いくら何でもまずかろうと2回目の電池交換をすることに。そろそろ愛用中の機種の電池生産停止が視野に入ってくるらしく(私が使っている携帯の一世代前のものは今年の春先に電池の生産を終了したとのこと)、次に電池を交換しようとする際には、観念して新機種を買わないといけないのだろうか。その日が来ることを思うと今から胃が痛い。でも携帯電話ってちょっとしたメールと、待ち合わせの時のちょっとした電話と、困ったときの連絡報告に使うくらい。他の用事は殆どパソコンのメールで事足りる。本当に必要なんだろうか。

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試験-2006年症例5- 3歳女児の気管支異物

症例
・3 歳女児。100 cm、15 kg。
・節分の豆まきのあと、突然の咳発作に陥り、救急外来を受診。
・気管支異物の疑いで気管支鏡が申し込まれた。
・2時間前に夕食を摂った。

質問
1)術前評価と管理
1. この患児の術前状態における問題点を列挙して下さい。
・full stomach
・豆(かどうかは必ずしもわからないが)による気道閉塞による低酸素の可能性。慢性咳嗽、肺気腫、無気肺、肺炎の原因に。
・嵌頓異物がチェックバルブとなり陽圧換気により肺の過膨張をきたす可能性もある。

2)麻酔法および術中管理
1. フルストマック対策としてどのような処置をしますか?
・夕食後6時間待てるか主治医と相談
・ファモチジン1mg/kg等の前投与
・入室前に静脈路を確保し、rapid sequence induction
・もしくは異物が移動して換気不可能になる可能性もあるため、緩徐導入で麻酔深度が十分になった段階で輪状軟骨圧迫、補助換気が可能なことを確かめてから筋弛緩薬を投与する方が安全な可能性あり

2. 喉頭鏡の種類・サイズ、チューブのサイズはどのようなものを選びますか?
・喉頭鏡:Macintosh 2かMiller 2
・チューブ:4.5か5.0 カフなし

3. 術中の麻酔法はどのようにしますか?
・純酸素、セボフルラン2.5%程度。人工呼吸管理。適宜フェンタニル1ug/kgを静注する。
・手技は硬性気管支鏡もしくは軟性気管支鏡からの鉗子による摘出。断続的に呼吸を止める必要があるので、吸入麻酔薬の濃度低下による術中覚醒と、低酸素血症に注意する。換気中断時に低酸素にならないように純酸素で換気する方がよいと考える。
・豆が気管チューブを通らなければ、ファイバー観察下に気管チューブごと抜去して再挿管することもある。上気道の浮腫が強くなければ、であろうが。
・摘出後に生食で気管内洗浄を十分に。
・異物摘出後は喉頭気道浮腫予防にデキサメサゾン0.2mg/kg投与

3)周術期危機管理
1. 術中低酸素血症の鑑別診断と治療について述べて下さい。
・手術操作による換気中断や低換気
・豆による気管閉塞・無気肺
・喘息発作
・アナフィラキシー

4)術後管理
1. 抜管直後から、吸気時にヒューヒュー音が聴取された。鑑別診断は何か。その治療は何か。
・上気道狭窄によるなので、
・咽頭・喉頭浮腫、喉頭蓋腫脹、喉頭痙攣、
・舌根沈下、扁桃肥大によるもの
などが考えられる。
いずれの場合も100%酸素をマスクで投与、自発呼吸があるようならば、愛護的に、上気道が開通するように顔の向きを修正し下顎挙上を行う。喉頭痙攣を疑うならばマスクを完全にフィットさせLaryngospasm notchを圧迫するように強く下顎挙上、持続PEEPで解除させるのを待つ。低酸素・徐脈になる前にアトロピンとSCCを手元に準備してもらい、再挿管を考慮する。いずれにせよ術操作に伴う気道浮腫増悪の可能性があるため、術直後抜管の判断は慎重に行ったほうがよい。夜間の緊急手術であれば、日中まで鎮静・人工呼吸管理とすることも考慮する。術後の肺炎の発生にも注意が必要である。

@参考にした文献など。大変勉強になりました。
・臨床小児麻酔ハンドブック改訂第2版.2008年.診断と治療社 p182-3
・日臨麻会誌 Vol. 29: 65-68, (2009) .
・気道異物35症例の周術期管理麻酔. 56巻9号 Page1065-1070(2007.09)
・近畿大学医学雑誌30巻1号 Page7-10(2005.06)
気道異物症例の周術期管理. 日臨麻会誌 Vol. 31: 946-951, (2011) .(2012年3月10日追加)

2011年9月25日日曜日

(走) Training (其の百二十参から六迄)

筆記試験って何回解いてもおんなじ問題間違える…。繰り返しやる意味あるんだろうか。
逆に本番で、「これ見たことある!解けるぜ!」と思って瞬殺できるような簡単問題で、選択肢ちょっと変えられていたりすると間違えるだろうし…。やっぱり焦らないのが一番大事なんだろうな…。

***
漸く外で走れるような気候になってきて、ちょっと嬉しかったりする。

9/15 8.0km, 47min (傾斜0, 9.5-12.0km/h)
9/18 10.0km, 60min (傾斜0, 9.5-12.0km/h)
9/22 10.0km, 66min (傾斜0, 9.0-11.0km/h)
9/25 7.2km, 40min (平坦な舗装道路, 10.8km/h)
total distance: 885.4km (July 34.0km, August 17.0km, September 45.2km)
total time: 5616min = 93h36m (since 7th, Feb, 2010 走り始めて9/25で596日目)

2011年9月22日木曜日

(雑) 試験勉強がつまらないと感じる理由

齢30を過ぎても試験勉強真っ只なわけですが、10年以上前の大学受験時よりも遥かにもの覚えが悪くなっており、7年前の医師国家試験時よりも遥かに記憶力も減退しているわけです。当時はその偉大さに全く気づかなかったのですが、今さらながら「30歳、40歳を過ぎても医学部受験」をして、しかも合格した方々に、今更ながら本当に、心の底から敬意を表したいと思います。

おそらく試験勉強が好きな人は、そしておそらく私も世の中の平均的な人よりは試験勉強が好きな筈ですが(そうでなければ医学部受験なんてしていません、おそらく)、ご飯を食べたり大便小便を排泄したり、居眠りしたり歯磨きしたりセックスしたりするかの如く、何の苦もなく「え、なんでやらないの?」と、勉強嫌いな人たちに真顔で、一点の曇りもなく尋ねてしまうのだと思いますが、私はそこまでストイックにできないのです。

だから、凡人たる私は「麻酔科専門医認定試験」というものに、何らかの理由をつけなければならないのです。

・日本国内で、取り敢えず、何処に行ったとしても「あ、専門医はもってんだ、じゃぁまぁそれなりにはできるよね、研修医よりはできるよね」と思われる手形になる
・上記の為に、ある程度安定した所得が期待できる
・「こんなの覚えて意味あるのかよ」という知識を、強制的にでも一度体内に取り入れることで、麻酔科学の片鱗を通じて、偉大な麻酔科医たる先人たちに思いを馳せることができる
・上記の為に、今後麻酔科学的な疑問をもったときに、その分野のこれまでの歴史、バックグランドのほんの少しだけ片鱗を取り入れておくことができ、自分の研究欲求の礎になる可能性がある
・何より恐らく目の前の患者さんの安全性向上に寄与することができる。

とか何とか思ったりもしますが、取り敢えず津波と台風15号で二重に苦しんでいる被災地の方々を思うにつけ、勉強できることの幸せさを噛みしめたいと思います。安直ですが。

2011年9月21日水曜日

(麻) 雑多な知識編 - 麻酔科専門医筆記試験対策メモ

***本番で間違えそうなところ***
@GCS score
E  4点:自発的に、または普通の呼びかけで開眼
   3点:強く呼びかけると開眼
     2点:痛み刺激で開眼
     1点:開眼しない
V  5点:見当識が保たれている
     4点:会話は成立するが見当識障害
     3点:発語はあるが会話は成立しない
     2点:理解出来ない発声
     1点:発語なし
M 6点:指示に従う
     5点:痛み刺激に対して手で払いのける(合目的的な運動)
     4点:痛み刺激に対して四肢を引っ込める
     3点:異常屈曲(除皮質硬直)
     2点:伸展反応(除脳硬直)
     1点:なし

@Hugh-Jones classificationのIIからIV度
II度:坂道や階段で健康人並みに歩けない。平地は普通。
III度:平地も普通に歩けない。でも自分のペースでなら1.6km以上は歩ける
IV度:休みながらでないと50mも歩けない(一気に重症感が漂います)

@Mallampati分類のIIとIIIとIV。
class II:前・後口蓋弓が見えなくなる
class III:口峡が見えなくなる、口蓋垂は基部しか見えなくなる
class IV:軟口蓋すら見えなくなる

@心臓生理:圧量ループ、どこで僧帽弁、大動脈弁が開閉するか

@RASS:+4~-5まで10段階評価

@Ramsay score
1:不安が強い、興奮している、またはそわそわして落ち着きがない
2:目覚めており、診療に協力的、落ち着きがある
3:一応目覚めているが、指示に対してのみ応答する程度である
4:眠っているが、刺激に対してすばやく反応
5:眠っており、刺激に対してゆっくり反応
6:眠っていて無反応

@急性尿細管壊死と腎前性高窒素血症の鑑別

@クレアチニンクリアランス、Cockcroft-GaultのCcr計算式
男性:Ccr(ml/min) = [(140-年齢)×体重(kg)]/[72×血清Cr値(mg/dL)]
女性は上の式に0.85をかける
例:
 68歳60kg男性のCr値が1.0mg/dlで60ml/minに、
 80歳72kg男性のCr値が1.0mg/dlで60ml/minに 、
104歳60kg男性のCr値が1.0mg/dlで30ml/minになる

***以下雑駁な知識***
@凝固など
・ACT(基準値:107±13秒)に影響与えるもの…低体温、血液希釈、アプロチニン、高度の血小板減少、低フィブリノーゲン血症 *低Ca血症は影響しない

@腹腔鏡
・ガス塞栓の致死量は空気の5倍
・ガス塞栓が疑われたら、Durant体位(頭低位、左側臥位)に
・腹腔鏡と開腹胆摘では内分泌反応に有意差なし

@ミクロショックとマクロショック
・ヒトの最小感知電流は1mA
・入力フローティング回路
・外部から意図しない電圧が加わっても、患者にマクロショックやミクロショックを生じさせる危険な電流が流れ込まないように分離させる回路
・CF型(侵襲型)機器では、BF型(非侵襲型)機器より高い程度の保護機能を備えており、ミクロショックの予防に役立つ。
・CF型ME機器の患者漏れ電流は許容値として10μAに設定されている
「ミクロショック」
・体内での漏洩電流によって発生する微小電圧や微小電流が、「皮膚を通さずに」、直接心臓に作用し、更に皮膚から体外へ逃げる場合の電気ショック。
・原因:内視鏡や透析機器、圧トランスデューサ、CVCなど
・35-50μAの電流でもVFを起こしうる
・人体での安全限界最大許容電流は10μA
「マクロショック」
・電流が「皮膚を通して」生体に流れ込み、もう一方の皮膚に抜け、一部が心筋に流れて心調律に障害を及ぼす電気ショック。
・交流50-60Hzでは100mA(0.1A)以上でVFを生じうる(100-2500mAで呼吸中枢は正常。6000mA<で呼吸停止、電流密度100mA/cm2で熱傷) 47A92
・電流が10-15mAに達すると筋肉の痙攣生じ、随意運動困難に。(離脱限界電流 49A79)

