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2011年10月18日火曜日

(麻) 周術期ACLSの簡単なまとめ

TEEとか末梢神経ブロックとか勿論大事なのですが、生死に関わるピンチのときに何も出来ないと麻酔科医のアイデンティティが大きく損なわれる気がします(TEEは勿論life threatening situationにもパワーを発揮しますが)。ピンチの際には下のまとめなんて見ている余裕は当然無く、頭より先に体を動かさねばなりません。鑑別診断リストなんて覚えようとしていたら覚えられませんが、瞬時に色々思いつかないと患者さんを永遠に失いかねません。
ちゃんと勉強しないとな…。

***
Anesthesiology. 2003 Aug;99(2):259-69.によると・・・
・非心臓手術で周術期に心停止を起こした症例を検討。
・1990から2000年の11年間、Mayoクリニックにて。
・518,294麻酔中223人が心停止。(4.3 per 10,000)
・対全麻では (7.8 per 10,000 during 1990-1992; 3.2 per 10,000 during 1998-2000)
・対局麻では(1.5 per 10,000)
・MAC(monitored anesthesia care)では (0.7 per 10,000)
・心停止後生存率は46.6%, 生存退院は34.5%.
・24人(0.5 per 10,000) は麻酔に直接原因のある心停止。
(つまり麻酔が原因は24/223人で心停止中10%弱)
・多変量解析では出血による心停止患者は生存退院率が有意に低い(P = 0.001).
・時間外(nonstandard working hours)心停止患者では生存率が低かった(P = 0.006)。
これは蘇生にかかわれる人出が足りないためであろう。
・心停止前に長期に低血圧が続く患者も生存率が低かった(P < 0.001).
・多くの心停止が麻酔関連原因ではなかった。麻酔関連心停止患者の多くは生存退院していた。
***

・心室性頻脈>150 bpmによる重篤な症状等があれば直ちに除細動する

@周術期にACLSを要す麻酔薬関連原因
・静脈麻酔薬過量投与
・吸入麻酔過量投与
・区域麻酔による高位交感神経ブロック
・局所麻酔薬による全身的毒性
・悪性高熱症
・薬剤投与エラー

@呼吸による原因
・低酸素血症
・急性気管支痙攣
・autoPEEP

@心血管系による原因
・迷走神経反射
・循環血液減少、出血性ショック
・緊張性気胸
・アナフィラキシー
・輸血に対する副作用
・高カリウム血症等の急激な電解質異常
・重度の肺高血圧
・腹腔内圧上昇
・ペースメーカー不全
・QT延長症候群
・急性冠症候群
・肺塞栓
・ガス塞栓
・眼球心臓反射
・電気けいれん療法

@オペ室での蘇生ポイント
・全麻下であれば患者の意識有無を呼びかけ確認する必要がない
・適切な人間にCPR開始を指示すること
・麻酔と手術を中止すること
・助けを呼ぶこと、除細動器をもってきてもらうこと
・挿管されてなければBMVを行い、その後挿管すること
・不用意にCPRを中止しない。脈拍触知よりもカプノグラフィの方が循環再開の鋭敏な指標となる
・換気は8-10回/分。100%酸素。
・全ての静脈ラインは全開にする

@以下は区域麻酔について
・区域麻酔中の心停止は1.8 per 10,000 patients (neuraxial)
・頻度は脊麻>硬麻 (2.9 vs. 0.9 per 10,000 ; P = 0.041) (Anesth Analg 2005;100:855-865).

@区域麻酔中の心停止治療
(注意:勿論下記だけでは全ての状況はカバーできない。局麻の過量投与や頻脈、ガス塞栓、産婦ではそれぞれの状況に応じて治療する必要あり)
・中止できる麻酔や鎮静薬は中止
・100%酸素で換気、挿管。
・症候性徐脈や脈なし10秒以上ではCPR開始。
・徐脈は1mgのアトロピンで治療
・1mg以上のアドレナリン静注で治療(0.1mg/kgまで)
・40単位のバゾプレッシン併用を考慮

@周術期PEA・心静止の鑑別診断(8H & 8T)
Hypoxia Trauma/hypovolemia (低酸素、外傷/循環血液減少)
Hypovolemia Tension Pneumothorax (循環血液減少、緊張性気胸)
Hyper-vagal Thrombosis of Coronary (迷走神経過緊張、冠動脈血栓)
Hydrogen Ion Tamponade (アシドーシス、タンポナーデ)
Hyperkalemia Thrombus in Pulmonary Artery (高カリウム血症、肺塞栓)
Malignant Hyperthermia Long QT syndrome (悪性高熱症、QT延長症候群)
Hypothermia Toxins (anaphylaxis) (低体温、薬物-アナフィラキシーなど)
Hypoglycemia Pulmonary HTN (低血糖、肺高血圧)

***
勿論、上記の記載は全てを網羅していません。臨床の問題に決まった答えは1つとしてなく、あくまでcase by caseです。
自分がこれまで治療に関わった、オペ室で心停止を起こした患者さんたちのことを、朧気に、しかしはっきりとシカゴで思い出します。

参考文献
Adapting ACLS to the Perioperative Period (Anesthesiology 2011 refresher course lecture summary)