@感染
・A型肝炎は針刺しでは感染しない
・HBVは37%、HCVは2%、HIVは0.3%
・HBV針刺し事故:受傷者のHBs抗原・抗体が陰性ならば抗HBsヒト免疫グロブリン製剤投与。
・HIV汚染の針刺し事故では受傷部の十分な洗浄後、1-2時間以内に予防薬内服(ジドブジン、ラミブジン、ネルフィナビル)を開始

@消毒
・0.5%クロルヘキシジン含有消毒アルコールは眼毒性や聴毒性があるため、顔面の消毒に使わない
・経食エコープローブ:グルタラールやフタラールが第1選択
・床上のウイルス汚染血液:0.5-1%次亜塩素酸ナトリウムやアルコールで拭きとる
・ポピドンヨード:正常皮膚や粘膜はOKだが、胸腔内腹腔内、膀胱内関節内は用いない
・結核菌に対して効くもの、効かないもの
◯グルタラール、消毒用エタノール、ポピドンヨード、フェノール、クレゾール
×塩化ベンザルコニウム、塩化ベンゼトニウム、クロルヘキシジン(49A91)
・HIVに有効なのは:グラタラール、次亜塩素酸Na、ホルムアルデヒド、消毒用エタノール
・真菌に有効なのは:グルタラール、次亜塩素酸Na、ポピドンヨード


@BLS,ACLS
・心拍再開後の換気補助は10-12回/min。気管挿管されていて2人の救助者なら胸骨圧迫と非同期に8-10回/minの換気でよい
・換気量は500-600ml/回程度
・人工呼吸は1秒かけて。
・胸骨圧迫は胸骨の下半分、4-5cm沈むように。
・デューティサイクル(胸骨圧迫・解除の1サイクル中の圧迫時間)は50%。胸骨圧迫が130-150/minだと冠灌流や脳灌流は増加
・胸骨圧迫の中断を10秒以上してはダメ
・小児の除細動は初回2J/kg(単相性・または2相性)、2回目以降は4J/kg (10kgなら40J)

・・・以上は過去問から。
guideline2010ではC→A→B。
・「呼吸がないか、もしくは正常な呼吸ではないか」を確認する。しかも確認は目視のみで、「見て聞いて感じて」の確認は不要。気道確保も行わない。
・呼びかけ刺激に反応なく、呼吸がないor正常な呼吸でない → 脈拍触知(プロバイダのみ)。
・10秒以内に脈が触れなかったら胸骨圧迫30回(5cm以上、100回/min以上)と人工呼吸2回
・PEAとAsystoleにルーチンなアトロピン使用はなくなった

このあたりは実技試験でやるってことで、筆記試験には出ないかな・・・。

@腰部交感神経節ブロックの合併症
・陰部大腿神経炎、腰部神経根損傷
・臓器穿刺(腎・尿管穿刺)
・血管穿刺(腰動静脈、根動脈)
・射精障害(両側のL1ブロックで生じる)
・椎間板炎

@腹腔神経叢ブロック
・刺入部位:第一腰椎棘突起中央から外側6-7cm離れた点、
・局麻で疼痛軽減得られたら神経破壊薬(50-99.5% エタノール15-20ml or 6-10%フェノール水10ml )
・腹腔神経節はT5-T12。 49B5
@内臓神経ブロック
・大内臓神経はT5-T9の胸部交感神経節から生じる。
・ブロック針は横隔膜後脚の背側を狙う位置から
・造影剤は横隔膜脚後方で椎体の前外側面を上下に広がる
・腹部内臓癌の痛みに適応。術後痛ではない。

@ドラッグチャレンジテスト 46C31
・フェントラミン、レセルピン:交感神経性
・バルビツレート:中枢性、心因性
・モルヒネ:侵害受容性
・リドカイン:異所性興奮
・ケタミン:神経因性

@三叉神経痛
・頻度:II>III>II+III>I
・三叉神経領域の知覚障害はない、あっても軽度
・日常活動で疼痛誘発。入浴中に誘発されやすい、ということはない。
・以下の随伴症状はない:顔面紅潮、鼻閉、流涙
・肩こりは随伴しうる
・カルバマゼピンが有効

@再膨張性肺水腫
・虚脱期間が3日以上だと発生頻度が高い
・通常片側発症
・64%で再膨張から1時間以内、残りは24時間以内(多くは3-5時間以内)に発症
・気道内肺水腫液細胞分画では好中球が優位
・死亡率20%

@神経障害
・DM自律神経障害では発汗低下、安静時頻脈(副交感神経が交感神経より先に障害される)
・虚血性視神経障害は開心術、頭頚部手術、脊椎手術で多い。男性に多い。
・末梢神経障害ベスト3
1. 尺骨神経 2. 腕神経叢 3. 腰仙部神経根
・尺骨神経は術後3日~発症が多い。男が多い(3:1)。心臓手術後で胸骨牽引を受けた人で頻度高い。極度の肥満やるい痩者に多い。因みに解剖学的良肢位にしても尺骨神経障害の頻度が減るエビデンスはない、らしい。
・虚血30分以上で神経麻痺が生じうる。

@統計
・標準誤差=標準偏差/√n= √{Σ(Xi-Xの平均)^2} / N
・感度:病気(+)の人のうち、検査も(+)の人の割合
・特異度:病気(-)の人のうち、検査も(-)の人の割合
・陽性的中率:検査(+)の人のうち、病気(+)の人の割合
・独立した20の検査を行うとき、すべての検査が基準値に入るのは0.95の20乗で=36%程度
・自由度を定義に含む統計分布:F分布、t分布、χ2分布


@その他
・CEAの時の脳神経モニタリングにMEPは使用しない。(MEPは主に脳幹や脊髄機能のモニタリングに使用→側弯症や胸腹部大動脈瘤の手術時に)
・高齢者の血中ノルアドレナリン濃度は若年者より高い。
・ノルアドレナリンは交感神経終末でATPと結合している。49A29
・副腎髄質は交感神経節の一部が変化したもの。交感神経節前線維のAChの刺激で反応。アドレナリン分泌↑
・敗血症ではストレスホルモン(コルチゾン、アドレナリン、グルカゴン)↑、甲状腺ホルモン(トリヨードサイロニン)↓
・敗血症におけるインスリン抵抗性は、受容体の感受性低下ではなく、細胞内グルコース代謝異常によるものとされる
・wide QRSの多形性心室頻拍→循環が比較的安定していればアミオダロン静注→同期化カルディオバージョン
・グラム染色陽性-紫色、グラム染色陰性-紅
・IABPのバルーンはヘリウムガス
・カルボキシヘモグロビンの半減期は3-4時間。禁煙後8時間で動脈血中酸素含有量↑
・禁煙後、明らかな術後合併症低下は4週間以降
・クリーンルームの清浄度は単位体積あたりの塵埃数と細菌数で示される。
NASA基準のクラス100:層流型無菌手術室
クラス10000:通常手術室
・脳性塩分喪失症候群の治療に用いる輸液は生理的食塩水 (低Na血症と、脱水、尿中Na排泄増加、が病態)
・旅客機の気圧は0.75気圧(この気圧で吸入酸素分圧は118mmHg程度に)以上。高度は8000ft(2438mt)以上にならないよう規定されている。10000ft(3048m)を超えると緊急用酸素系統が自動的に作動。
・地上100kmまでの大気組成はほぼ一定。
・除皮質硬直、除脳硬直も脳死ではみられない 47B42
肺高血圧症の心電図:右軸偏位、IIとIIIの高いR波、ST低下、T波逆転、V1で高いR波

(麻) 小児や妊産婦など - 麻酔科専門医認定試験に関連した知識

あくまで個人用メモです。試験までは加筆訂正します。

***小児***
@modified ultrafiltration(MUF) 48B32
・CPB終了直後の体内の余剰水分や異常物質を、人工透析に似た濾過フィルターを用いて強制的に濾過除去
・動脈カニューレからの脱血を貯血槽からの酸素化された血液とともに限外濾過膜に送り、濾過血液を右房に返血する
・無輸血率の向上(CPBによる血液希釈を相殺しCPB後のHt値↑ → 組織酸素供給↑)、心機能の早期安定化に寄与
・侵襲により体内に増加する炎症性サイトカインを排除し、術後炎症の軽減、多臓器障害防止に有効

@TOF
・体肺動脈短絡手術→肺血流↑ → チアノーゼ緩和だが、必ずしも酸素化改善しない
・術後は心臓の容量負荷増大。肺水腫の可能性も
・Ht値は40-45%に維持すべき
・麻酔導入のケタミンはSVR↑やCO↑で右左短絡を減少させる。ケタミン自体で酸素飽和度は低下しない
・術中anoxic spellの治療:輸液(膠質液など)→フェニレフリン(SVR↑)→ベータブロッカー(PA漏斗部狭窄軽減)
*100%酸素(PVR↓)で血行動態悪化する心疾患:総動脈幹症、左心低形成症候群、総肺静脈還流異常症など

@新生児の蘇生(小児麻酔マニュアル490-493) 47C18
・心拍数が最重要、100bpmなら直ちに介入。
・臍帯が遮断されるまでは娩出児を子宮と同じ高さに保つ
・換気回数は4060/min、うまく喚起できなければすぐ気管挿管(新生児なら3.0のチューブ)
HR60以下、もしくは60-80うろうろするなら心マ開始。胸の厚さの1/2-1/3程度。
・新生児では3回圧迫毎に1回換気する
・体重1000g以下ならほとんど気管挿管と人工換気が必要
薬:エピネフリン10μg/kg
輸液は10ml/kg
小児の除細動は初回2J/kg(単相性・または2相性)、2回目以降は4J/kg (10kgなら40J)

Apgar 8-10点:吸引、皮膚乾燥化、体温保持程度
5-7点:軽度仮死。体外から積極的な刺激、酸素投与、反応が緩慢なら高濃度酸素で人工換気
3-4点:中等度仮死。バッグマスク換気。自発呼吸なければ挿管
0-2点:重症仮死。直ちに蘇生処置

@肥厚性幽門狭窄症
・生後3-6週で発症
・フルストマックで、代謝性アルカローシスで、重症脱水 である。
・嘔吐するから全て下がる。低Na、低K、低Cl
・術前に電解質補正を生食や1/2生食でしっかりやってから(Na>130, Cl>85, urine 1-2ml/kg/h)手術
・尿量が十分になったらK補正
・胃を減圧してから意識下挿管or迅速導入

@Down症候群
・合併症:低緊張、心奇形(全部で45%程度:頻度はVSD>AVSD>ASD>PDA,TOF)、甲状腺機能低下症、巨舌症、痙攣、環軸椎不安定
・喉頭が狭いのでチューブは細めで。
・IEのリスクあれば術前から抗生剤を。
・無呼吸指数(apnea index ;AI) :10秒以上の呼吸停止が1時間あたりに認められる回数。AI≧5と日中傾眠でSASと言われる。
・睡眠ポリソムノグラフィで、鼻・口の気流が停止するときに胸郭と腹部の運動が停止していなければ中枢性要素はない
・麻酔薬に抵抗性ない

@新生児の体温調節 49A58など
・ふるえ熱産生は新生児(と生後3ヶ月未満児)ではみられない。
・揮発性麻酔薬は褐色脂肪組織の代謝を抑制する

@気管食道瘻(tracheo-esophageal fistula: TEF) 47C11-12
・C型(遠位食道と気管)85%>A型(瘻孔なし。それぞれ盲端)11%>E型(TEFのみで食道閉鎖なし)2%>B(上部食道と気管がTEF.下部食道は盲端)≒D型(上部・下部食道がそれぞれ盲端)0.7%
・右側大動脈弓等の心合併あるかも

@雑多な知識
・生まれたばかりの3500gの新生児なら気管チューブは3.0mm or 3.5mm、右内頸静脈横径は3-6mm程度
・機能低残気量は小児も大人も30ml/kgで同じ (新生児27-30ml/kg) 
*1回換気量、解剖学的死腔量、死腔率(生理学的死腔/1回換気量)は小児も大人も同じ
・酸素消費量は新生児・乳児は成人の2倍。肺胞換気量も2倍
・胸郭コンプライアンスは小児>大人。 
・肺コンプライアンスは新生児5-6ml/cmH2O < 大人200ml/cmH2O
・新生児の気道抵抗は成人の16倍以上。
・臍静脈血の50%は肝臓に入る。残り50%はIVCに直接入る。 47A62
・臍動脈血のPO2 18mmHg、臍静脈 30mmHg。
・胎児肝は在胎14週からP450あり
・満期産新生児の気管長は4cm、喉頭の位置はC3-4(大人はC5-6)
・HbF(新生児のHbの70-90%)は生後7ヶ月頃で全て成人型に移行。酸素解離曲線は左方移動
・新生児の腎機能は生後1年までに急速は発達。腎機能の完全な成熟には2年を要す

***妊産婦***
@妊産婦と麻酔
・SCCはイオン化しているため、殆ど胎盤通過しない 48A60
*胎盤を通過しやすい薬剤は A.脂溶性が高く、B.イオン性が低い ものである。
・ベクロニウム
 ・妊婦ではCO↑のため、循環時間が短縮しており、非妊娠時より作用発現が早い。
 ・クリアランスも非妊娠時より高い
 ・胎盤移行性は低い。臍帯静脈血中濃度/母体血中濃度比はベクロニウム(0.11)、ロクロニウム(0.16)、パンクロニウム(0.21)。これらは脂溶性が低くイオン化しているので、通常量では地の呼吸抑制や筋緊張低下を生じない。

・MgはSCC、非脱分極性筋弛緩薬ともに作用増強に働く。胎盤移行性も高いので、児の筋力低下にも注意。
・妊婦の膠質浸透圧:18.0±1.5mmHg, 非妊娠時:20.8±1.0mmHg
・妊婦のAST,LDH,ALPは↑。ChEは↓(SCCの作用遷延は稀)。血清Crは↓
・酸素解離曲線は右方移動(P50は26.7→30.4mmHg)で組織の酸素利用改善
・PIH妊婦:SVRは1500-(dyne・秒/cm5)、CVPは高くない(<8mmHg)
・スコポラミンは胎盤通過する
・ダントロレンは胎盤を通過する

@子宮収縮薬
・プロスタグランディンF2α(プロスタルモンF):娩出後に0.5mg子宮筋層内注入、または、1.0-2.0mg点滴静注(投与速度 0.5μg/kg/分以内)
 *副作用:血管収縮(高血圧,冠動脈攣縮),気管支平滑筋収縮、眼圧上昇
・オキシトシン:血圧低下や反射性頻脈に注意
・麦角アルカロイド(メテナリン、エルゴメトリン):作用数時間。高血圧,冠動脈攣縮,吐気,嘔吐に注意
・ゲメプロスト:PGE1誘導体。膣坐剤のみ。妊娠中期の治療的流産に適応。

(麻) 各種病態に関連して - 麻酔科専門医認定試験に関連した知識

@悪性高熱症 47C47-48
15分間で0.5℃以上上昇、最高体温38℃以上 or 麻酔中体温40℃以上
・ダントロレンは1-2mg/kg10-15分で。一応7mg/kgまで。 46A42
・Ca拮抗薬はダントロレンとの併用で心停止の報告あり慎重投与
MHに伴う血行動態変化は心筋酸素消費量を4倍に上昇させる。代謝亢進に伴う全身の酸素消費量は約3倍、血中乳酸値は15-20
・初発症状はETCO2の上昇 > 急激な体温上昇 > 原因不明の頻脈 
 (古典的にはSCC投与後の咬筋硬直)
・遺伝子検査では必ずしも異常は認めない
・病因はリアノジン受容体の機能異常により、Caイオンによるカルシウムイオン放出(CICR)が亢進し、細胞内Caイオンの濃度上昇に伴う骨格筋収縮が生じるため
・ジギタリス、笑気は使用可(ダメなのは揮発性麻酔薬とサクシニルコリンである)

@悪性高熱症の治療@悪性症候群neuroleptic malignant syndrome(NMS)
・ダントロレンは蒸留水で溶かす。塩析するため。温めると溶け易い。
・ダントロレンの半減期は少なくとも10時間。
・副作用:効果のピーク時では中等度の筋力低下。また,3週間以上の治療で胆汁うっ滞。他には重篤な合併症は無い
1.全ての麻酔薬投与中止,100%酸素による過換気。人がいっぱいいれば麻酔器交換
2.ダントロレンの複数回投与(2mg/kg。必要なら5分ごとに最大10mg/kgまで。報告では29mg/kg)
3.炭酸水素塩の投与(2-4mEq/kg)
4.38-39℃を目標とした高体温コントロール(冷たい輸液,表面冷却,他)
5.尿量モニター(目標2ml/kg/hr),ミオグロビン尿による尿細管壊死に注意
6.血液ガスをみて,異常値補正

高K血症には
・50%ブドウ糖 50 ml(あるいは20%ブドウ糖 100 ml)に50単位のインスリン(原則CVCから)。(G:I=1g:2)  *血中カテコールアミン濃度↑のため、インスリン量が通常より多いことに注意。
・緊急時には塩化カルシウム 400 mgをゆっくり静注して、GI を用意する。
7.不整脈はリドカイン。 *Ca拮抗薬とダントロレンの併用で心停止の報告あり。
8.CK,肝機能,BUN,乳酸,血糖値,凝固系(INR,Plt,Fib,FDP),血清ヘモグロビン,ミオグロビン,尿中ヘモグロビン,ミオグロビン
・ダントロレンは10-12時間ごとに数回投与が必要
・再燃は6.5時間以内に50%



臨床像:
1.全身性の筋硬直,無動症,錐体外路症状,運動機能障害
2.精神障害(昏睡,昏迷,譫妄)
3.高体温(発汗、脱水,血圧心拍の変動),頻呼吸
・薬物投与数時間~数日で発症,7-10日で回復
・合併症:横紋筋融解症,腎不全,DIC,血栓塞栓症,心停止
スキサメトニウムは筋肉壊死のある患者では高カリウム血症を生じる危険性がある


@MG(神経筋接合部のシナプス後膜に存在するACh受容体に対する自己免疫疾患)
・筋無力症クリーゼ下では抗コリンエステラーゼ薬は中止(分泌過多などの副作用のため全身管理を困難にする一方、治療効果を得にくいため)。(MGガイドラインhttp://www.jsnt.gr.jp/guideline/img/meneki_2.pdf)
脱分極性筋弛緩薬(サクシニルコリン:SCC)に対する抵抗性を示すが、phase IIブロック(AChに不感応)に移行しやすい。
・非脱分極性筋弛緩薬に対する感受性は非常に高い。
ACh受容体数は減少、機能異常

その他神経筋疾患では…
・Eaton-Lambert症候群:SCC・非脱分極性ともに感受性↑
・進行性筋ジストロフィー:SCCに感受性↑(MHや高K血症、心停止を誘発するため禁忌)、非脱分極には対しては正常or反応延長。胎児型ACh受容体が発現する。Duchenne型はXR遺伝。
・筋緊張性ジストロフィー:SCCに感受性↑(筋収縮が数分続き、筋強直を誘発) 非脱分極性には正常だが、抗ChE薬は筋強直を誘発しうるので使わないこと。
・家族性周期性四肢麻痺:SCCには正常、非脱分極性には亢進の可能性あり。
・多発性硬化症:中枢の脱髄。神経筋接合部ではACh受容体数↑、脱分極性筋弛緩薬に対する感受性亢進あり。

@Parkinson病
・MAO阻害薬以外は当日朝まで内服。
・MAO阻害薬はセロトニンやノルアドレナリン、ドパミンなどの神経伝達アミンを増加させる。エフェドリンなどの間接的な交感神経刺激作用を示す薬物に対する異常反応が起こる(MAOI中止後2週間でも異常反応は認められるので、少なくとも2-3週間は休薬する)。また、ペチジンの併用により、痙攣や高体温、昏睡を起こす可能性があることにも注意。
・レボドパの突然の中止は神経遮断薬性悪性症候群の原因になるので注意
・抗ドパミン作用を伴うフェノチアジン系薬物(クロルプロマジン)、ブチロフェノン系薬物(ドロペリドール)、メトクロプラミドなどを避けるべき

@脊髄損傷、自律神経反射亢進(autonomic hyperreflexia(dysreflexia)
・脊髄損傷部以下の皮膚または内臓刺激によって節前交感神経の活性化を招く。異常な血圧反応!
・T6以上の損傷者の手術で約85%に生じる。T10以下では起こらない。
・損傷レベル以下の末梢血管収縮
・損傷レベル以上の血管拡張(潮紅、発汗)、反射性徐脈
・末梢アドレナリン受容体の感受性亢進(昇圧薬が異常に効き易い)⇔高血圧にはニトプロ、NTG、カルシウム拮抗薬。
・血圧低下に代償性の血管収縮も起こりにくい。知覚麻痺領域での血管緊張の低下から容易に低血圧になりやすい。
・体温中枢との隔離により低体温を生じやすい
脱分極性筋弛緩薬(サクシン)に感受性が高い~反射性の骨格筋攣縮を防ぐために非脱分極性筋弛緩を投与
・鎮静薬として吸入麻酔を使用してもよい。(Anesthesiology 108:858-863,2008)


対応
1.末梢からの求心性の刺激をブロックする方法
2.十分な鎮静を保ち中枢の興奮を抑制する方法


・急性期高位脊髄損傷で徐脈になる。脊髄の興奮性は低下。
・急性期低位脊髄損傷では頻脈になる
・急性脊髄損傷ではニコチン性ACh受容体のup regulationが生じる 47A70
  非脱分極性筋弛緩薬(Rb, Vb)に対する抵抗性
  脱分極性筋弛緩薬(SCC)に対する感受性亢進

@熱傷
・ニコチン性ACh受容体のup-regulationが、受傷24時間以降からみられる。熱傷治癒後も1-2年はこの増加した状態が続く。
・そのため非脱分極性筋弛緩薬に対する抵抗性が増大。必要量が増える
・脱分極性筋弛緩薬は感受性が増大。Kの過剰放出で心停止することも→受傷24時間以降の投与禁忌

@統合失調症
・可能ならば区域麻酔で。
☆向精神薬と麻酔薬の相互作用
 ・吸入麻酔薬 : 効果増強、血圧低下
 ・麻薬 : 鎮痛・鎮静・呼吸抑制作用増強、低血圧
 ・バルビタール : 睡眠時間延長 
 ・抗コリン薬 : 末梢性(イレウス、尿閉、緑内障)、中枢性(昏迷、発熱、譫妄)
 ・昇圧薬 α作用型(α1作用が減弱)、β作用型(α1作用遮断、β2作用増強で血圧低下)~ノルアドを使おう
・内服薬は止められればやめたほうが良いが、無理なことも多い。相互作用に注意して管理するのが現実的。


@弁疾患
・肺動脈閉鎖症では、SVRの低下や循環血液量の減少、心筋抑制を避ける(動脈管を通じて肺に流入する血液量を減少させるため)
・三尖弁閉鎖症:PVRを低下させることで、肺血流量やCOの増大を目的とした管理が必要


@心タンポナーデ
・心嚢内圧が15cmH2O以上で症状が出現
・Beckの三徴:血圧低下、心音低下、頸静脈怒張


@褐色細胞腫
・β遮断薬単独投与は禁忌。理由:α受容体による血管収縮が生じ、危険な高血圧を起こす可能性。ただしラベタロールのようなα・β遮断薬が投与されることはある
・α遮断薬(フェントラミンなど)で空腹時血糖は低下する。(α刺激→グリコーゲン分解促進、インスリン分泌抑制)
・フェントラミン:作用時間は10-15分、半減期19分。褐色細胞腫には3-10γ程度。
作用:血管平滑筋に対する直接作用(動脈系>静脈系)
副作用:頻脈,肺動脈圧↓,心刺激作用,ヒスタミン様作用
禁忌:胃炎,消化性潰瘍
・α1選択的遮断薬:ドキサゾシン、プラゾシンなど


@中毒
・サリン:有機リン化合物。神経末端のChEを阻害。過剰のAChがムスカリン受容体やニコチン受容体、中枢神経系に蓄積して毒性を示す。
治療:アトロピン、ヨウ化プラリドキシム(PAM:ChEの賦活作用)
・硝酸銀:皮膚や粘膜に強力な腐食性。飲むと致死的な胃腸炎を生じうる。
治療:生食胃内注入
・金属(ヒ素、水銀、鉛、銅、金、ビスマス、クロム、アンチモン):治療にジメルカプロールを使用。体内諸酵素のSH基と金属イオンの結合を阻害して効果を発揮する。
・パラコート:ジピリジル系の除草剤。致死量2-4g.20%濃度は皮膚接触や経口で腐食性障害。3-5日で腎不全。2週間で肺線維症(PF)に。PFは不可逆的で致死性。
治療:特異的なものはない。胃洗浄、下剤、活性炭、強制利尿、血液透析。
・シアン:チトクロム酸化酵素が阻害。
治療:亜硝酸アミル吸入、亜硝酸ナトリウム・チオ硫酸ナトリウムの静注。人工呼吸、代謝性アシドーシスの補正。
・ボツリヌス毒素:神経筋接合部に作用。SNAP-25タンパクを切断してAChの放出を抑制するため、筋収縮抑制

@非ケトン性高浸透圧症候群
・pHは通常7.3以上、Naは脱水の程度によって↑or↓。Kは基準値
・BUNおよび血清Cr濃度は著明に上昇。ときに乳酸が蓄積して軽度の代謝性アシドーシス。
・治療:まず1L程度の生食を30分で→インスリン0.15-0.2u/kgボーラス投与後に0.1u/kg/h持続静注。生食1L/hで持続。→血糖300くらいで1/2生食に変更。
・インスリン投与で早期に低K血症になると思うのだが、46C13では正答がC「輸液を1/2生理食塩水に変更する」になっている。問題の血糖値は810mg/dlなのだが。選択肢同士をよく検討しなくちゃ…。

@TUR-Pに関する知識
・麻酔レベルはなるべくTh10程度にする。あげすぎると血圧が低下、輸液負荷しすぎると潅流液吸収による心不全発症までの安全域を狭くする恐れあり。輸液は少なめで。
・潅流液は大部分が腎代謝。吸収されると数時間で排出。残りはCO2と水になる。3%D-ソルビトールpH 5.0, 浸透圧165mOsm/l 手術1時間越えたら採血考慮。
・出血量多いときは輸血⇒低血圧や精神症状でも出血多量を疑う。
HESは心不全や血液希釈を助長する可能性あり、積極的には使用しない
・TUR症候群:低Na血症と低浸透圧血症が併発。脳細胞浮腫により意識障害や痙攣が起こる。低Naで循環抑制、ECG変化。
予防:早く手術終了してもらう。潅流液袋高さを臍と60-100cm程度に。意識レベル確認(鎮静はするとしても浅めに)。
治療:潅流液袋高さを低くする。輸液を生食に変え、遅くする。ラシックスを10-20mg静注する。高張食塩水10%NaCl 10-20mlなどを静注(低Naのときのみ)
・Na<120mEq/lは注意、ショックに。

(麻) 薬や輸血など - 麻酔科専門医認定試験に関連した知識

自分で覚えるためのメモ書きです。当然ながら全出題範囲を網羅するものではありません。
誤りを見つけ次第訂正します。試験までは適宜加筆します。

***
@薬物全身クリアランス(CL, ml/min)=薬物処理速度(dX/dt) / 血中濃度(Css)
・薬物持続投与中で定常状態の時は薬物処理速度 = 持続投与量 となる
・例:6mg/hで持続投与して十分時間がたったあとの血中濃度が10ug/mlならばCLは
CL=(6 mg/h)/(10 ug/ml)=(6000÷60 ug/min)=(10 ug/ml)=10 ml/min

因みにクリアランスは…
・レミフェンタニル(RF):30-40(ml/min/kg) (血漿タンパク結合率:80%、脂溶性(*注)17.9)48A15
・フェンタニル:10-20 (血漿タンパク結合率:84%、脂溶性813)
・モルヒネ:15-30 (血漿タンパク結合率:20-40%、脂溶性1.4)
・RFの代謝は赤血球内の非特異的エラスターゼで主に行われる。偽性ChE欠損症でも、偽性ChEの基質にはならないため、影響を受けない。
・RFは添加物にグリシン(脊髄くも膜下投与で可逆的脱力を生じうる抑制性神経伝達物質)を含むため、硬膜外・脊髄くも膜下投与は禁忌。

*注:脂溶性はオクタノール/水分配係数で表示。数値が高いほど脂溶性が高い
→因みにペチジンでは39 (49A8)
・ブプレノルフィンはモルヒネ、フェンタニル、ペンタゾシンより脂溶性が高い。 46A11

  
@ケタミン
・2つの立体異性体S(+)とR(-)あり。S(+)の方が鎮痛強く副作用少ない。49A27他
・ケタミンの代謝産物ノルケタミンは活性20-30%程度
・ケタミンの作用部位:NMDA受容体、オピオイド受容体、脊髄後角の広作動域ニューロンの抑制
・代謝は肝ミクロソームの酵素、N脱メチル化によるノルケタミンの生成、その水酸化によるヒドロキシルノルケタミンの生成。グルクロン酸抱合を受けて尿中排泄。

・散瞳、眼振、流涙、流涎(りゅうぜん)、骨格筋緊張↑
・皮質(特に連合野)、視床を選択的に抑制、大脳辺縁系(海馬など)を刺激、内側延髄網様体への入力を抑制
・脂溶性はチオペンタールの5-10倍
・疼痛閾値を上昇させる血漿濃度は0.1μg/ml以上とされる 49B8

@プロポフォール
・GABAA受容体の活性化。
・3コンパートメントモデルでは、初期分布半減期1-8分、後期分布半減期30-70分、除去半減期4-23.5時間
・排泄半減期に性差なし。但し女性の方が分布容積が大きく、クリアランスも大きい。 47B7
・代謝:肝でのグルクロン酸抱合と硫酸抱合、ほぼ完全に代謝される(尿中未変化体<1%)
・プロポフォール注入症候群:5mg/kg/hを48時間以上。ミトコンドリアへの遊離脂肪酸輸送が障害され、ミトコンドリアの呼吸鎖が障害され、遊離脂肪酸の代謝不全を生じて発症する

*因みにチオペンタールの除去半減期は11.6±6.0時間 
(チオペンタールは加齢により脳の感受性は変化しない。初期分布容量の低下のため必要量↓)

@アトロピン
・抗ムスカリン作用→気管支拡張→生理学的死腔↑
・発汗低下→体温上昇。特に小児
・迷走神経遮断→下部食道括約筋緊張低下
BBBを容易に通過→大量投与で中枢を刺激して精神症状を起こす
・胎児心拍の変動を抑制 (0.01mg/kg程度では影響しない報告も。)
・胃液・胃酸分泌低下(比較的大量投与で)

@筋弛緩薬
・非脱分極性筋弛緩薬では力価が低いほど作用発現が早まる
・SCCは徐脈を生じうる(洞結節におけるムスカリン受容体を刺激)
・少量の非脱分極性筋弛緩薬投与後にSCCを投与すると、筋のSCCへの抵抗が高まる。SCCを50%増やそう
・Vbの代謝産物はVbの80%程度の筋弛緩作用をもつ
・ループ利尿薬:c-AMP産生↓ → ATP分解抑制→神経伝達物質の出力低下し筋弛緩作用遷延
・マンニトール:非脱分極性筋弛緩薬の代謝に影響なし
・抗けいれん薬(フェニトインやカルバマゼピン):神経筋接合部でACh放出を抑制。
 →抗けいれん薬の長期投与で非脱分極性筋弛緩薬に抵抗性を示す。
・カルバマゼピンでVbのクリアランスは2倍に増強。
・体表面積の25%以上の熱傷で非脱分極性筋弛緩薬への抵抗性あり
・非脱分極性筋弛緩薬の効果を増強する麻酔薬の順に…
デスフルラン>セボフルラン>イソフルラン>ハロタン>笑気-バルビツレート-オピオイド>プロポフォール(これは作用に影響しない)

@筋弛緩薬に影響与える抗生剤
・大部分の抗生剤は神経筋遮断を生じうる 
・アミノグリコシド、ポリミキシン、リンコマイシン、クリインダマイシン
→主に神経筋接合部前からのACh放出を抑制
神経筋接合部後におけるニコチン性ACh受容体の感受性も低下させる
・テトラサイクリン→接合部後における作用を示すだけ
・セファロスポリンやペニシリンは神経筋遮断の増強効果を示す報告なし。
・4-アミノピリジン(Kチャネル阻害薬)→ACh放出を促進して筋弛緩薬作用に拮抗。ただしCNS症状起こすため臨床で使用されない。

@ベクロニウム 45C4-5
・ACh受容体感受性は若年者と高齢者でそれほど変化しない。高齢者では排泄半減期が延長し、クリアランス低下による排泄遅延が認めれられる。(薬物動態パラメータの変化による作用時間延長)
・肥満患者での排泄遅延傾向は、肝クリアランスの低下を示唆する。肥満患者では除脂肪体重の20%増を基準とする。
0.1mg/kg投与後の単収縮の10%回復時間は体温36.4℃で28分、34.4℃では64分。
・中等度の筋弛緩状態における拮抗速度の順 エドロホニウム>ネオスチグミン>ピリドスチグミン
 強度の筋弛緩状態(TOFで1程度)ではネオスチグミン>エドロホニウム
・異なる種類の抗コリンエステラーゼ薬の併用は相補的でなく、相加的効果さえ示さないので推奨されない
TOF1でネオスチグミン投与してTOF0.7まで回復するには23分かかる

@サクシニルコリン
・偽コリンエステラーゼで加水分解→活性なしのコハク酸とコリンに代謝。
*中間代謝産物のサクシニルモノコリンは腎排泄のため、腎不全でSCCの大量投与は避けるべき
*腎不全患者でSCCが蓄積することはなく、サクシニルモノコリンが蓄積する。
・尿毒症患者では偽コリンエステラーゼ活性の低下報告あり

@カルシウム  46A61など
・血中の40%Caは蛋白と結合
・アシドーシスでイオン化Ca↑、アルカローシスでイオン化Ca↓ → テタニー
・甲状腺機能異常ではCa代謝異常なし
・Caの99%は骨と歯に存在
・低Ca血症でChvostek徴候(VII刺激で顔面攣縮)、Trousseau徴候(血圧カフの加圧で手根攣縮)、喉頭痙攣、QT延長も

@硫酸マグネシウム
・胎盤移行性高い
・運動神経終末からACh放出↓、終板でのACh感受性↓、筋線維膜興奮性↓
・筋弛緩薬の作用増強(SCCも非脱分極性も)
・ブピバカインの心毒性↓、カテコラミン放出抑制作用、拮抗作用
・正常は1.5-2.0mEq/L, PIHに対する治療域は4-7mEq/L(2-3.5mmol/L)とされる
・高Mg血症で:
・徐脈、低血圧、伝導ブロック、心停止
・トロンビン減少、血小板機能低下
・腱反射低下、呼吸抑制・停止、筋力低下・麻痺
・傾眠、昏睡
・悪心、嘔吐

@ガバペンチン
・電位依存性Caチャネルにおけるα2δサブユニットと結合、興奮性神経の前シナプスにおけるCa流入阻害し、グルタミン酸などの興奮性アミノ酸の遊離抑制
・脳内GABA↑

@三環系抗うつ薬
・モノアミン(アドレナリン、ノルアドレナリン)の再取り込み阻害→CNSでのモノアミン作用を増強
・三環系抗うつ薬はエフェドリンの昇圧作用を増強
・三環系抗うつ薬の副作用は抗コリン作用によるもの、悪性症候群、心筋梗塞、骨髄抑制、SIADH、眼圧上昇

@薬に関連したその他の雑駁な知識
・モルヒネの体動時嘔気にはH1拮抗薬(ジフェントラミン)やジメンヒドリナート有効

・モルヒネの嘔気は静注より筋注時に頻度高い(嘔気中枢のCTZ刺激が鎮痛必要濃度よりも低濃度で生じる。血中濃度上昇が筋注時に、より緩徐なため)。
・経口モルヒネで嘔気が出て、坐剤へ変更しても緩和されない。
・硬膜外モルヒネの作用部位の大部分は脊髄とされる。 フェンタニルは脊髄±全身 48B39
・くも膜下オピオイドは交感神経を抑制しない 49A83他
・くも膜下オピオイドは運動神経を遮断しない
・ナロキソンはブトルファノールの呼吸抑制に拮抗する 47A11

・低分子ヘパリンの作用はプロタミンで拮抗できない
・ビタミンKでワルファリン拮抗するには4-24時間必要
・FFP10-15ml/kg投与でワルファリン拮抗
・ワルファリンは出血時間を延長させない。(出血時間:血小板機能と血管系の異常反映し、凝固系や線溶因子の影響を受けない)


・ヘパリンの分子量は3000-35000(平均12000)、低分子ヘパリンほど薬効が強い。
・ヘパリンはATIIIと結合してIX、X、XI、XII因子を不活性化。

・ヘパリン24-48時間投与でAT-IIIは正常比60%程度まで低下。
・アプロチニンはセライトとの接触による活性化を抑制するため、セライトACT↑。カオリンACTは正常。

・麻酔薬で腎血流量、GFR、尿量、尿中Na排泄を増加させるものはない(ケタミンは腎血流↑(?)だが、尿量↓。交感神経刺激作用による)
・グリベンクラミドは膵β細胞のATP依存性Kチャネルを抑制
・バルプロ酸はGABAトランスアミナーゼ(GABAの分解酵素)に結合しGABA再取り込み阻害→GABAの脳内濃度↑して抗痙攣作用

・デクスメデトミジン(α2アゴニスト。青斑核や脊髄に作用)の副作用:冠攣縮、血圧低下、徐脈、口渇に注意
・ドロペリドールはオピオイドの掻痒にも効果あり。キニジン様の抗不整脈作用。血管拡張作用(α遮断作用によって体血圧は軽度低下するが、PVRやPAPには影響しない)。因みに排泄半減期は2時間位。クリアランス14ml/kg/min、分布容積2L/kg
・ミダゾラム0.05-0.2mg/kg投与で1回換気量↓、呼吸数40%↑で、分時換気量は変化なし
・ミダゾラムは100-200ng/mlで催眠、健忘。50ng/ml1以下で覚醒 49B8
・離脱症候群をきたす薬剤:プロプラノロール(突然中止でHTや狭心症増悪)、クロニジン(HT増悪)
・アデノシンに拮抗作用示す薬剤(つまりアデノシンは多く必要):テオフィリン、カフェイン、テオブロミン
・アデノシン取り込み阻害作用を示すもの(つまりアデノシンは減量必要):ジピリダモール、カルバマゼピン、心臓移植後(除神経に伴う感受性亢進)
・ブチルスコポラミン(ブスコパン):ムスカリン受容体遮断で不整脈(房室伝導促進)あり。→エドロフォニウム(抗ChE薬としてブチルスコポラミン作用に拮抗、房室伝導促進を抑制)、フェニレフリン、エスモロールなどで治療を。 47C19
・麻酔薬の最大作用発現時間 45B9
レミフェンタニル=チオペンタール:1.6分
プロポフォール:2.2分
ミダゾラム:2.8分
フェンタニル:3.6分

@輸血
・type and screen:ABO(表と裏)、Rh(D)因子、不規則抗体の有無をあらかじめ調べる。交差適合試験は省略可能。
・FFP投与の適応:PT<30%、INR≧2.0、APTT基準値上限の2倍以上、低フィブリノゲン血症(<100mg/dl *因みに基準値は150-400mg/dl程度。700<で血栓傾向)

・血小板輸血直後の予測血小板増加数( /ul) = 輸血血小板総数 / [循環血液量(ml) x 10E3] x 2/3
例:血小板濃厚液10単位に(2×10E11)血小板が含まれているので、60kg(循環血液量4200mlとして)の患者に輸血すると…32000/ ul程度の上昇
・輸血血小板必要単位数(単位)= 血小板上昇期待数*(万/μL)×循環血液量(L)×0.75**
  *輸血により上昇させたい血小板数
  **血小板製剤1単位分の血小板数2×1010及び血小板が脾臓に捕捉されるための補正係数から求めた係数

・上昇Hb濃度(g/dL) = 投与Hb(g) / 循環血液量(ml) x 10E-2
例:RCC-LR2単位に53g程度のHbが含まれているので、50kgの人に2単位輸血すると53/35dL ≒ 1.5g/dL上昇するはず

・O型の人にはRCCはO型のみ、FFPとPCは全ての型の血液が使用可能
・大量出血時は不規則抗体陽性でも交差適合試験は必要ない。少なくとも生食法による主試験だけ行い、ABO型だけ間違えないように。 48C10

@GVHD
・供血者由来のTリンパ球が患者体内で増殖し患者組織を攻撃
・輸血1-2週間後に発熱と発疹、肝障害、下痢、下血
・骨髄無形成で汎血球減少。最終的に敗血症等で死亡
・凍結血漿やクリオプレシピレートによる発症報告はない
・放射線照射で予防可能
・白血球除去フィルターは効果期待できるが完全な予防策ではない

@栄養 49A77
・飢餓時には呼吸商↓ (呼吸商=CO2産生量/酸素消費量)。普段は0.8、長期飢餓で0.7、糖負荷で1.0に近づく
・アミノ酸輸液は脂肪輸液に比べてエネルギー消費量↑に。過剰なアミノ酸輸液は患者の呼吸負荷増大になる。
・過剰な糖負荷で炭酸ガス産生↑。人工呼吸器からの離脱妨げるかも。

2011年9月20日火曜日

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試験-2006年症例6 脊髄くも膜下麻酔


専門医試験の口頭試問って、どうしてこう、ちょっと肥満な人が多いんだろ。

症例
・71 歳女性。154cm、82kg。
子宮脱に対して膣式子宮全摘術が予定。
・10 年前から高血圧で内服治療中。術前血圧は166/89 mmHg。
・脊髄くも膜下麻酔が施行された。

質問
1)術前評価と管理

1.この患者の術前の問題点を列挙。
・BMI34.5

・コントロール不良の高血圧

2)麻酔法および術中管理
1. 常は同手術で,脊髄くも膜下麻酔単独で施行する場合どのように行うか?
・高比重ブピバカイン2.0ml程度をL3/4から側臥位で施行。Th10までの麻酔高上昇を確認。


2. 15 分後に右優位のS 領域の知覚低下のみが得られた。脊麻後の麻酔効果が十分に得られない原因を列挙
・クモ膜下腔に入った薬液量が少ない(途中で針先がずれて孔の一部が硬膜外腔等にある or 途中で薬液がこぼれた、など)
・注入した椎間が低い位置だった
・他疾患の合併(くも膜のう胞)など

3.どのように対処するか?
・初回投与量が2.0ml程度であれば、1椎間上から2.0ml(私ならmax4.0mlにする)を投与して効果判定。2回目で麻酔高の上昇が不十分ならば全身麻酔。

・もしくは本症例では下記のようにTNSの危険因子が複数あるので、再施行せず全身麻酔にする、という方針をとる可能性もある。

3)周術期危機管理
翌日、朝、外科医から連絡があり両側大腿部後面に知覚鈍磨と尿閉があるのとの報告を受けた。
1. 鑑別診断を列挙。
・穿刺による神経損傷
・TNS(transient neurologic symptoms; 一過性神経障害、100例に1例くらい。テトラカインとブピバカイン使用で。リドカイン,砕石位,外来手術,肥満,フェニレフリンの添加が危険因子。症状の特徴は,臀部,大腿,ふくらはぎの外側に放散する痛み,または異常感覚で,脊麻の回復から24時間以内に発症し,数日から1週間で消失する。NSAIDが効く)
・馬尾症候群(11万件に1件くらい)
・脊髄くも膜下血腫
・硬膜外血腫(脊麻後、血液逆流ない場合は320000例に1件くらい。報告によっては3万件に1件)、膿瘍

2.脊髄くも膜下麻酔で手術後の神経障害の考えられる原因を列挙
上記

3.麻酔科医としてどのような指示をするか列挙して下さい。
・神経内科医に併診を依頼して、神経所見・鑑別診断を上げてもらう。
・血腫や腰椎疾患を否定するためにMRIの撮影を行う
・血腫があれば手術を考慮
・血腫がなければビタミンB12やステロイド投与をして経過観察。10数日~数カ月の経過で改善してくる可能性がある。
・連日患者さんの診察に自分で行く

@参考文献
・脊髄くも膜嚢胞のため、脊髄くも膜下麻酔の効果発現が不十分であった帝王切開症例. 麻酔58巻12号 Page1521-1523(2009.12)
・凝固異常のない患者で起こった脊髄くも膜下麻酔後の脊髄くも膜下血腫の1症例. 麻酔58巻4号 Page456-459(2009.04)
・27G穿刺針による脊髄くも膜下麻酔後に硬膜外血腫を生じた1症例. 麻酔58巻4号 Page456-459(2009.04)
・脊髄くも膜下麻酔時の局所麻酔薬による神経障害. 日本医事新報4344号 Page63-69(2007.07)
・硬膜外麻酔ならびに脊髄くも膜下麻酔に伴う神経損傷 麻酔関連偶発症例調査2004の集計結果より. 麻酔56巻4号 Page469-480(2007.04)

(麻) 麻酔科専門医認定試験口頭試験-2006年症例10-DCM 頻拍発作

本当に恐ろしいのは、DCMという診断がついてない状態で手術室に来てしまうことだと思う。

***
症例
・55 歳男性。160 cm、75 kg。
・早期胃癌に対し胃切除術予定。
・拡張型心筋症を合併、術前TTEで左室駆出率は25%。
・血清Crは1.8 mg/dl 。

1)術前評価と管理
1. この患者の術前状態における問題点を列挙。
・1度肥満 BMI29.2
・DCMで低心機能である
・心不全によるものか、腎疾患によるものか不明だが腎機能障害がある。(簡易式ではCCr 49ml/min)

2. 術前に必要な検査。
・血算、生化、凝固、感染症、胸部腹部Xp、心電図(洞調律なのか、心室性不整脈はないか)、BNP値、ドブタミン負荷心エコー(EFの改善度や不整脈の出現の評価)
・Cr値が上昇しているので利益が不利益に勝ればだが、CAGで冠動脈疾患の有無を見たい
・肥満があるため問診と身体所見から睡眠時無呼吸症候群(SAS)が疑われるようならば、術後の低酸素を避けるべく睡眠時ポリソムノグラフィ検査→CPAP導入をしてもよいと考える。胃癌の進行度および、診療体制によるだろうが。

(補:検査ではないが、既往歴、心不全の既往や治療歴、失神の既往、NYHA分類、内服薬、Cr値上昇の理由を知りたい。TTEの情報では弁逆流や左室内、左房内血栓の有無も知りたい)

*DCMの麻酔管理の原則
・麻酔薬による心筋抑制を最小限にする
・後負荷の上昇を避ける
・循環血液量を維持する

2)麻酔法および術中管理
1. 麻酔法の選択およびその理由について。
抗凝固薬等の内服等の禁忌事項がなければ、硬膜外麻酔併用の全身麻酔(気管挿管)を行う。上腹部切開は術後痛が強い。術後の呼吸機能悪化によって心仕事量が増えることは避けたい。また、術後痛がコントロール出来ないと、交感神経活動が亢進し、術後の血行動態が悪化する可能性がある。

2. 麻酔導入はどのように行うか?具体的に。
・局所麻酔下に動脈圧ライン(洞調律で過度のARなければVigileo-FloTracにて)を挿入。
・麻酔導入はフェンタニル0.2-0.3mg(or ± レミフェンタニル)、ミダゾラム5mg(±プロポフォール)、ロクロニウム60mgで行う。喉頭蓋・声門周囲にリドカインスプレーをして、血圧上昇・頻拍を避けるように細心の注意を払って挿管する。早期胃癌であれば急速導入で良いと考えるが、内視鏡所見や自覚症状などから誤嚥の危険性が高いようならば迅速導入を考慮。気道確保は、肥満があるため、手元に経口エアウェイやLMAを準備した状態で。
・麻酔維持は低濃度のセボフルラン1-1.2%程度とレミフェンタニル0.25γ程度で行う。術中の血行動態維持のためDOAやDOB3-5γ程度,塩酸オルプリノン0.2γ程度を併用する。
・麻酔導入後にCVC、PACを挿入する。

・末梢動脈疾患等の禁忌がなければ、IABPはスタンバイしておいた方がよいと考える。
・DCMに合併する致死性不整脈に備えて経皮ペーシングパッドか体外式除細動器を準備しておいたほうが良いと考える。薬剤はアミオダロンかニフェカラントを準備。

3. 術中に必要とされるモニタリングの選択とその理由。
・FloTrac-VigileoによってSVV,SV,CIの経時的評価
・PACで肺動脈圧、PAWP、SvO2の経時的評価
・CVPは過度の上昇がないかチェック。脱水のチェックには利用しない。
・胃の手術なのでTEEは使用しない

4. 本症例での硬膜外麻酔の使用法について。
過度の血圧低下によって致死性不整脈が術中に発生する可能性があるので、少量投与を原則とする。術中はボーラス投与は行わず、4ml/h程度の使用に留め、鎮痛は主にremifentanilやfentanylで行う。術終盤に血行動態が安定していれば2,3mlずつ局麻を投与し、覚醒時の疼痛がないように努める。


3)術後管理
1. 術後鎮痛と術後注意すべきことは。
・手術が短時間で終了し、出血が少なく、低体温でなく、循環動態が安定していれば手術室内抜管を考慮。抜管の有無に関係なくICUに入室する。
・鎮痛:硬膜外麻酔(0.2%ロピバカインor0.25%レボブピバカイン + フェンタニル2-5ug/ml)を4-6ml/h(2-4ml/1 push, lockout 10-20min)で行う
・術後注意点:輸液過多/過小、不整脈の発生、肥満や麻薬過投与による呼吸抑制

@参考文献
・塩酸オルプリノンが有効であった低心機能非心臓手術3症例の麻酔経験. 麻酔54巻7号 Page757-761(2005.07)
・拡張型心筋症を合併する患者の非心臓手術の麻酔管理. 麻酔53巻12号 Page1360-1368(2004.12)
・他

(麻) 生理学や計算問題、モニタリング、解剖- 麻酔科専門医試験に関連した知識

いざこういうふうに書きだしてみると、あちこちに間違いがあるような気がしますが。あくまでも過去問based試験対策用ノートということでご了承ください。私がよく間違える問題をもとにして作成していますので、これらの知識だけでは合格できないことと想像されます。試験までは随時訂正・加筆します。早く終わらないかな。
呼吸生理は王道かつ基本でしょうが
「ウエスト呼吸生理学入門:正常肺編」(MEDSi, 2009年)
が薄くてわかりやすくて練習問題も掲載されていて必要十分な気がします。過去問だけ解いても全然理解出来ない。高校生頃までは計算問題大好きだった筈なんだけどな。

***生理学的な知識***
 @臓器血流量(ml/100g/min)
・腎(420)>>心(84)>肝(57.7)>脳(53.6)

@臓器の酸素消費量(ml/100g/min)
・心(9.7)>腎(6.0)>脳(3.3)>肝(2.0)

@心拍出量に対する割合(%)
・肝(27.9)>腎(23.3)>脳(13.9)>心(4.7)


@冠循環の生理
・安静時:50-100ml/100g心筋/min  (*因みに心臓は300g程度)
・心筋酸素消費量:6-10ml/100g心筋/min -心筋酸素供給の70%に相当。
→冠静脈洞における酸素飽和度は30%、酸素分圧20mmHg。
・収縮期の冠血流は主に心室外壁に分布。内膜側の血流は外膜側の1/4以下。
・左冠動脈血流の70-85%は拡張期に供給。拡張期早期にピークになる
・右冠動脈の血流量は収縮期に増加し、血圧のピークに相応してピークになる。
・心室充満に対する心房収縮の影響は30%。重度のASでは左室拡張終期圧が上昇しているため心房収縮の依存度が通常より高くなっている。 46B33

@肝循環 48A72, 47A66 (*肝臓は1-1.5kg程度)
・門脈(PV)にはα受容体しかない。肝動脈(HA)にはα、βともにある
・酸素供給は肝動脈・門脈で50%ずつ。肝血流量はHA30%, PV70%。
・肝静脈の酸素飽和度は60-70%。
・イソフルランで肝血流↑、ハロタンは↓
・肝血流に最も影響するのは上腹部の手術操作(60%の肝血流低下?) 。

・バゾプレシン、エピネフリン、アンギオテンシンIIは門脈収縮
・グルカゴン、エピネフリンは肝動脈拡張(エピネフリン投与初期は収縮)
・麻酔中は肝血流の自動調節能なし

@脳循環 (*脳は1300g程度。体重の2%)
・成人の酸素消費量は3.5±0.3ml/100g/min
・PaO2 60mmHg以下で急速に脳血流量↑
・CO2応答性は20-80mmHgでS字状の変化を示す。*1 Torr変化で1-2ml/100g/min変化
 20mmHgでの脳血流量は20ml/100g/min
100mmHgでの脳血流量は100ml/100g/min。高CO2血症では脳血流自己調節能のプラトーが狭くなる。
 *安静時の成人正常の脳血流量は50±5ml/100g/minで心拍出量の15%
・PaCO2 40→80Torrの上昇で脳血流量は2倍になる。 49A44
・酸素代謝率は灰白質(80ml/100g/min)で白質(20ml/100g/min)の4倍高い。( )内は安静正常値
・脳酸素代謝率:27-37℃では体温1℃↓で7%↓。脳温18℃で正常の10%未満になる。(体温20℃で平坦脳波になる。)
・軽度低体温療法(32-34°)では20-30%の脳代謝率↓
・チオペンタール投与で…鎮静濃度では脳酸素代謝率は30%↓、平坦脳波出現レベルでは50%↓。それ以上は低下しない
・デクスメデトミジンは脳血流量↓

@呼吸関連
・生理学的死腔:解剖学的死腔と肺胞死腔
・坐位→仰臥位でFRC↓、肺胞死腔↓となり、生理学的死腔は減少する
・1kPa=7.5mmHg, 1mmHg=0.1333kPa
例:PaCO2 40mmHg = 5.32kPa
・pH = 6.10 + log[HCO3- ]/0.03Pco2

@ヘモグロビン酸素解離曲線(頻出)
・P50 :酸素飽和度50%を示す酸素分圧
・正常値 大人:26.7mmHg > 胎児型HbF 20mmHg *胎児HbはSpO2に殆ど影響しない
・妊娠末期では右方移動26.7→30.4mmHg
・因みにPvO2 40mmHg → 酸素飽和度75%は覚える
・因みにHb分子(α2β2)の分子量は64500、ヘムを4つ含む。

右方偏位 (P50↑)
要因 : アシドーシス(水素イオン↑)、高体温、高炭酸ガス血症、2.3‐DPGの上昇(例:慢性低酸素症、貧血、高地環境)、多くの吸麻
作用 : 組織で酸素を放出し易く、動脈血酸素分圧が高くないとHbと結合し難い。

左方偏位 (P50↓)
要因 : アルカローシス、低体温、低炭酸ガス血症、2.3‐DPGの低下
作用 : 組織で酸素を放出し難いが、動脈血酸素分圧が低くてもHbの酸素化が可能。

注:DPG…ジホスホグリセリン酸。2.3-DPGは嫌気性解糖の中間代謝産物。
*オピオイドは解離曲線の位置に影響を与えない

@動脈血酸素含量 (頻出)
CaO2(ml/dl)=Hb×1.36×SaO2+0.003×PaO2(正常値 20=14.5×1.36×1.0+0.003×100)
混合静脈血酸素含量
CvO2(ml/dl)=Hb×1.36×SaO2+0.003×PvO2(正常値 15=14.5×1.36×0.75+0.003×40)
心拍出量
CO(l/min)=VO2/(CaO2-CvO2)
→変形すると…
酸素消費量VO2 = (CaO2-CvO2)xCO 通常は約200-250ml
全身に送り出された血液中にある酸素、から、還って来た黒い血液中の酸素、を引いて、1分あたりの循環血液量、を掛ければ、確かに酸素消費量になる・・・。

@肺胞気-動脈血酸素分圧較差 (頻出)
A-aDO2=PAO2-PaO2
ここでPAO2=(760-PH2O)×FiO2-PACO2×{FiO2+(1-FiO2)/R)
簡易式
PAO2=FiO2(PB-PH2O)-PACO2/R
FiO2=酸素濃度、PB=大気圧760mmHg、PH2O=水蒸気圧47mmHg、R=呼吸商0.8

@二酸化炭素産生量VCO2の計算問題 48C38
(VCO2)(ml/min)= VA×FACO2
 VCO2 = 二酸化炭素産生量、VA = 肺胞換気量 (L/min)、FACO2= 肺胞気CO2分圧
VCO2=(VA×PACO2)/0.863
PACO2PaCO2
VA=500×10/1000 (単位をmlLに変換するため1000で割る。ここで死腔は無視) 
・・・と500ml×10/minならば
VA=5(l/min)、PACO2 =35mmHgとして
VCO2(5×35)/0.863 = 202.8(ml/min) が二酸化炭素産生量となる。

@呼吸商(R)の計算問題 48C39
(R)VCO2/酸素消費量(VO2)
VO2は吸気・呼気間の酸素濃度較差に分時換気量をかけて求められるので、吸気酸素30%、呼気24%とするとVO2(0.30.24)×500×10300  (46C40にもあり)
上記と組み合わせて
R=202.8/300 = 0.68

@笑気の容積の問題
・笑気の肺胞濃度が60%のとき、閉鎖腔の容積は何倍になるか?
→笑気負荷分による閉鎖腔容量増分をxとすると、
x/(1+x) = 60(%) / 100  ∴ x=1.5 なので、1+1.5 = 2.5 倍になる

@換気血流比(V/Q) (頻出)
・肺尖部では3.3、肺底部では0.6。平均は0.8(95%は0.3-2.1の間に分布)
・換気血流比=0 は換気がない状態。シャントとなる。(分離肺換気時のnon dependent lung)
・換気血流比=∞ は血流がない状態。死腔となる。肺気腫で増加する。
・分布勾配(肺尖部→肺底部) :血液は0.07→1.29、換気は0.24→0.82

@HPVが抑制されるとシャントが増大する
・HPVを抑制:低CO2血症、揮発性麻酔薬、ニトログリセリン、ニトロプルシド、Ca拮抗薬(ベラパミル、ニフェジピン)、エンドトキシン、イソプロテレノール、グルカゴン、プロスタサイクリン、NO
・HPVをわずかに抑制(臨床的に有意でない):亜酸化窒素
・HPVを抑制しない:チオペンタール、プロポフォール、ケタミン、フェンタニル、ジアゼパム、ドロペリドール、ペンタゾシン
・HPVを増強する:高CO2血症、局所のアシドーシス、NSAIDs、PDEIII阻害薬、アミノフィリン

@HPVに関連した知識
・HPVは主に200μm以下の前毛細管動脈で起こる。これら細動脈が細気管支や肺胞に隣接しており、肺胞低酸素症にすぐ反応できる。
・HPVは肺気腫患者では効果少ない
・低酸素領域が70%以上ではPaO2改善の効果は少ない
・肺血管抵抗は、肺気量がFRC(機能的残気量)を示すときに最小になる
・混合静脈血酸素分圧と肺胞酸素分圧が関与する
・空気下では肺胞気酸素分圧は100mmHgだが、40mmHgに低下すると肺動脈圧は40%程度上昇する。

@肺血流(立位における)の分布(West分類) (頻出) 下線部が肺血流量を規定
zone 1:肺胞内圧>肺動脈圧>肺静脈圧
血管が虚脱して肺胞死腔を構成
・PAP低下(肺血管拡張薬、hypovolemia)や肺胞内圧上昇(PEEPやCPAP)で拡大。
・立位では殆ど存在しないか、数十ml程度

zone 2:肺動脈圧>肺胞内圧>肺静脈圧
・血流量は肺動脈圧と肺胞内圧の差に依存。zone2内では、下方に向かって肺動脈圧が上昇するが、肺胞内圧は殆ど変化しない。つまり下方ほど血流量が増加。
waterfall現象:川の流量(血流量)は、上流圧(肺動脈圧)とダム(肺胞内圧)の高低差に依存し、下流の圧(肺静脈圧)に依存しない

zone 3:肺動脈圧>肺静脈圧>肺胞内圧
・血流量は肺動脈圧と肺静脈圧の差に依存。PACを留置するのはこの部位

zone 4:肺動脈圧>組織圧>肺静脈圧>肺胞内圧
・血流量は肺動脈圧と組織圧の差に依存。

@呼吸関連問題より
・37℃、1気圧において、血漿中の溶解する酸素の量は2.3vol%。
・15μmのエアゾル粒子の一部は細気管支~呼吸細気管支まで到達し,沈着する

@flow-volume曲線から得られる指標 47C27-28
FVC(forced vital capacity):最大吸気位から最大呼気位までの努力肺活量
PEF(peak expiratory flow rate):呼気流量の最大値である最大呼気流量
MMF(maximum mid-expiratory flow rate)75%肺気量位と25%肺気量位の2点間における平均呼気流量である最大呼気中間流量
V50V25:それぞれ50%25%肺気量位における呼気流量

@スパイロメトリから得られる指標
VC(肺活量)
・一秒量(FEV1.0)、一秒率(%FEV1)
・最大換気量(MMV)

@肺活量予測式
Baldwinの式
男性:VC(ml) = (27.63 - 0.112 ×age) × Height (cm) 女性:VC(ml) = (21.78 - 0.101 ×age) × Height (cm)
こんな式は覚えられないので…せいぜい(27-0.1×年齢)×身長でいいんじゃないでしょうか。
Ex:75歳男性160cmならば3Lくらい、75歳女性150cmならば2100mlくらい。

@機能的残気量(FRC: functional residual capacity)
・定義「安静換気の呼気時に、肺内に存在する気量」簡単なスパイロメータで測定できない。
・麻酔中は15-20%↓。コンプライアンス低下による
・低下する病態:肥満、仰臥位、Trendelenburg位、腎摘位、砕石位(横隔膜頭側移動)、麻酔導入、筋弛緩薬、高濃度酸素(吸収性無気肺のため)
・上昇する病態:側臥位(ただし下側肺は低下、上側が上昇して全体としては増加)、腹臥位、高齢者(高齢者はクロージングボリュームCV>FRC *因みにCVとは…肺の下の部分の気道が閉鎖しはじめるときの肺の残気量。とくに肺気腫の早期診断に利用される。 この容積がFRCを上回ると通常の吸気でも末梢気道が閉塞する。若年成人のCVは肺活量VCの10%、65歳では40%。クロージングキャパシティCC=CV+残気量RV)

@動的肺コンプライアンス(Cdyn) 基準値は40-80ml/cmH2O
・Cdyn = VT / (Ppk - PEEP)     *Ppk:最高気道内圧。
・Cdynは気道抵抗の影響を受ける。
*気管支喘息、気道分泌物増大で低下
・静的肺コンプライアンスはPpkの代わりにPplatを代入
*無気肺、肺水腫、気胸、胸郭の外的圧迫、胸水貯留で増大

@肺の代謝
・肺循環で除去される:ノルアドレナリン、セロトニン、ブラジキニン、ATP、ADP、AMP、プロスタグランジン(E1,E2,F2α)、ロイコトリエン
・殆ど影響なし:アドレナリン、ATII、バゾプレッシン、イソプロテレノール、ドパミン、ヒスタミン、PG(A2, I2)
・生体内変化受ける:ATI(→ATIIに)

@酸素療法 47C23-24
・リザーバ付きフェイスマスクの酸素:6L60%7L70%8Lで80%9-10Lで≧80%
・単なるフェイスマスクの酸素:5-6L40%6-7L50%7-8L60%
・鼻カヌラ:1Lごとに4%6L44%

@呼吸関連過去問など
・動脈血と混合静脈血のCO2含有較差は約4vol%
・血漿中の重炭酸イオンは炭酸分子の約14000倍存在
・呼吸性アルカローシス→低カリウム血症→ジギタリス中毒

@酸塩基平衡
・α-stat:37℃で測定し体温補正を行わない方法。生物は低体温下においてpHが上昇し、Paco2
が低下するのは正常な反応であるとする考え方。
・pH-stat:患者体温に補正した後に、全ての温度でpH=7.40を正常とする管理。
・血ガス測定時のHb酸素飽和度の変化は0-42℃では2%未満
・CO2の運搬の70-80%は重炭酸イオンとして、15%はカルバミノの結合で運搬される
・動脈血と混合静脈血のCO2含量較差は4vol%
・Bohr効果:血中CO2含量↑ → HbのO2との親和性は低下、組織で酸素を遊離しやすくなる。

@反射
・Bainbridge反射:心房後壁大静脈、右心房中隔、肺静脈心臓部などで静脈還流量が増加し、機械的に引き延ばされ、伸展受容器が興奮→迷走神経心臓枝の求心性神経を介して反射→心拍数↑ 心拍出量↑
・Bezold-Jarisch反射:心機能を抑制する反射。左室伸展受容器刺激→迷走神経無髄C線維→交感神経抑制と副交感神経刺激(徐脈、血圧低下、冠動脈拡張)。脊麻時の極端な徐脈の原因と考えられている。
・Hering-Breuer reflex(肺伸展反射):肺膨張→気管支平滑筋の伸展受容器が興奮→迷走神経→延髄背側の吸気中枢の抑制→呼気が起こる
・Aschner反射:眼球心臓反射のこと。眼球圧迫刺激→三叉神経第1枝(求心路)→延髄(反射中枢)→迷走神経にふくまれる副交感神経線維(遠心路)→徐脈、血圧低下。
・頚動脈小体:主にPaO2の低下に反応して呼吸中枢刺激  (頚動脈小体についてはJ Anesth (2002) 16:298–309やN Engl J Med 2005;353:2042-55.やAnesthesiology 2010; 113:1270–9.参照)

@固有名詞がついた~~の法則
・Gay-Lussac:気体の体積が一定の時、温度上昇で圧力上昇
・Fick:分子の拡散速度は濃度勾配に比例
・Graham:分子量が小さいほど、拡散が速い
・Coulomb:2電荷間に働く力は、電荷が大きいほど強くなる
・Henry:液体に溶ける気体の量は分圧に比例
・Boyle:温度一定のとき、圧力と体積は反比例
・Charles:圧力一定のとき、体積は温度に比例
・Hagen-Poiseuille(ハゲン・ポアズイユ)の式:流量は両端の圧較差に比例する
Q=ΔPπr4乗 / 8ηl
Q:流量、ΔP:圧勾配、r:円管の半径、η(エータと読む):粘度、l:管の長さ
つまり・・・圧勾配と半径の4乗に比例、し、粘度と管の長さに反比例
注意:この式は層流の時に成立。乱流になると(Reynolds数が2000を超えると)適応できない

@アドレナリン受容体
・Gタンパク共役型受容体
アドレナリン受容体は現在α1、α2、βの三種類と、更に3つずつのサブタイプに分類
α1(α1A、α1B、α1C):血管収縮、瞳孔散大、立毛、前立腺収縮、子宮収縮
α2(α2A、α2B、α2C):血小板凝集、脂肪分解↓、インスリン分泌↓(膵臓 49A49)のほか様々な神経系作用
 ・α2刺激薬(デクスメデトミジン)によって局麻の作用時間↑、終末からのノルアドレナリン放出↓→血圧低下(延髄網様体副外側部のα2受容体を介した間接的なもの?)  49A2
*但し投与初期には血管平滑筋のα2刺激で血管収縮→血圧上昇なので注意
β1:心臓に主に存在し、心収縮力増大、脂肪分解活性化
*ドブタミンはβ1刺激が主。イソプロレノールもβ1刺激が主。ノルアドレナリンもβ1>>β2 (勿論α1激)
*エピネフリンは低濃度でβ(1も2も)刺激、高濃度でα刺激が強くなる。
β2:気管支や血管、また心臓のペースメーカ部位にも存在。気管支平滑筋の拡張、血管平滑筋の拡張(筋肉と肝臓)、子宮の平滑筋弛緩(切迫早産予防のリトドリンはβ2刺激薬)、各種平滑筋弛緩や糖代謝の活性化(インスリン分泌↑)、胆管拡張
β3:脂肪組織、消化管、肝臓や骨格筋に存在する他、アドレナリン作動性神経のシナプス後膜にもその存在が予想される。基礎代謝に影響を与えているとも。

@アセチルコリン受容体
・α2個、β、δ、εの4種5つのサブユニットから構成される
・胎児型(神経筋接合部外)ではεサブユニットの代わりにγサブユニットが存在。
・胎児型ACh受容体では、ACh放出は短時間の活性化のみ。脱分極性筋弛緩薬に感受性↑、非脱分極性筋弛緩薬に抵抗性高くなる。
・シナプス前膜のACh受容体は正のフィードバックに関与
・非脱分極性筋弛緩薬は、αサブユニット少なくとも1つをAChと競合して占拠
・ACh分子が2個のαサブユニットを占拠すると形態変化が起こりイオンチャネルが開口
・受容体が脱感作されると神経筋接合部の安全域が減少する

@ドパミン受容体
・DA1Rは交感神経末端のシナプス後に存在。DA2Rはシナプス前に存在
・DA1R:腎・腸管・冠血管の血管平滑筋に作用。拡張。尿細管のDA1RはNa利尿に関与
・DA2R:NAやおそらくAChの遊離を抑制。中枢のDA2Rは悪心・嘔吐に関係。ドロペリドールの制吐作用に関係(ドロペリドールはDA1RにもDA2Rにも作用)

@オピオイド受容体(μ、δ、κ)
・呼吸抑制:μ  *κに呼吸抑制なし 48A14
・精神刺激:κ
・鎮静:μ、κ
・利尿:κ
・消化管運動低下:μ、κ
・プロラクチン分泌↑;μ
・成長ホルモン分泌↑:μ and/or δ
・アセチルコリン分泌↓:μ
・ドパミン分泌↓:δ

@分布容積 47A2, 47A10他
Vd=X/C (X:体内薬物量…急速静注時は投与直後の薬物血漿濃度、C:血中薬物濃度)

@アンギオテンシンII
・肺で代謝受けない
・陣の輸出細動脈に作用して血管収縮
・下垂体後葉からバゾプレッシンの分泌促す
・アルドステロン分泌促す
・近位尿細管でNaの再吸収増加、塩と水の貯留もたらす。
・交感神経終末からノルエピネフリン遊離促進

***モニタリング関係***
@パルスオキシメータに関連して
一酸化炭素ヘモグロビン存在下では、940nm(赤外光)における吸光度は最低を示し、660nm(赤色光)における吸光度は酸化ヘモグロビンと類似するため、酸素飽和度は過大評価される。
・メトヘモグロビンは800-900nm付近の吸光度が高く、大量に存在するとSpO2 85%に収束。
SaO2>85%で過小評価
SaO2<85%で過大評価
・メチレンブルー:有意に↓↓↓数分
・ICGとインジゴカルミン:一過性低下
・マニキュア:青が一番影響大きい。僅かに低下

@脳波
・2.5MAC以上のイソフルランで脳波は平坦化
・低用量ケタミンでα波の消失
・フェンタニルは50‐70ug/kgで徐波化、δ波振幅増大。てんかん大発作様の神経興奮性反応を伴う場合あり(低濃度フェンタニルでは脳波は殆ど変化しない 49A31)
・バルビタールは:低濃度では・・・僅かに高振幅化、前頭葉β速波化、中等度では・・・前頭葉α紡錘波、高濃度で・・・全般性δ 高振幅→群発抑止→平坦脳波
・プロポフォール:少量で・・・α消失、低振幅前頭葉β↑、中等量で・・・前頭葉δ、waxing/waning α、大量で・・・バルビタールと同じ
・ドロペリドール(意識あり):周波数低下、ときに徐波化
・群発抑止(+)の薬剤:イソフルランとエンフルラン>1.5MAC、セボフルラン>1.2MAC、大量投与のバルビツレートとプロポフォール
・ベンゾジアゼピンで群発抑止は起こらない。
・覚醒時脳波はβ波(>13Hz)主体、閉眼でα波(8-13Hz)が後頭葉優位に。
*因みにθ波:4-7Hz、δ波<4Hz
・脳幹聴性誘発電位でV:外側毛帯、VI,VII:下丘由来。笑気はこの電位に殆ど影響なし

・ケタミン0.25-0.5mg/kgではBIS値は変化しない
・70%までの笑気はBIS値に殆ど影響なし

@神経筋モニタリング
・TOFは脱分極性筋弛緩薬では減衰なし。原則1.0を示す。phase IIブロックでは低下する
・ACh受容体占有率、は低いほど筋弛緩効果が弱い(低いほど正常な筋力に近くなる)
・受容体占有率50% ≒ TOF 0.85となる。以下の状態で占有率50%
 ・100Hzのテタヌス刺激5秒で減衰なし *50Hzのテタヌス刺激5秒間維持、は占有率70%
 ・最大吸気力が-40cmH2O
 ・仰臥位で5秒の頭部挙上
 ・ベースラインと同程度の握力
 ・舌圧子を保持できる咬力

*テタヌス刺激:通常50Hzで5秒。正常では筋収縮が維持されるが、非脱分極性筋弛緩薬投与下やスキサメトニウムによるPhase IIブロックでは減衰fadeが認められる。理由:テタヌス刺激を持続していると、それまで神経終末から大量に放出されていたAChの貯蔵が少なくなって枯渇するため。非脱分極性筋弛緩薬によりACh受容体が占拠された状態では、筋収縮の減衰が認められる。48A17

他に重要なのは…(( )内はACh占有率)
・TOF 0.7(60-70%)
・触診上double burst刺激で減衰なし(60-70%)
・触診上TOF減衰なし(70-75%)
・肺活量20ml/kg(70%)
・1回換気量 5ml/kg (80%)
・TOF70%から90% までの自然回復に15分かかる


***解剖など***

@上気道解剖
・上喉頭神経(迷走神経)内側枝:喉頭蓋頭面(喉頭蓋頭面は舌神経)や声門上粘膜の知覚
・上喉頭神経外側枝:声門下粘膜前面の知覚、と、輪状甲状筋(内転)の運動
・下喉頭神経(反回神経):声門下粘膜の知覚、声帯ヒダの知覚、甲状披裂筋等の筋肉
・声門開大:後輪状披裂筋(後筋)
・声門閉鎖:甲状披裂筋、外側輪状披裂筋(側筋)、披裂筋(横筋)
*輪状甲状筋は声帯伸展や緊張作用
・喉頭反射は上喉頭神経→中枢→下喉頭神経→主に甲状披裂筋作用により声門閉鎖
*喉頭痙攣には上喉頭神経が関係している
*上喉頭神経ブロックは舌骨両端の尾側組織より施行。喉頭蓋下面から声門までの麻酔になる 48B28


@泌尿器系の解剖 、疼痛伝導 48A73
・腎:T10-L1
・精巣:T10-L1
・尿管:T10-L2
・膀胱:T11-L2(膀胱頂部)、S2-S4(膀胱頸部)
 *閉鎖神経は膀胱下側壁、膀胱頸部、外側前立腺部尿道に隣接して走行
・前立腺:T11-L2, S2-4
・陰茎:S2-4
・陰嚢:S2-4

@頭蓋底の孔
中頭蓋窩
・視神経管:II,眼動脈
・上眼窩裂:V1、III,IV,VI,眼静脈
・正円孔:V2上顎神経
・卵円孔:V3下顎神経、小錐体神経(舌咽神経→鼓室神経の延長)
・棘孔:中硬膜動脈、下顎神経硬膜枝
・破裂孔:上行咽頭動脈硬膜枝、導出動脈
・頚動脈管:内頚動脈
・茎乳突孔:顔面神経、後耳介動脈
後頭蓋窩
・内耳道:VII,VIII(内耳神経)、迷路動静脈
・頚静脈孔:S状静脈洞、下錐体静脈洞、IX、X、XI
・舌下神経管:XII、上行咽頭動脈硬膜枝

@成人の気道解剖 49A69他
・甲状軟骨上縁:C4 下縁:C5
・輪状軟骨:C6
・気管:C6(声門)からT4-5の気管分岐部まで。成人では15cmある。C型の軟骨20個
・声門から輪状軟骨下縁まで2cm。気管は10-13cm。 *満期産新生児の気管長は4cm。 47B26
・右主気管支は2.5cm(角度25°)、左主気管支は5cm(45°)
・気管分岐部前には肺動脈がある。

@腕神経叢ブロック
・母指尺側側副靭帯損傷の修復術の麻酔:
前腕橈側は筋皮神経の枝(前腕外側皮神経)が支配。手関節より末梢側まで支配していることがあるので、同部の手術時には筋皮神経をブロックしたほうが良い。(鎖骨下ブロックで外側神経束である)
・ちなみに正中神経(手のひらの第1指から薬指の橈側まで、と背側は第1指~4指の先端部分)は:外側、内側神経束が合流
・橈骨神経(母指球部と背側の手の皮膚環指半分まで):後神経束


@その他の雑駁な知識
・Le Fort I型骨折は上顎骨骨折
・Le Fort II型は上顎骨+眼窩底+鼻骨骨折 → 気道閉塞や複視
・Le Fort III型は上記+前頭蓋底 → 髄液漏、 気道確保問題に 
・舌の支配神経:
温痛触覚の前2/3は三叉神経、後1/3は舌咽神経
味覚の前2/3は顔面神経、後1/3は舌咽神経